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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第148話「笑う水銀」

「あ……ぐ……はぁはぁ……」

 蝋燭の僅かな灯りだけで照らし出された、窓が殆ど無い通路を一人の男が這っていた。

 男の全身は傷だらけであり、息も絶え絶えではあったが血は流れ出ておらず、代わりに身体の端から土くれにゆっくりと変わり、崩れ落ちて行っていた。

 男の名はマルコ。

 アキラたちが『マリス』と呼ぶモンスターの一体である。


「マルコんてば見事にやられたねー」

「うぐっ……?」

 そんなマルコにこの場にそぐわぬ明るい声が掛けられ、マルコは首だけを動かして自分に声を掛けてきた人物に顔を向ける。


「カ、カッコウか……た、頼む……早く『軍』様を連れて来てくれ……このまままでは……」

 そして、自分に声を掛けてきた人物が誰かを理解したマルコは、その人物に対して助けを求めるように手を伸ばす。

 だが……、


「うん。それ無理」

「なっ!?」

 マルコに助けを求められた張本人……真旗カッコウは極自然に、かつ笑顔でマルコの助けを求める声に拒否の意を示した。


「な、何故だ!?確かに我々は……ぐっ……我々は確かにかつて貴様が語ったように替えが利く存在だ。だが……だがそれでも、数に限りが有り、無駄に使い潰して良いような存在ではないはずだ!」

 マルコは痛む体を押して真旗カッコウに向けて声を張り上げるが、その悲痛な声を聴いても真旗カッコウは表情を一切崩さない。

 まるで、自分の家の近くで適当な虫や動物が鳴いていて、五月蠅くも無いが、気持ち良くも無い。

 ただの環境音だとでも言わんばかりに。


「カッコウ!今すぐ『軍』様を呼ぶんだ!これは……ぐっ!?」

「そろそろカッコウちゃんの耳障りになって来たし、ちょっと黙ろうか」

 ただ流石に聞きたくも無いのに間近で長時間鳴かれ続けるのはイラつくと言わんばかりに真旗カッコウは自分の得物をマルコに突きつけてその口を閉じさせる。


「確かにカッコウ様は貴重な存在で使い潰すわけにはいかないね。それは事実。でもさ、マルコんたちは違ったの。むしろ早く居なくなって貰わないと『軍』様にとっても困る感じなんだよねー」

「なに……を……」

「だからさぁ……」

 真旗カッコウは僅かに嗜虐的な笑みを浮かべると、楽しそうに……そう、まるで無邪気な子供が自分の手元でお気に入りの人形を振り回して遊んでいる時のような声で語り出す。

 今回の豊穣祭の奉納の舞を襲撃する計画には表向きの目的であるアキラの殺害だけでなく、裏の目的が含まれていたことを。

 裏の目的はどういう人間の頭を材料にしてアキラたちの言う『マリス』を作り上げるのが良いのかを調べる実験だったと言う事を。

 そして、その結果に至るまでを……。


「…………」

 真旗カッコウの話の最中、マルコは信じられないものを聞いたと言わんばかりの表情で終始無言だった。

 否、実際信じられなかったのだろう。

 マルコは、マルコの元になった人間が死んだ直後に作り替えられて生み出された存在だったからだ。

 だが、真旗カッコウの言葉はまだ終わらない。


「まあ、マルコんについては相手が悪すぎたって言うのも有るけどさ。カッコウちゃんも含めた他の子たちの戦いぶりを考えると、やっぱり肉は腐りかけが一番美味しいって話じゃないけど?カッコウ様のように完璧に壊れちゃってるか、そうでなくてもベイたんやシベルんみたいに幾らか壊れちゃってるぐらいが良いみたいなんだよねぇ。そんなわけでフレッシュミートなマルコんはお役御免。むしろ、『軍』様からしたら維持費が勿体無いからとっとと土に還っちゃっても構わないぜベイベーなわけなのです。あはははは、いいね。すっごく良いよその顔。もしかして何?自分は『軍』様には絶対必要な存在ですとか思ってたの?すっごいすっごい、そんなはしたなくてキモい妄想なんてカッコウ君でもしませんよーきゃははは。てか、幾ら相手が悪かったってただ一方的に嬲られただけのマルコんに今後の利用価値なんて冷静に考えても有るわけないじゃないですかー。ぷぷぷ、今の格好含めてすっごくダサいよー」

 徹底的に、それこそまるで蟻の巣を見つけた子供が巣の外に出ていたアリを片っ端から踏みつけて蹂躙した後に、巣の最深部にまできちんと行き渡るように水を流し込むかのようにマルコに対して嘲笑と侮蔑と冷酷な結論に彩られた言葉を叩きつけていく。


「ふ、ふざけるなああぁぁ!!」

 そして、遂に真旗カッコウの言葉に耐え切れなくなったマルコは全身の痛みを無視して体を無理やり動かすと、手に海水で出来た矛を作り出して真旗カッコウに跳びかかる。

 マルコの中にはモンスター同士で争うなと言う『軍』の命令も有ったはずだが、この時その命令は完全に無視されていた。

 当然だ。


「はぁ、めんどくさいなー」

「なっ!?」

 これは争いでは無く、ただの一方的な処分なのだから。

 直後、マルコの左胸に在った紫色の核は銀色の液体によって作られた矛で貫かれ、その四肢と首は同じ素材で出来た剣によって切り離され、トドメと言わんばかりに上から降ってきた銀色の立方体によって磨り潰された。

 元の姿を一片たりとも残さない程に。


「ノーフェ」

「…………」

 真旗カッコウの言葉と共に顔に仮面のような物を付け、左胸に赤にかなり近い紫色の核を持った人影が現れる。


「そこの土くれを始末しておけ。私は今回の件について『軍』様に報告してくる」

「……御意」

 真旗カッコウはそう言うと、マルコだった物に背を向けて歩き出す。


「さあて、これからどうしようかなぁ……くすくすくす」

 顔には一見すれば穏やかな笑みを浮かべ、瞳には窓の先に広がる雪と氷と鏡石ばかりの光景を映し、全身には同族すら逃げ出すような殺気と狂気を漲らせながら。

マルコん乙!


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