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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第145話「奉納の舞-12」

「トキさん、イース!」

「任せてください!」

『何時でもいいぞ!』

 俺は黒凍姫を今までにない特殊な形で構える。

 それは使っている道具の違いで本来のものとは少々違うが、奉納の舞を始める時の所作。

 そしてトキさんもイースもその動きを一目見ただけで、これから俺がしようとすることを理解し、俺を補助するべく動き出す。


「行くぜえぇアキラアァ!」

「さあ、防げるものなら防いでみるがいい!」

 蒸気を発さなくなった代わりに筋肉から放出する熱量を増大させたベイタが俺たちに向かって駆け出し、何時でも爆破できるように右手を大きく膨らませたシベルが右手の指先を糸のように伸ばしてくる。

 その動きはシチュウミカグラデンの効果で鈍っているとは思えない程に鋭く速い。


「『今宵、高天原の神々に我らジャポテラスの民が捧げるは、今年も豊かなる実り事への感謝、我らを助け、守護してくださることへの感謝……』」

「させません!」

『我は氷蜥蜴のイース。我が血よ。凍てつく五つの礫となりて我が敵を討て。巫術・ゴレンヒヒノヤ!』

 やがて、俺がゆっくりと奉納の舞を始めると同時にトキさんがベイタの攻撃を盾で防ぎ、シベルの糸のような攻撃はイースが生み出した五本の氷の矢によって迎撃され、空中で爆破四散する。


「『そして、死して護国の鬼と成りし戦士たちの荒御魂を鎮め、奉るがための舞なり』」

「っつ!?アキラ!テメエまさか……ぐっ!?」

「隙だらけですよ!」

 俺の紡ぐ祝詞から何をしようとしているのかを察したベイタが叫び声を上げる。

 が、当然その隙を見逃すトキさんと俺では無く、トキさんが奉納の舞を意識した一歩を踏み込みながら盾を突き出す事によってベイタの体勢を崩すと、続けて円を描くように俺と立ち位置を入れ替え、ベイタの前に立った俺は地面に着いた片足を軸として白湧騎を振り回し、ベイタを吹き飛ばす。


「~~~~~♪」

「分かっていますので大丈夫です」

 俺は視線だけでトキさんにこの先の奉納の舞にもついてこれるかを問いかけ、トキさんは自信をもって頷いてくれる。

 そう。本来なら奉納の舞は俺、満月さん、伊達さんの三人でやる予定だったものであり、トキさんはそのために必要な準備も何も行っておらず、それだけを考えるのならば手伝える事などほぼ存在しない。

 だが、トキさんはずっと俺たちの練習を見ていた。


「切り裂けぇ!」

「こっちです」

『我は氷蜥蜴のイース。吹けよ北風、凍てつく風。巫術・ノスフウフキ』

「ぬっ!?」

 シベルの剣から細かい宝石のが高速で振動する刃が放たれる。

 俺はトキさんに腕を引かれる形で避けると、続けてイースが発動したノスフウスキによってシベルは吹き飛ばされていく。

 そして、トキさんが今した俺の腕を引くと言う動作も、俺が今している事の補助として働き、俺の力を高めていく。

 そう。トキさんはずっと俺たちの練習を見ていたのだ。

 だから、満月さんたちほどではないが、奉納の舞における俺の補佐を十二分に行うことが出来る。


「~~~~~♪」

「ははは!流石だアキラ!だがそいつは完成させねえぞ!今ジャポテラスに居る俺たち『マリス』を纏めて仕留めることが出来ちまうそれは使わせねえ!!」

「何っ!?なるほど、そう言う事ならばもっと激しく果敢に攻めなければな!」

 ベイタはそう叫んでシベルにも俺たちがしようとしている事を伝えると、シベルと一緒に今までよりも明らかに激しくこちらを攻めたててくる。

 そう。ベイタの言った通りだ。

 今年の奉納の舞は、例年と違って今年一年の無事と実りを祝うだけでは無く、『軍』との戦いで散っていった者たちに捧げる鎮魂の舞でもある。

 そしてそれは通常のモンスターと形は違えども、死者を利用していることに変わりない『マリス』にも致命的な影響を与える事となる。


「一、二ッ、三!」

「ちぃ!?小娘如きが俺とアキラの仲に割り込んでくるんじゃねぇ!!」

『巫術・トウノミヤ!』

「小癪な!拙者たちと直接闘う気は無いと言うのか!!」

 ベイタとシベルの攻撃が四方八方から迫りくる中で、俺とトキさんは踊るように……いや、実際踊りながら、歌いながら攻撃を避けていき、どうしても避けられない攻撃だけはトキさんの盾で、イースの右目と巫術で、俺の黒凍姫と白湧騎で時に防ぎ、時に撃ち落としていく。


「カグツチ様!」

「シナツヒコ様!」

「ぬぐおっ!?新手か!」

 やがて、状況は少しずつ傾きだす。

 始めに起きたのは大量の空気を供給されることによって火勢を増した巨大な火球の射出であり、それが爆発することによって大量の熱と炎が撒き散らされ、その熱に反応したシベルの右手が爆発すると共に表皮を焦がす。


「タクハタチ様!」

「サーベイラオリ様!タヂカラオ様!」

「コイツは……ぬぐっ!?」

 続けてベイタに布状の障壁が幾つも絡み付いて一瞬ではあるがその動きを止めると、直後にベイタがまるで見えない鈍器で上から殴られたかのように苦悶の表情を浮かべる。


「~~~~~♪」

「皆さん遅いですよ!でも、ありがとうございます!!」

「これでも全速力ですわよ!ですが、間に合って幸いですわ!!」

 トキさんが僅かに残っている観客席の上に在る人影に向けて言葉を発し、人影の主がそれに応える。

 どちらも誰がやったのかなどわざわざ語るまでも無い。

 その声と、力だけで分かるからだ。

 そう。舞台西の『マリス』を撃退し、『マリス』の張った結界を解除したトキさんと俺以外の特務班……つまりは穂乃さんたちがやって来たのだ。

 だが、援軍は穂乃さんたちだけでは無かった。


「くっ……この速さどうなっている!?」

「壊したはずの舞台が復活しやがっただと!?何処まで俺の予想を超えるつもりだ!?」

 シベルに向かってハンマーを振るソラさんの動きは明らかに普段よりも俊敏な物となっており、気が付けば激しい戦いの最中で破壊されたはずの奉納の舞の舞台が不確かな幻影ではあるものの見事に再現されていた。

 誰がやったのか?決まってる。伊達さんと満月さんだ。どうやら二人とも結局戻って来て、安全圏からだとは思うが、こちらの支援をしてくれているらしい。


「撃てえええぇぇぇ!!」

「「!?」」

 天秤の傾きはまだ止まらない。

 ベイタとシベルに向かって、様々な神力による『マリス』だけを狙い撃ちにするようにした射撃攻撃が雨のように降り注ぎ、その動きを少なからず鈍らせていき、そうして生じた隙を縫ってソラさんを筆頭にベイタとシベルに対して直接的な攻撃も仕掛けていく。


「…………」

 その中で、俺たちの側の援軍に紛れて俺に向かって剣を振るおうとする男が居た。

 恐らくは人間に化けることが出来る『マリス』とやらが一発逆転を掛けて俺を仕留めに来たのだろう。

 だが、その光景を見ても俺もトキさんもただ笑うだけだった。

 姿こそ見えないが、イースも同じだろう。


「させないでやんすよ!」

「がっ!?」

 なぜならば男が剣を抜いた直後、その背後に現れた三理マコトがその背に短剣を突き立てていたからである。

 表の守りも、裏の守りも既に万全と言ってよかった。


「『最後に……』」

「っつ!?拙いぞシベル!もうすぐ完成する!!」

「ちっ!?出し惜しみは無しだ!拙者の全力を見せてくれる!!」

『我は氷蜥蜴のイース。我が望むは氷河断つ氷水銀の剣』

 そう。此処に来て状況は完全に俺たちの側に傾いたのだ。

 故に奉納の舞を完成させるだけだった。


「『この祝詞をもって……』」

「アキラさん!」

「我に残された全ての力を込めた一撃をもって……」

『それは空漂う水と、我が血の間に産まれし戦士にして英雄の一人』

 その中で、連続で右手を爆発させる事によって周囲を囲っていた人間たちを吹き飛ばし、飛び越えたシベルが左手に持った剣を振りかぶった状態で俺に迫りくる。

 どうするかは既に決まっていた。


「死ねえええ!!」

「させません!!」

「『奉納の舞を……』」

『我が憑代アキラ・ホワイトアイスの手の内にて今こそ顕現せよ』

 周囲の援軍からだけでなく、自身でも全力で盾を強化したトキさんがシベルの剣を真正面から防ぎ、その間からは激しい火花と音と、制御しきれなかった分の神力が周囲に漏れ出して、発生した力の奔流が周りの人間たちを仰け反らせ、威圧していく。

 その中で俺は黒凍姫を両手で持った状態で横に構えると、まるで剣を扱うように振っていく。


『マキュリシアンノツルギ!』

「『締めくくるとす!』」

 そしてその銃口がシベルの方を向く直前に俺は引き金を引いて銀色の大剣を発生させると、トキさんが身を仰け反らしてマキュリシアンノツルギの軌道から逃れるのに合わせて一閃。


「がっ!?」

「ちっ、カッ……!?」

 シベルの身体が胸の部分で切り裂かれるのと同時に奉納の舞が完成し、剣の振りに合わせたかのように奉納の舞が捧げられた証である光が発せられ、全てが白く塗りつぶされていく。

 俺にはその光が奉納の舞の舞台どころかジャポテラス中に広がっていくのが感じ取れた。

 この光はあらゆる穢れを払うものだと言う事が直感できた。


 そして……光が治まった時。

 光が発せられる前にベイタとシベルが居た所には、二人だったと思しき土くれが横たわっていた。

奉納の舞終了でございます。

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