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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第144話「奉納の舞-11」

「で、そいつをどうするつもりだ?」

「こうするんだよ。『塩の柱よ。我が四辺に赴き、己が役割を果たせ』」

 白湧騎に跨った俺が黒凍姫を振り上げると同時にシローズノグラドシロが解除されて白い壁が崩れ去っていく。

 そして俺の周りに浮いていた四本の塩の柱がそれぞれの方向に飛んでいく。

 ただ、この巫術はこれで終わりではない。


「『一にして南の柱よ。汝、我らが身を焼いて清めたまえ』」

 南の方に行った塩の柱が火を噴き上げるのと同時に、俺とトキさんの身体が一瞬だけ炎に包まれ、その身に流れ込んでいた穢れが祓われる。


「貴様何を……」

「まあ待てよ」

「『二にして西の柱よ。汝、その身砕きて空を払い清めたまえ』」

 俺の行動をシベルが阻害しようとするが、何故かそれをベイタが片手を出してシベルの動きを制する。

 そしてその間に俺が行った詠唱によって、西に行った塩の柱が粉々に砕け散り、風に乗った塩によってこの場の空気に含まれていた穢れが薄められていく。


「『三にして北の柱よ。汝、その身溶かして場を流し清めたまえ』」

「ベイタ!貴様、拙者の邪魔を何故する!?」

「折角だ。お手並み拝見と行こうじゃねえか」

 北に行った塩の柱が空気と地面に溶け込むように消え、西の柱によって薄められた穢れが奉納の舞の舞台の外に押し流されていく。

 加えて、どうやらベイタは余裕のつもりなのか、俺がやる事が終わるまで待つつもりらしい。

 舐めやがって……いいだろう、それ相応のものを見せてやろうじゃねえか。


「『四にして東の柱よ。汝、その身分かちて、根を張り、枝葉伸ばし、穢れに満し外と穢れ無き内なる場を区切りたまえ』」

「それにだ。そもそもとしてお前の兄貴は弱っている相手を殺して、それで満足するような玉だったのか?強力な相手を倒す方がよっぽど嬉しいだろうに」

「……。いいだろう。そこまで言うのならば待ってやる。だが、今後は背後にも気を付ける事だ」

 東に行った塩の柱があらゆる方向に対して無数に枝分かれし始め、奉納の舞の舞台と、外を分ける様に薄く薄く塩の膜を作り始める。

 そしてその間にベイタはシベルの説得を終え、二人は揃って横に並び立ってこちらを向く。

 その顔に浮かぶのは笑顔であり、その身には今までよりも明らかに殺気が満ち溢れている。


「『終にして中の柱よ。汝宿るは我が身、我が心、我が魂。場に捧げられし我が血潮を号令として、この場を我が御神楽舞い踊るがための舞台として全ての穢れを鎮めたまえ。巫術・シチュウミカグラデン』」

 詠唱が終わるのに伴って俺は黒凍姫を振り下ろし、黒凍姫の銃口が俺の足元の地面に触れるのと同時にシチュウミカグラデンが発動。

 今までの詠唱によって区切られた場にあらゆる穢れの存在を許さないかのように清められた場が出現する。


「これは……『マリス』たちが張っている結界と似ていますが……」

「なるほど。俺たちの『神如きが(ミス)吠えるな(マズル)』の属性違いと言ったところか」

「つまりはこれで拙者たちと貴様等がこの場から受ける影響を対等にしたと言うわけか。してやってくれる」

 そして、俺が説明するまでも無くトキさんたちもシチュウミカグラデンの効果を察し、いつ戦いが始まってもいいようにそれぞれに武器を構える。

 ただしかしだ。

 一つベイタたちに言っておくことがあるな。


「一つ訂正させてもらおうか」

「ああん?」

「何だ?」

「“対等”じゃあないぞ」

 そう俺が宣言し、ベイタとシベルの顔が訝しげに歪んだ瞬間。

 この場を覆っていたもう一つの結界……ベイタたち『マリス』の張っていた『みすまずる』とか言う結界が解除され、結界がシチュウミカグラデンだけになった影響として俺とトキさんの体に力が満ち、それと同じくらいベイタとシベルの身体から力が抜けるような気配がする。

 どうやら穂乃さんたちが西の方を解除し、正体は分からないが東の方も誰かがやってくれたらしい。


「ちっ……役立たず共め……装置の一つすら守れんのか……だが……」

「ひゅう~なるほどこりゃあ確かに対等じゃあねえな……だが……」

「アキラさん」

「分かってる」

 だが、明らかに状況が不利になったにも関わらず、シベルはこの場に居ない他の『マリス』を非難するような事を口走り、ベイタは感心したように口笛を吹いた。

 その様子に俺もトキさんも思わず警戒感を露わにする。

 まだ隠している何かがあるのではないかと。

 結論から言えばベイタたちは何かを隠しているわけでは無かった。

 ただ……


「「だからこそ殺し甲斐がある!!」」

「「っつ!?」」

 こいつらは知っているだけだ。

 目標を達成することが困難な状況になればなるほどに、成し遂げた時の快感が大きくなることを。

 自分たちの望みがどういうものであるかを。


「ひひゃひゃひゃ、いいねえぇいいねえぇ!流石は俺の愛するアキラだ!俺の予想を何段階も容易く上回ってくれるぜ!だがまだ足りねぇ!もっとだ!もっと殴り愛を!血の流し愛を!全力を尽くした殺し愛を繰り広げて俺にお前を感じさせてくれ!!」

「そうだ!今なら分かる!これで良かったのだ!悔しいがベイタの奴が言った通りだ!戦いを愛し、戦いに生きた兄者ならきっとこう言うに決まっている!『絶望的な状況で掴んだ勝利にこそ意味がある』と!いいぞ!やってくれる!拙者はやってやろうぞ!!」

 ベイタとシベルはひとしきり笑い声を上げた後、それぞれに己の内に秘めた欲望をシチュウミカグラデンによって弱体化しているとは思えない量の殺気と共に露わにする。


「さあアキラ……」

「これからが本番ぞ」

 そして、まるで顔の筋肉を動かすのに使うほんの僅かな力も外に出すのも惜しいと言わんばかりに二人は表情を消し、殺気を収め、構えを取ると共に闘気をその身に漲らせると、漏れ出たと評するには多すぎる量の闘気を俺たちに向かって叩き込む。

 その闘気を感じ取った事で理解する。


「なるほどこりゃあ前言撤回だな」

「ですね……」

「ここまでやっても、やっと対等だ」

 まだ勝負は分からないと。

弱体化したはずなのに、弱体化したように見えません

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