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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第135話「奉納の舞-2」

 ベイタとシベルの手によって『神如きが(ミス)吠えるな(マズル)』が発動されたのと同時刻。

 奉納の舞の舞台から北に行ったところにいた田鹿トキ、田鹿ソラ、三理マコトの三人も異変と、倒すべき相手を察していた。


「なるほど。アレが私たちの相手ですか」

「で、その後ろに在るのがこの妙な空気を発生させている元かな?ここは範囲外みたいだけど」

「たぶん、それで間違いないでやんすよ」

 三人の目が向けられた100mちょっと先には、周囲の他の建物よりも高いコンクリート製の建物が建っており、その屋上には金属製と思しき奇妙な造形物が突き刺さっていて、その前には弓矢を携えた男が挑発的な笑みをこちらに向けて立っていた。


「貴様等が特務班とか言う雌犬共か!」

「ああん!?」

「ソラ?」

「あっしは男でやんすよー。その前に特務班でもないでやんすが」

 男からトキたちに向けて声が発せられ、その声を聴いたソラは普段の彼女からは想像できないような声音と共に怒りの感情を露わにする。

 その様子にトキは一瞬だけソラに意識を向けようとするが、直ぐに目の前に敵が居る状況であることを思い出して目の前の敵に意識を戻し……何となくではあるが未来視の能力を発動させずに聴覚保護に力を回したままにしておく。


「俺の名前は『嘲笑(マック)』のアントニオス!死にたくないなら尻尾を巻いて逃げ出しな!お前らのような金魚のフン如きに俺が倒せるはずがないんだからな!!」

「言わせておけば……トキ姉ちゃん!絶対に潰すよ!あいつは絶対に潰すよ!!」

「これは……」

「深く考えている暇は無いでやんすよ!」

「はん!やれるものならやってみな!」

 そして、男……アントニオスの言葉によって頭に血が上ったソラが一歩目を踏み出し、それを迎撃しようとアントニオスが弓に矢を番えるのを皮切りに舞台北での戦いは始まった。



-----------



 同時刻、舞台南の森林公園。


「敵だな……」

 比較的周囲に木々が無く、開けた場所であるそこには、四人分の人影と半分以上が地中に埋まった金属製の奇妙な造形物があった。


「ええ、そうです。ジャポテラスを守るためにも」

「アキラ様を助けるためにも」

「貴方を倒させていただきますわ」

 奇妙な造形物の側に立っている人影の声を受けて穂乃オオリ、布縫ユイ、風見ツツジの三人がそれぞれに獲物を構えた状態で、残る一つの人影の主である赤い髪を短く刈り上げ、両手に鉤爪を付けた男を睨み付ける。


「……。名前ぐらいは名乗ってやる。『土竜(モール)』のタル・ピダエ・モゲラモルだ」

「……。どうして名前を?」

 男……タルの名乗りに穂乃オオリが訝しげに眉を寄せる。

 だが、タルは穂乃オオリの事など知った事ではないと言わんばかりに自身の背後に在る奇妙な造形物を地面の中に沈めると、自身もゆっくりと足の先から地中へと沈んでいく。


「知っておくべきだろう。己を殺す人間の名ぐらいは……」

「上等ですわ。その言葉、この穂乃オオリが熨斗を付けてお返ししてあげますわ!」

 そして、タルの頭が地面の中に沈む直前にその口が開かれ、発せられた言葉に返すように放たれた穂乃オオリの火球と共に舞台南でも戦いの火ぶたは切られた。



-----------



 さらに同時刻、舞台西のやや傾斜がある坂道沿いの住宅街。

 そこには他の場所と違って多くの人影が在った。


「やれやれ、敵がいるとは聞いていたが、モンスターでは無くこんな可愛い嬢ちゃんとはの」

「油断をなさらぬように。相手は討伐班にも多大な被害を与えている『マリス』の一体です」

「「「……」」」

 人影の大半が身に付けているのは治安維持機構の制服であり、治安維持機構の討伐班、治安班、見回り班の中でも特に戦闘能力優れた面々がその場には集められていた。

 そしてその先頭に立つのは、治安維持機構見回り班総班長である空傘ヤカラスだった。


「分かっておるわい。が、今の儂は無駄な争いは好まん。もし嬢ちゃんが後ろに在るソイツを自身の手で壊して帰ってくれるのなら見逃してやろうかと思ってな」

 空傘ヤカラスは仕込み杖から剣を抜いて、その切っ先をこの場で唯一治安維持機構の制服を身に付けていない相手に向けると、自信に満ち溢れた笑みと共に降伏勧告とも取れる言葉を投げかける。


「随分と冗談がきついですね」

 だが、その言葉を投げかけられた当の人物……右手に杖を、左手に複数の試験管を持った女は空傘の言葉を一笑する。


「私は『(メディシン)』のイシヤ・ランポ・ホスピイタルです。まさか……」

 イシヤが左手に持った試験管を地面に叩きつけて割ると薄紫色の煙が立ち昇り始め、煙はイシヤの背後に在った奇妙な造形物をその煙の中に覆い隠される。

 そしてイシヤは言う。


「こんな見るからに弱そうな女一人を相手にするために何十人も仲間を連れてくるような老いぼれに私が負けるとでも?」

 お前ら如きは眼中にないと言わんばかりの言葉を。


「ほっほっほ。言ってくれるのう。では、試してみるとしようか!かかれぃ!」

「ご自由にどうぞ」

 そして明らかに他の班員よりもやる気を漲らせた空傘ヤカラスを筆頭として、治安維持機構の精鋭たち数十人とイシヤ一人と言う戦いの膜が舞台の西で上がった。



-----------



 そして、(四度目の)同時刻。

 奉納の舞の舞台の東、ヤマト川の川底。

 そこでは背中に矛を挿した金髪の男が、川底に刺された奇妙な造形物の隣で腕を組んで静かに佇んでいた。


「(流石にと言うべきか。場所が分かっていようとも川底にまで攻めてくる愚か者は居なかったか)」

 男は一応と言った様子で周囲の気配を窺いながらも、明らかにやる気無さそうにしていた。


「(だが、カッコウの話に依れば『神如きが(ミス)吠えるな(マズル)』は一度発動してしまえば四ヶ所全ての装置を破壊しなければ止まらないとの事だった。となれば恐らく此処こそが自分たちにとっては最終防衛ラインになるだろうし、気は抜けない……か)」

 男の耳に奉納の舞の舞台の方から大きな音が響くのと同時に、そう思い直すと矛を手に持って構え、改めて周囲の警戒を行う。

 その目からは先ほどまでのやる気の無さは綺麗に消え失せていた。


「(来るならどこからでも来い……この『(マリーン)』のマルコが相手になろう)」

 男……マルコは気づいていなかった。

 ヤマト川の東岸、東街に並ぶ建物の屋上部分がいつの間にか濃い霧に覆われている事に。

 そして、霧の中でマルコの守っている物体と同じくらい奇妙な造形の物体を構える髪の毛を四色に染め分けた男と、その男を守るように立つ黒ずくめの男の気配に。


 既にジャポテラスを舞台とした、人と『マリス』による五つの戦いは始まっていた。

周囲でも戦闘開始です


11/06誤字訂正

11/07誤字訂正

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