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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第134話「奉納の舞-1」

「それでは、只今より奉納の舞を始めたいと思います」

 精緻な装飾が施された木製の舞台の周囲には幾つもの篝火が焚かれ、舞台の上に目を向ける観客たちは囁き声の一つも漏らさずに舞台上を見ていた。

 そして、そんな舞台に上がった俺、満月さん、伊達さんの三人は練習通りに奉納の舞の準備を進めていき、無事に準備が整ったところで奉納の舞を始めようとする。


「タ……っつ!?」

 が、最初の祝詞を紡ごうとしたところで、俺はあの精神世界の修行で鍛え上げられた直感に従って顔を上げる。

 そこに有ったのは舞台上にあるもの全てを巻き込んで押し潰すことが出来るであろう大きさの岩塊であり、その軌道は間違いなく俺を狙っていた。


『アキラ!』

「来たか!……。『我は氷鱗の巫女アキラ・ホワイトアイス。我が望みにて萌えいずるは雪原に咲き誇りし白き薔薇。薔薇よ、八重の茨垣をもって我らと異なる色持つものを阻め。巫術・シローズノカキ!』」

 イースが声を上げる中で俺は咄嗟に時間停止能力を発動し、俺以外の全ての物の動きが止まった世界で岩塊を防ぐための詠唱をする。

 そして、詠唱が終わったところで右手を地面に付け、それと同時に時間停止能力の効力が切れて全ての物の動きが元通りになり、岩塊がゆっくりと落ち始める。


「キャア!?」

「あらら~」

 が、岩塊がその速度を大きく上げる前に俺の放ったシローズノカキによって生じた雪の茨が空中で岩塊を絡め捕る。

 やがて、岩塊の動きが止まったところで俺はこちらに向かってくる人型の気配を感じ取り、そちらに向けて首を動かす。


「よう!会いたかったぜええぇぇ!!」

「やっぱりお前も来たか!ベイタ!!」

 そちらに居たのは既に前回俺を追い詰めた時と同じように全身の筋肉から蒸気を噴き上げ、拳を振り上げているベイタの姿。


「おらぁ!!」

「ふっ!」

 ベイタの拳が振られ、俺は後ろに仰け反って間一髪でそれを避ける。

 以前なら避けられなかった攻撃を避けられるようになっているのは嬉しいが、同時に俺は気づく。

 ベイタの肉体から発せられる熱の量が増えていると言う事に。


「ふははははは!さあ、存分に殺し愛と行こうぜえぇ!!」

「お断りだっての!」

『我は氷蜥蜴のイース。我が血よ。凍てつく九つの礫となりて……』

 どういう理屈かは分からないが、ベイタもベイタで修行のような物を積んでいたらしいな。

 俺は以前よりも明らかに鋭くなっているベイタの攻撃を避けながら周囲に目をやる。

 すると既に満月さんは伊達さんに抱えられて遠くに去っていくところであり、観客たちは慌てず騒がず、けれど不自然と言っていい速さで観客席から次々に脱出していく最中だった。

 どうやらこの舞台に張られていたのは、単純に攻撃を防ぐ結界だけでなく、混乱を巻き起こさない様にすると言う効果もあったらしい。

 流石と言うかなんというか……まあ、周囲を気にせずやり合えるから感謝しておくか。


「つれねえぇなぁ!こっちは毎日毎日……」

『我が敵を討て。巫術・クレンヒヒノヤ!』

「やかましい!!」

「効くかよ!」

 イースの詠唱によって俺の周囲に九本の氷の矢が現れると、それらがベイタに向かって行くが、ベイタは腕の一振りで九本とも砕いて見せる。


「今更こんな物が俺に……」

「ぐっ!?」

 その時だった。

 ベイタの腹を貫くようにして白い宝石が混じった砂利の鞭が現れ、矢を超える速さでその先に居る俺に向かって来た。

 俺はそれを横に飛び退いて躱すが、空中に居る俺に向かって続けざまに同じような砂利の鞭が既に放たれているのを目の端に捉える。


「ちっ」

 俺は舌打ちと共に足の裏に氷を生み出し、それを蹴る事によって砂利の鞭から距離を取りながら観客席に着地する。

 そしてベイタとは違う位置にある気配……観客席の片隅に顔を向ける。


「流石にこの程度では仕留められんか……憎らしい」

「ま、あの岩が出てきた時点でお前も居るよな」

 そこに居たのは頭頂部で赤い髪の毛をまとめ、左手に剣を持った男。

 名前は確かシベル・スコプ・クイクサンドォとか言ったか。

 前に一度戦い、そして仕留め損ねた『マリス』だ。

 ただ、失われたはずの右手は元通りになっているし、再生させたのであろうその右手には……どこか違和感のようなものを感じる。


「おいシベル!手前なにさも当然のように人の体を遮蔽物に使っていやがる!!」

「貴様がどうなろうと知った事か。拙者にとって重要なのはあの女を殺して兄者の仇を取る事だけだ」

 いつの間にか傷が塞がっているベイタがシベルに向かって叫び声を上げる。

 そして、その声に応じながらシベルが舞台の上に上がり、舞台上空の岩塊がシベルの意思によって砕かれると同時に俺もシローズノカキを解除し、舞台の上に幾つもの岩が落下して舞台が破壊される。


「んだとこらぁ!前から言っているようにアキラを殺すのは俺の手でだ!!手前みたいな三下にアキラを傷つけるような事が許されると思ってんのか!?ああん!!?」

「黙れ筋肉馬鹿の変質者が!貴様の狂愛なんぞの為にどうして拙者の敵討ちが邪魔されなければならない!!これ以上邪魔立てするようなまずは貴様から始末するぞ!!」

「…………」

『あきらヨ。もてもてダナー』

「「ーーーーー!!」」

 俺は戦い易さを考えてベイタたちの様子に注意を払いながら舞台に戻るが、その間ベイタたちはこちらなぞ眼中にないと言わんばかりにどちらが俺を殺すかと言う事で言い争っている。

 殺される対象にされている俺にとってはどっちも御免こうむりたいのだが、どうやらベイタとシベルはお互いに目標が自分の手で(・・・・・)俺を殺す事であるために仲が悪いらしい。

 後、今気づいたんだが、ベイタの奴が付けている鉢巻に『アキラ様ファンクラブ』と言う文字が見えた気がする。

 正直、気づかなければよかったなぁ……と思う。


「ちっ、こうなりゃあ早い者勝ちだ。アキラへの愛の深さからいって俺が勝つに決まっているがな」

「良いだろう。拙者の怨みの深さを見せてやる……が、本格的に戦い始める前に最低限の事はやっておかねばな。でなければ目的を果たす前にカッコウ殿に殺されかねん」

「ああ、そういやそうだったか。アキラとの戦いが楽し過ぎて思わず忘れてたぜ」

「ん?」

『アレは……何だ?』

 気が付けばベイタとシベルの手に銀色の棒状の物体が握られていた。


「「発動!」」

 そして二人が銀色の物体を握りつぶすと同時にそれは始まった。


「これは……!?」

『ぬぐぅ!?』

 有体に言ってしまえば空気が変わったと言えた。

 俺たちが日常を過ごす世界の空気から、『迷宮』の様な非日常的な世界の空気へと変わった。

 けれどただ空気が変わっただけでは無かった。

 空には薄く赤い膜のような物が張られ、空気は何処か淀み、大地からは本来あるべき流れの様なものが感じ取れなくなっていた。


「『軍』様秘蔵の技術の一つ。『神如きが(ミス)吠えるな(マズル)』だそうだ」

「効果と言えば貴様等を弱らせ、拙者たちを全力で戦えるようにするだけだそうだがな」

「なるほどな……こりゃあトキさんたちは別行動にするわけだ」

『これは……あの時のか!?』

 俺はベイタ達の様子を探りながら自分の身と周囲に何が起きたのかを探り、そして察する。

 恐らくだが結界のようなものを張り、『マリス』たちにとっては都合のいいように、俺たち人間にとっては都合の悪いように結界内を調節しているのだろう。

 おまけにイースの驚き様から察するに、グレイシアンを攻撃する時にもこの結界は使われたようだな。


「ああ、そういやアキラの仲間たちが居ねえな。近くに気配もねえし、何処に行った?」

「気にする必要はないだろう。雑兵がいくら居た所で拙者たちは止められん」

「さて、それはどうだろうな」

 恐らくだがスサノオ様たちはこの結界の事を事前に知っていたのだろう。

 だからトキさんたちを向かわせた。

 この結界を解除させるために。

 結果的に俺が勝てる可能性を上げるために。


「ま、いずれにしてもだ。アキラよ」

「貴様等が何を企もうと拙者たちのすることは変わらん」

「来い。『吟銃・黒凍姫』、『銀獣・白湧騎』」

『……。白湧騎への力の供給に関しては任せておけ』

「(頼む)」

 ベイタが腕をグルグルと回し始め、シベルが剣を構えて力を込め始め、俺も二人に応じる様に『吟銃・黒凍姫』と『銀獣・白湧騎』を呼び出して構える。


「「「…………」」」

 そして、まるで示し合せたかのように全員が一斉に動き出して戦いが始まった。

戦闘開始!


11/05誤字訂正

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[一言] マクー空間に引きずりこめ!
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