第114話「相談-2」
本日一話目となります
「…………」
『歴史が変わるな……』
「見事に田鹿トキの嬢ちゃんと同じ反応をしてンな」
茉波さんの研究室にやって来た俺とイースは、茉波さんから読むように言われた資料の内容とその説明に思わず頬を引き攣らせていた。
と言うかさ……何でこんなとんでもない装備・兵器群がたった一人の手元に有るんだよ!?
いや、そもそもとしてどうやったらこれだけの代物をたった一人の人間が思いつけるんだよ!?
「はっはっは、これを見た奴は神様も含めて大体同じような反応をするンだよな。それでも御姫様の驚き方は多少控えめな方だが」
「こういう反応もしたくなるっての……と言うか本当にこれを作ってもいいのか?」
ただしかしだ。
茉波さんの言うとおり、イースはともかく俺はそこまで驚いてはいない。
と言うのも例の精神世界で、似たような武器……例えば銃とかを持った相手との戦闘経験があるからだ。
ああうん。今思い出してもアレは酷かったなぁ……名前は……そう、確かガトリングガンとか言って、なんか金属製の筒を何本も束ねた装置で、その束が回転すると同時に大きな音が鳴り響き、それと共にこっちに向かって超高速で幾つもの礫が飛んで来るんだったかな。
ふふ、何度対処を間違って挽肉にされた事やら……。
まあいいや、もう終わった事だし気にしないでおこう。
今大切なのは、茉波さんがそのガトリングガンも含めて大抵の常軌を逸した装備品を作れると言う事と、迂闊に外に出す訳には行かないが、これが有れば『マリス』との戦いが大幅に楽になると言う事実だ。
「問題ない。と言っても御姫様たち特務班専用で、完全な一品物として複製も容易に出来ないように作ると言う条件がアマテラス様たちから出されているンだがな」
「なるほど」
『それならまあ、そこまで問題にはならないか』
茉波さんの言葉に俺たちはとりあえずの安心を得る。
それなら大抵のものは作ってもらえるだろうし、複製されないのならそこまでの問題は起きないだろう。
となると……だ。
「で、実際どンなものが必要なンだ?」
「俺としてはこの銃って言う武器が欲しいな。ただ、ここに書かれてある通りじゃなくて……」
俺は『茉波ヤツメ製兵器概要一覧』と表紙に書かれた紙の束の中から、幾つかの物品を指差していき、かつそれに加えて欲しい機能を茉波さんに告げていく。
で、流石は茉波さんと言うべきか、こんな物を考えられるのなら当然と言うべきなのかもしれないが、俺の要求は技術的にはほぼ全て実現可能と言う事で、アマテラス様たちの許可さえ下りるのなら実装される事になった。
……。
まさか半分ぐらい冗談で言った物まで通るとは思わなかったと言っておく。
「しかしこうなると、実現できなかった案についてもどうにか実現できないか試したくなるな。実現できないのはこの条件を満たす金属が無いからであるし……」
「いい!試さなくていい!今でも十分だから!!」
「そうか?」
「うんうん!!」
『限界を知らない技術者と言うのがここまで恐ろしい物とはな……』
「(まったくだ……)」
おまけに技術的に無理とされた案も、実現しようとするし。
ただまあ、無事に止められたから問題ない……
そこまで俺が考えた時だった。
「ん?この条件だったらウチの金属が満たしているぞ」
「『!?』」
「アンタは何処の誰だ?」
部屋の中に妙に軽い雰囲気を纏った声が響き、いつの間にか黒ずくめの男が当たり前のように部屋の隅に置かれている椅子の一つに腰掛けていた。
いや、と言うか、この声にあの姿……この男は間違いなく……。
「お前……うぷっ!?」
「失礼。俺は『クイノマギリ』と言ってな。今日はツクヨミ師匠からのお届け物を届けに来たんだわ」
「届け物?」
俺は『クイノマギリ』と名乗ったその男に、どうやって『迷宮』内に俺を飛ばしたのかなどを問い詰めようと椅子から立ち上がろうとするが、立ち上がる前に黒い靄の様な手で頭を掴まれて無理やり座らせられる。
てかちょっと待て!?お前いつの間に移動した!?部屋の隅から此処まで一歩で移動できるような距離じゃないぞ!?
「そうそう。これな」
「コイツは……!?なるほど、纏っている力の感じは違うが、アンタも神様の一柱って事か」
「御明察。いやー、流石の勘の鋭さだ」
「俺が挙げた金属は殆ど空想上の産物と言ってもいい代物だからな。そンな物を平然と渡せる存在は限られてる」
「ははは、そりゃあ確かにそうだ。だが、これを加工出来るってだけで、お前さんも相当のもんだと思うがな」
「むぐぐぐ……」
『完璧に蚊帳の外だな』
茉波さんと『クイノマギリ』は、抑え込まれている俺の頭上で物のやり取りと同時に言葉を交わしている。
耳に微かに入ってくる言葉を聞く限りでは、銀霧鋼とか、融点とか、黒霧鋼とか、密度とかどれが単語で、どれが用語なのかも俺には分からない様な会話になっているが、とりあえず一つだけ確かなのはこの二人はほぼ完璧に俺の存在を忘れていると言う事実である。
現に会話の内容が、今度の豊穣祭の舞台をどうするかとか、この辺りの地脈がどうとか、原子配列がどうだこうだとか、だんだんとこの場には関係なさそうなものに変わってきているし……。
「おう、結構良い事を聞けたわ。ありがとな」
「いやいい、俺も中々に面白い事を教えて貰えたし、貴重な素材も貰えたからな」
「はぁはぁ……」
『まるで嵐のようだったな……』
そして俺が『クイノマギリ』の束縛から逃れる頃には、二人の会話は終わり、『クイノマギリ』は煙のように消え去っていた。
うぐぐぐ、結局質問も何も出来なかった……。
「御姫様」
「何?茉波さん」
「一週間待ってくれ。そうすればビデオカメラと一緒に最高の装備を届けてやる」
「お、おう……」
で、それと同時に茉波さんがすごくいい笑みで告げ、俺はそれに対して了承の言葉を返すしかなかった。
なんだかすごく不安だ……。
混ぜるな危険
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