第110話「神療院-7」
昨日から数日の間ですが、2話更新となっておりますので、まだ読んでおられない方はそちらからどうぞ
「とまあ、そんなわけで今の俺に至るわけだ」
「「「…………」」」
話が終わり、病室の中に居る人間は俺を除いて全員が困惑の色を隠せない様子……と言いたい所だったが、三理マコトだけは他の皆とは違う感じで頭を抱えていた。
何でだ?そっちまで気にしている余裕はないから気にしないけど。
『(やはりと言うか、全員混乱しているようだな)』
「(まあ、なんだかんだで波乱に満ちた人生と言ってもいい部類の人生を歩んでいるしなぁ……)」
『(それでだ。もしもこの先協力できないとトキたちに言われたらどうするつもりだ?)』
「(素直に受け入れるさ。ずっと騙していたのは俺だしな。どうなっても受け入れる)」
俺はトキさんにも聞こえないように頭の中でイースと会話をする。
実際、どう言い繕おうが、俺がトキさんたちを騙していたと言う事実に変わりは無いわけだしな。
どういう結果になったとしても俺の自業自得だ。
「アキラ様が元男……」
「でもイース様との契約で女に……?」
「神一柱丸ごとと契約とかは聞いてないっすよ大多知さん……」
ここから俺が見た限りだと、布縫さん、風見さん、三理マコト辺りは特に混乱が酷そうかな。
それに対してトキさんたちは……
「男……オトコ……婿……」
「うーん……」
「…………」
穂乃さんは何かブツブツと呟いていて、ソラさんとトキさんの二人は俯いて額に皺を寄せると言うそっくりな顔で真剣に悩んでいる。
「アキラさん。一ついいですか?」
「何だ?」
と、突如としてトキさんが顔を上げる。
「今のアキラさんはその……自分の性別をどっちだと認識しているのですか?」
「あー……その話か……」
『我も確かに気になるところではあるな……』
迂闊な答えや適当な答えを求めていないと感じた俺は、トキさんから向けられた質問の答えを頭の中で一通り考え、多少迷いながらではあるが答えを口に出す。
「正直なところを言わせてもらうなら……分からないと言った方が正しいと思う」
「分からない……ですか」
「ああ、今の肉体的には女で、人生経験と言える物の大半は男の時の物。けれど俺の主観で単純に過ごした時間の長さを考えると、精神世界での修業のせいで女として過ごしている時間の方がもう四倍近いんだよ。おかげで男だった時の俺がどういう姿をしていたかとか、どういう声だったのかはもう殆ど覚えていない。それでも元の性別が男だって言う認識だけは有る。だからトキさんたちには悪いけれど、俺としては分からないと言う他無いかな」
「そうな……」
「要するに!」
俺が自分の考えを一通り言い切り、その答えに何処か割り切れないものをトキさんが感じる中で突然ソラさんが自分のベッドに付けられている机を叩きながら大きな声を上げる。
「アキラお姉様がアキラお姉様と言う事に変わりは無いんですね!なら問題なし!」
「はっ?」
「へっ?」
『むうん?』
そして俺の方を指差しながら、俺の今言った事なんて何でもないかのように言い切る。
その姿に俺もトキさんもイースも思わず唖然とさせられていた。
「まあ、言われてみればそうですわね。アキラ様が男だと言う事実には少々面を喰らいましたが、逆に言えばこの先男女関係を持ったりしても何の問題も無いと言う事になりますわね。そもそもアキラ様がイース様の巫女と言う事実は変わりませんから貴族として手助けするのは当たり前ですし、もし男に戻せれば我が家に婿入りさせる……」
「アタシはアキラ様が好きで特務班に居るんです。アキラ様が男であろうと女であろうと私の好きと言う気持ちが揺らぐことは無いんです!そう言うわけでベイタなんて言う昔の男には、アキラ様は絶対に、ぜえぇぇたいに渡しません!そう絶対にです!!」
やがて穂乃さんもソラさんの考え方に感化されたのか何かを口走り始め、ソラさんはソラさんで何か燃え上がり始めている。
と言うかなんか二人の背中から邪気の様なものが立ち昇り始めているのが見えているんだが……気のせい……だよな?
目の前の光景から目を逸らすように俺はトキさんの方を向くが、トキさんは虚ろな目をして完全に停止していた。
うん。多分だけど目の前の状況についていけてないんだろうな。大丈夫だよトキさん。俺もついて行けていないから……。
「風見さん。穂乃お嬢様とソラさんを見ていたら何だか悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきたんですが……」
「奇遇ですね。私もです。考えてみればそもそもとして私も布縫さんも第一としているのは無辜の民をモンスターの脅威から守る事なんですよね……」
「この光景を報告書に書く事を考えたら、何だか胃が痛くなって来たでやんす……もう、あっしは面倒なんで退出するっすよ。あ、ホワイトアイスさんに伝令っすけど、明朝治安維持機構の長官室に来てくれだそうっすよー」
『一体この状況を何と言えばいいのだろうな……』
そしていつの間にか三理マコトは居なくなり、風見さんと布縫さんはくすくすと忍び笑いを始め、イースは完全に呆れていた。
何だろうなぁこの空気。
最悪の場合は特務班解体どころか刃傷沙汰ぐらいは覚悟していたんだけどなぁ……まあ、何事も無く落ち着くのならその方が良いに決まっているんだけどさ。
そう言う意味ではソラさんと穂乃さんには感謝をするべきなのかもしれないな。
まあいずれにしても……
「ありがとうみんな」
俺は誰にも聞こえない様な大きさの声でそう呟いた。
二人がぶれません。凄くぶれません。
10/15誤字訂正
10/16誤字訂正




