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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第105話「磁石の迷宮-8」

「あ……ぐ……」

 爆発が止んだ後、気が付けば私は全身から血を流しながら『迷宮』の床に倒れていました。

 傷で全身が悲鳴を上げているのが分かります。

 けれど全身が悲鳴を……痛みを訴えてくると言う事は、裏を返せば私の身体はあの爆発でも何とか五体満足でいられたようです。

 そして神力で強化された私の耳には、私自身のを含めて六つ分の心臓の鼓動が聞こえてきます。

 どうやら全員命を取り留める事は出来たようです。


「ほう、拙者たち兄弟の融合技を受けてもまだ死なぬか」

「これは驚いた。確実に()ったと思ったのだがな」

 クラスとシベルの声が空間に響く中、私はアシテコウ様の力を発動すると自分の身体を少しずつ治していきます。

 けれどあまりにも傷が深いためなのか再生は遅々として進みません。

 首が動く範囲で他の皆の様子を見てみますが、他の皆は全員気絶しているようでピクリとも動きません。


「くっくっく……まあ、貴様等の様な素晴らしい戦士を無為に苦しめるのは拙者としても本望では無いしな。早い所決着をつけるとしよう」

「そうだな。拙者は兄者と違ってその辺りはどうでもいいが、早い所我が土にこの者たちの血を吸わせてやりたいのは事実だ」

 クラスとシベルは笑い声を上げながら私たち全員の姿を視界に収められる位置にまで歩いてくると、シベルが剣を振り上げて生み出した六個の巨大な岩石を宙に浮かべます。

 このままでは……拙いですね……皆を守るためには……全身が痛むとか……装備が無いとか……その程度の事で泣き言を言って……このまま伏している訳にはいきませんね……。


「ほう、これは本当に驚かされた」

「馬鹿な……生きているだけならまだしも起き上がるだと……」

「ごぼっ……はぁ……はぁ……」

 私は四肢に力を込めると、口から血反吐を流しつつも立ち上がり、何も持っていないその手を前に伸ばして構えます。

 皆を守るために、皆を助けるために、皆の盾となるべく、僅かに残った気力と体力を振り絞ってクラスとシベルの二人を睨み付けます。


「はぁはぁ……」

「兄者よ」

「何だ弟よ?」

「折角だ。この者に機会を与えてみようではないか……拙者としては血を吸えればそれで構わないのだからな」

「ほう……」

「どういうつもり……ですか」

 私がシベルの言葉に疑問を抱いていると、シベルが邪悪な笑みを浮かべた後に宙に浮かべた岩石を消し、手に持った剣を上に向かって掲げます。

 そして私がその先に目を向けると……そこには黒く、一切の装飾性が無い金属製で観音開きの扉が浮かんでいました。


「来い、マグネット」

「なるほどそう言う趣向か。確かに面白い」

「!?」

 やがて扉がゆっくりと開き、その先に居るものが少しずつこちらに出てきます。


『マグゥ……』

 それは嘴があり、翼があり、尾羽に三本爪の足と一見すれば巨大な黒い鳥でした。

 けれど直ぐに普通の鳥でない事は分かりました。

 額と両翼の先端にモンスター特有の赤い核を持ち、時折ですが全身に青い稲妻のような物を走らせ、周囲にこの『迷宮』で散々私たちを苦しめたあの黒い立方体を円軌道でゆっくりと飛ばしていたからです。


『ネットオオォォ!!』

 間違いありません。

 威圧感と言う点については目の前の二人の『マリス』よりも劣っていますが、間違いなく今私の上に向かって、咆哮を上げながらゆっくりと降下してきているモンスターは、この『迷宮』の主です。

 二人の『マリス』だけでも手に負いきれないと言うのに、『迷宮』の主まで加わっては……こんなのどうしようも……。


「さて、その傷でマグネット相手にどれだけ保つかな?」

「精々一撃で死ぬような真似だけは避けてくれ。流石にそれでは拙者たちもつまらない」

「ぐっ……」

 マグネットと呼ばれた『迷宮』の主は私の頭上からある程度離れた場所で降下を止めると、私たちの上を猛禽類が獲物を狙うかのようにゆっくりと旋回し始めます。

 そして……


『マアアァァ……』

「早々。一つ言い忘れたが、当然マグネットはそこで寝ている貴様の仲間も狙うぞ」

「っつ!?」

『グネットオオォォ!!』

 シベルの無慈悲な声が届くと同時に私は皆の元に駆け出し、それと同時にマグネットの周囲を舞っていた立方体が五個、私以外の皆を押し潰そうと射出されました。


「み……」

「「ははははは……」」

 クラスとシベルの嘲笑が鳴り響き、私の視界はまるで霧がかかったように狭まっていきます。

 それと共に私自身の動きも含めて世界の全ての時間がゆっくりになっていき、急速に色を失っていき、終いには音も失っていきました。

 そんななかで、私の未来視はまた私に絶望の光景を見せつけていました。

 こんな光景を見せられるのなら未来なんて見えなくていい、未来なんて見せないでほしい。そう、私は本気で思いました。

 けれど私が名も知らぬ神から授けられた力はあくまでも冷徹に、あるがままを、無慈悲にもうすぐ起きる惨劇を一足早く私に見せつけ続けます。

 そして私がソラに手を伸ばし、けれどその行動が未来に何の影響も及ぼさないのが見えてしまう中で、世界は唐突に色も、音も、何もかもを取り戻し、ソラの姿が立方体の陰に隠れて見えなくなるのと同時に激しい音と振動が周囲一帯に響き渡りました。


「あ、あ……え?」

 私は全てが終わってしまったと思い、全身から力が抜けてその場にへたり込みました。

 けれど直ぐに目の前の光景に違和感を覚えました。


「なんだこれは……」

「ほう。死んでいないと『軍』様は仰っていたが……このタイミングで来るか」

 私が未来視で見た光景と今の私の前に広がる光景とは決定的に違う点がありました。


『マグネエェ!?』

「白い……茨……?」

 ソラたちを押し潰すはずだった黒い立方体は何処からともなく伸びてきた白い茨によりソラたちに触れるすんでのところで止められており、気が付けば立方体を放った張本人でもあるマグネットも白い茨によって空中に縫い止められていました。


「ごめん」

『遅くなったな』

「え?」

 聞き覚えのある声と共に私の頭にゆっくりと優しげな雰囲気が漂う手が置かれ、私は手の主が誰であるのかを確かめようと首を動かします。


「なん……で……」

「でも間に合ってよかった」

『後は我たちに任せておけ』

 そこには、逆光で顔の子細こそ見えませんが、ジャポテラスの巫女服とは多少趣の違う巫女服を身に付け、それ以外にも独特な装備品を身に付けた白髪の……穂乃さんとソラが……いえ、私もずっと再会することを望んでいた女性が……


「貴女が……此処に……」

「『だから今はゆっくり休んでいてくれ』」

 アキラさんが立っていました。

トキさんの未来視能力の欠点の一つに、絶対に敵わないと判断されたらその時点で絶望的な未来しか示さなくなると言う点があったりします。

酷い話ですね。

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