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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第102話「磁石の迷宮-6」

 私たちは個人個人の実力としては明らかに格上である『マリス』クラス・クレイ・クイクサンドォ相手に善戦していると言えました。


「ふはは!行くぞぉ!!」

「穂乃さん!風見さん!」

 クラスの手から私たちに向かって地雷と化した刃付きの金属片が幾つも投げられます。


「分かっていますわ!」

「行きます!!」

 当たれば刃として私たちの体を傷つけるだけでなく、爆発によって容易に致命傷を与えてくるそれに対して、こちらは穂乃さんの炎と風見さんの風が合わさる事によって生み出された熱風を当てます。

 すると熱風による加熱と加圧によって金属片に設置された地雷が起動していき、大量の爆炎と爆風が撒き散らされると同時に、煙が爆発した場所の周囲に漂い始めます。


「ふははは!いいぞ!もっと拙者を楽しませろ!!」

 煙の先でクラスが笑い声を上げています。

 此処までの戦いでクラスの特殊能力について分かった事は大まかに分ければ二つ。

 一つはクラスの皮膚に直接触れた箇所に地雷を設置することが出来ると言う事。

 もう一つはクラスの地雷は熱や圧力に反応して爆発すると言う事。

 この二つの特徴故にクラスは両手両足にわざわざ何も付けず、先程のような攻撃には対応することが出来ています。


「では……」

「全員構えておいてください……」

 私は煙の向こう側でクラスが構えるのを何となくですが気配で感じます。

 実を言えばクラスの能力で最も厄介なのは地雷設置能力ではありません。

 なので私はその厄介な能力に対抗するべく、未来視の能力を発動させ始めます。


「これはどう……」

「させません!」

「なっ!?」

「ふはっ!いいぞっ!そうこなくては!」

 そして見えた未来を阻止するべく私は動き始め、穂乃さんに向かって伸ばされたクラスの右手が穂乃さんに触れる直前に私は割り込み、その攻撃を盾で弾き飛ばします。

 目の前の光景に穂乃さんが驚いていますが、それもしょうがない事でしょう。

 直線距離にして十m以上は確実に有ったのを一瞬にして詰められたのですから。

 そう、クラスの能力で最も厄介なのは、地雷の能力そのものではなく、私たち人間のそれとは比較にならないほど高い『マリス』特有とも言える高い身体能力。

 仮に同レベルの動きを人間がしようとするならば、それに特化した複数の神から神力を授かった上で相当な期間の修行を積む必要があるでしょう。


「では、防ぎきれるものなら防いでみるがいい!!」

「くっ!?」

 私の前に立ったクラスは、掌底と蹴りを素早く放ち、私は未来視による予測を生かしてあるものは盾で弾き、またあるものは身体を逸らす事によって一撃も身体に掠らせることも無く回避していきます。

 勿論ここまで徹底的に避けるのは、もしクラスの能力によって肉体に直接地雷を設置されたらどうなるのかを未来視によって私が知っているからですが。


「隙あり!」

「ぐむっ!?」

 穂乃さんが私の元から離れた所で、ソラが私とクラスからだいぶ離れた場所でハンマーを横に振り抜きます。

 するとその振りに合わせる様にクラスの身体が吹き飛ばされていき、クラスの身体は部屋の中央に在った立方体にぶつかって止まります。


「くっ……またあの面妖なる術か……直接闘わぬとは卑怯な……」

「ここに来るまでの大量の罠を仕掛けたであろうアンタには言われたくないっての」

 クラスは立ち上がると頭を左右に振りつつ愚痴をこぼすようにソラへの文句を言います。

 どうやらソラの新技と言うのは、空間を何かしらの形で操る物らしく、今の一撃の様に相手との距離を明らかに無視した一撃を既に何度か放っていますし、クラスの地雷に耐えたのもその力の応用のようです。


「ああ、あれか。あの程度の罠で死ぬような弱き者と戦っても拙者の渇きは癒せぬからな。ちょっとした選定と言うものだ。それにしても一人は何処かに逃げ去ったようだが、貴様等は本当にいい。この身体になってから此処まで楽しめる戦いは二度目だ」

「「「……っつ!?」」」

 クラスは見る者が思わず気圧される様な笑みを浮かべながら、身体に付いた傷を確認し、コリをほぐすように腕を回していきます。

 その笑みを見た事で私は確信します。

 この男……クラス・クレイ・クイクサンドォは戦闘狂です。

 この性格が『マリス』になる前の人間の頃からなのか、それとも『マリス』になる際に壊れた結果として生み出された物なのかは分かりませんが、クラスが戦いに生き、戦いを楽しみ、戦いに死ぬ事を望むと言う性格であることは間違いありません。

 そして私たちの表情を見て何を勘違いしたのか、クラスは両手を大きく広げた状態で口を開きます。


「一度目はそう……『コンドロナイアス』に所属する神々の一人を弟と一緒に倒した時の事だった。あの時は……」

「御話し中失礼するでやんすよ」

「何っ!?」

「三理君!?」

 ですが、その話の本題がクラスの口から発せられる前にその声と表情は驚愕に彩られます。

 何故なら虚空から突如現れた三理君が、その手に持った短剣でクラスの右腕を半ばから刎ね飛ばしからです。


「貴様っ!?」

「おっとっと……」

「今です!」

 宙に舞ったクラスの右腕が土くれに帰っていく中で、クラスは残った左腕を三理君に伸ばしますが、それを三理君は再び虚空に消え失せる事で避け、同時にこれを好機と見た私たちは一斉に動き出し始めます。


「タクハタチ様!」

「カグツチ様!」

「シナツヒコ様!」

「ぐっ……!?」

 布縫さんの障壁がクラスの動きを束縛し、穂乃さんの火球が風見さんの風による支援を受けて火勢を増してまるで竜巻の様になったところでクラスに直撃、その身を焼き焦がしていきます。


「行くよ!タヂカラオ様!イダテン様!サーベイラオリ様!!」

 そしてトドメを刺すべくソラが全力でハンマーをクラスに向けて振ろうとしますが、その時私は未来視とはまた別に嫌な予感を感じ取ります。

 この感覚はそう。まるで凄まじく重い何かが迫ってくるような……っつ!?


「ソラ!」

「っつ!?」

 私の声に反応してソラも嫌なものを感じ取ったのか、未来視の光景が変化すると同時にソラは後ろに飛び退き、穂乃さんたちも改めて身構え直します。


「な、何ですの!?」

「わ、分かりません!?」

「とにかく離れるしかありません!」

 そして上から先程までソラが居た場所目がけて降ってきたのは鉱石を含んだ大量の土砂であり、それは私たちが今居る円筒状の空間に大きな音を轟かせていきます。


「くうっ……何なの一体!」

「いやー、とんでもないでやんすね……」

「あれは……」

 やがて土砂の落下が止まると山の様に積み重なった土砂の頂上に一人分の人影がありました。


「まったく、一体何をやっているのだ兄者よ」

「すまないな弟よ。予想以上に楽しみがいのある人間たちだったものでつい……な」

「まさか……」

 人影がはっきりすると共に、人影の横にクラスが並びます。

 人影は……クラスと同じ髪型に服装の、けれど右手に剣を持ち、足にはしっかりと靴を履いており、その顔はクラスとある程度似通った物でした。


「それで片腕を失うとは情けない」

「だが、お前が居れば問題ないだろう」

「まあな」

「「「!?」」」

 クラスが切れた右腕を前に出すと同時に土砂の一部が動きだしてクラスの右腕にくっつきます。

 しばらくすると土砂の一部が下に落ち、後には三理君に切られる前と寸分変わらない腕がそこに有りました。

 これは拙いですね……。

 新たに現れたこの男の容姿とクラスと親し気である言動、そしてその能力が指し示すところはつまり……


「では、兄者も名乗ったであろうし、拙者も名乗らせてもらおう。拙者は元『コンドロナイアス』の戦士にして、今は忠実なる『軍』様の下僕である。『鉱山(マイン)』のシベル・スコプ・クイクサンドォ。言っておくが拙者は兄者のように優しくは無いぞ」

 ただでさえ強力な『マリス』の二体目が現れたと言う事に他なりません。

当然のように二体目が参戦です

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