一瞬、頭をよぎった君の笑顔を思い出して
俺は動けるようになるとすぐさま行動を起こした。
それは、今まで放置していた女の素性を調べることだった。
仕事机に置いてあるパソコンの画面には、あらゆる手を使って手に入れた女についての情報が表示されている。
それこそ簡単な学歴だけではなく、生まれた時の体重から男との交際履歴まで。
女が歩んできた道が文字となって凝縮されている。
俺は本来であれば目を覚ますことなく、安らかな死を迎えるはずだった。
図らずも生き延びてしまったのは大きな誤算だ。
死神が、いつ俺の首を切り落とそうか舌なめずりをしながら観察しているのは変わりない。
けれど、恍惚の死は永遠にやってこないだろう。
女を俺の傍から離すべきだ。
いつ死んでしまってもあの女が幸せに暮らせるように。
俺が死ぬことで泣く者などいないほうがいい。
そうしたら、何の躊躇いもなく死ねる。
調べるために取り寄せた資料の中に仲良く寄り添う男女の写真があった。
女には結婚を約束した愛する男がいたらしい。
黒い短髪をワックスで動きをつけており、朗らかな性格を表すような垂れ目をしていた。
青空を薄めたような水色のぱりっとしたワイシャツとゆったりしたジーンズは、どちかといえば細身の体に良く合っていた。
資料によると外見だけではなく、なかなかにいい男らしい。
青空の下、満面の笑みを浮かべる二人はどうしようもなくお似合いだった。
これでいい。
女には帰る場所がある。
それでいい。
けれど、言葉を重ねるたびに虚無感が強くなって、ずっと燻り続ける。
胸がすうすうして、まるで穴が空いてしまったようだった。
穴は段々と大きさを増してゆく――
次回最終話です(・∀・)
それに伴いあらすじを書き直します!!
ここまで読んでくださってありがとうございます。