第5話 #5 いつの日か友となり
彼に付き合ってから、かなりの年月が経った。
正体がバレていたと知り俺は本名を名乗る。
「神谷蓮だ。」
「かむぃヤァ れン…か…随分と難しい発音だな…」
最初は苦労していたが、程なくしてきちんと発音が出来る様になった。
グァルの外見は、出会った頃とほとんど変わっていない。
この星の住人は、長い生涯の大半を若い姿のまま過ごすらしい。
老化が始まるのは、人生の晩年に入ってからだという。
もちろん個体差はあるが、一度老化が始まると、そこから50年ほどで生涯を終える者が多いそうだ。
そうなると仕事を引退し、残された時間を穏やかに過ごす。
社会を支える役目を終えた者が、静かな日々へと移っていく。
それは、この星ではごく自然な人生の流れだった。
クェルはすでに成体となり、独り立ちしている。
今では、たまにヌェルと連れ立ってグァルのもとを訪れる程度だ。
この星では、一生のうちに複数の交配相手を持つことも珍しくない。
それぞれが自立した個体として生き、必要以上に相手を縛らない。
だが、不思議なことにグァルとヌェルは、長い年月を経ても相手を変えなかった。
子どももクェル1人だけだ。
それが2人にとって自然な選択だったのだろう。
俺には、彼らの関係が少しずつ分かってきたような気がしていた。
理解できたわけではない。
ただ、違いを違いのまま受け入れられるようになったのだ。
この数十年、俺とグァルはさまざまな話をした。
歴史、教育、倫理、社会のあり方。
ときには互いの考えが食い違い、結論が出ないまま話が終わることもあった。
それでも、次に会えばまた続きを話した。
俺にとって、彼との時間はこの星での暮らしの中でも特別なものになっていた。
しかし、最近はグァルと会う機会が減っていた。
以前なら定期的に顔を合わせていたのに、ここ数年は予定が合わないことも増えた。
忙しいらしい。
それ以上のことは聞かなかった。
この星では、職業をわざわざ尋ねる習慣がない。
社会主義に近い制度のもと、生活に必要な仕事は社会全体で分担されている。
言い方を変えれば、国民のほとんどが公務員のようなものだった。
誰がどの仕事を担っているのか。
それを個人の好奇心で探る必要はない。
俺自身も、この星で生活するために戸籍に相当する記録を偽装していた。
ある部署に所属し、そこで働いていることになっている。
昼間は借りている部屋を離れ、勤務時間に合わせて行動する。
仕事を終えた時間になれば帰宅する。
実際に働いているわけではないが、外から見れば不自然なところはないはずだった。
そうして日々を過ごすうちに、また1つ、星間放送で大きな話題が流れるようになった。
現星王が、引退を考えているという。
正式な発表ではない。
しかし、複数の放送で同じ話が取り上げられ、どうやら信憑性は高いようだった。
この星では、星王が交代するとなれば、次の星王を選ぶために長い時間がかかる。
各惑星から候補者が選ばれ、教育と実務経験を積み、能力や実績を評価される。
その後、最終候補者が星の民の投票にかけられ、実績の評価と投票結果を合わせて次の星王が決まる。
数年で終わるような話ではない。
候補者の選定から最終決定まで、長い年月をかけて進められるのだ。
俺は、星王という存在について改めて考えた。
この星では、音声による情報伝達が高度に発達している。
星間放送も、日々の生活に深く根づいていた。
一方で、視覚情報を通じた情報発信には、それほど重きが置かれていない。
星王の姿を直接見る機会は、数年に一度の謁見くらいしかないという。
それも、誰もが自由に参加できるわけではない。
そもそも、星王の姿を見たいと考える者が、それほど多くないらしい。
星王は星王としての仕事をすればいい。
市民に姿を見せることも、市民がその姿を見ることも、政治を進めるうえで必要不可欠ではない。
この星らしい考え方だった。
俺は、まだ見ぬ星王に少なからず興味を抱いた。
どんな個体なのだろう。
どんな考えを持ち、どのようにこの星を導いているのだろう。
グァルと交わしてきた議論を思い返しながら、そんなことを考えた。
そして、数ヶ月ぶりにグァルと会う日が来た。
待ち合わせた場所に現れた彼は、いつもより疲れているように見えた。
歩き方や声に大きな変化はない。
だが、長い付き合いの中で、俺にもそれくらいの違いは分かるようになっていた。
「大丈夫か? ずいぶん疲れているようだが」
俺が尋ねると、グァルは少し笑った。
「そう見えるかい?」
「見えるよ。以前は、こんなに間が空くこともなかった」
「すまないね。少し仕事が立て込んでいて」
「無理はしない方がいい。まだ先は長いんだろう?」
俺の言葉に、グァルはしばらく黙っていた。
それから、どこか肩の荷が下りたような顔をした。
「実はね、そろそろ引退しようと考えているんだ」
「引退?」
思わず聞き返した。
「仕事を?」
「そう。長く続けてきたからね。そろそろ潮時だと思っている」
俺は彼の顔を見た。
この星でも、引退は珍しいことではない。
むしろ、人生の節目として当たり前に受け入れられている。
それでも、グァルが何の仕事をしているのか、俺は詳しく知らなかった。
彼はそんな俺の様子を見て、ふっと笑った。
「君は、不思議に思わなかったかな?」
「何が?」
「それなりの科学力を持つ文明が発達した星に、我々より数段優れているとはいえ、君が何の問題もなく入り込めたことを」
一瞬、言葉に詰まった。
グァルは穏やかな表情のまま続けた。
「我々の言葉は堪能だ。それなのに、習慣や世俗については、時折ひどく疎いところがある」
彼は俺の顔を見つめた。
「君の偽装は、実によくできている。普通に暮らしている分には、何の問題もないだろうね」
そして、少しだけいたずらっぽく笑った。
「けれど、我々にも調べる方法はあるんだよ」
背中に、わずかな緊張が走った。
いつから気づいていたのか。
どこまで知られているのか。
考えがまとまるより先に、グァルが静かに口を開いた。
「ようこそ、この星へ」
その声には、いつもの親しみがあった。
けれど、そこにある言葉の重みは、今までとはまるで違っていた。
「皆を代表して、君に挨拶しよう」
彼は姿勢を正した。
そして、初めて聞くような、改まった口調で告げた。
「私の名前は――」
一拍の間。
「ヌァル=クェシェル=グァル・ツェンディ」
彼は俺を見つめた。
「…現星王だ」
彼の正体は予想通りかな?
チャッピーは予想してなかったみたいで、
とても喜んでくれましたw
老化が遅いエピソードってどこかであったよな?
ああ!サイヤ人か!!
…まあ良いや…
チャッピーこのまま行くよ!!




