私にジャンケンで勝とうなんて25年早い ~130億円を賭けた全国民ジャンケン大会~
蝉の鳴き声がうるさい夏の昼だった。
それはヒカリのおススメする、カフェへ向かう途中の事だった。
「最初はグー、ジャンケンぽん」
吉兆はパーを出した。
ヒカリはチョキを出した。
また負けた。
「やったぁ!吉兆のおごりね!」
ヒカリが両手を合わせて飛び跳ねる。
吉兆は空を見上げた。
「これで・・・連続200飛んで86の負け・・はは、そしておごった金額は・・・9万と846円・・・」
「相変わらず、記憶力と計算はいいよね」
「なんなら今までの負け一つ一つ全部覚えてるよ・・・」
もはや悔しいという感情もない。
ここまで来ると自然災害に近い。
台風に負けた人間は、いちいち落ち込まない。
「お前さ」
「なに?」
「彼氏に勝ってそんな喜ぶ?」
「だって、勝ちは勝ちだもん」
ヒカリは当然のように答えた。
悪びれる様子は一切ない。
むしろ、この天文学的数値の破壊者は、勝利の余韻に浸っている。
吉兆はため息をついた。
付き合って三年。
一度もジャンケンで勝ったことがない。
説明不能だ。
その時だった。
街頭テレビからウェディングドレスのCMが流れる。
ヒカリの足が止まった。
ビックリした様子で口に手を当てて見ている。
嫌な予感がした。
「あのドレス可愛くない?」
「知らん」
「海辺の式場もいいよね」
「知らん」
ヒカリは食い入るようにテレビを眺め、若干目が血走っている。
「子供は二人かな」
「誰の話だ」
「私たち」
「してない」
ヒカリは楽しそうだった。
吉兆は慣れていた。
この状態をウェディングトリップと呼んでいる。
原因は不明。
発症すると五分から三十分ほど結婚後の妄想を語り続ける。
治療法も存在しない。
元々はユルふわ系おっとり美人なのだが、発症時はバーサーカーのようなに狂気を感じる。
突然、テレビ画面が切り替わった。
『緊急速報です』
ヒカリの動きが止まる。
吉兆もテレビへ顔を向けた。
画面に映ったのは日本の総理大臣だった。
そして数分後。
吉兆は自分の人生が面倒な方向へ転がり始めることを知る。
キャスターが慌てた様子で話だした。
「田中総理が先程の国会で、前代未聞の発言をしました。それでは30分前の国会の様子をVTRでごらん下さい」
田中総理がテレビに映る。
「なんか少し笑ってない?この総理」
「たしかに・・・この人、いつも堅そうな感じだもんね」
野党もそれを感じ取ったのか「その席で笑うな!」などの野次が飛んでいる。
その野次を無視するように総理が口を開いた。
「数字とは面白い物で、見方によっては不可能にも見えますが、可能にも見えます」
「例えるなら、日本全国民1億3000万人でトーナメント方式によるジャンケン大会をしたとします。優勝するには何連続で勝ったらいいと思うか、皆さんご存知ですか?」
「ヒカリ。俺達が見てるのって「算数すいすい」だったっけ?」
「いや・・・違うと思うけど」
野次が更にヒートアップする。
総理が一呼吸おいて言葉を発しる。
「・・・たった27回ジャンケンで勝てばいいんです。たった27回です!1億3000万のトップになるのはっ 日本一になるのは27回です!!」
両手できつく拳を作り、少年漫画の必殺技のように田中総理の目は輝いていた。
「27回・・・1億3000万のトップになるのに!? えぇと・・・たっ確かに27回だ!」
「・・・相変わらず早いね」
総理はマイクを握り締め、激しい身振りそぶりで熱弁する。
「数字的には27回勝てばいいんですよ! テレビの前の皆さん! ただ確率で言うとぉ! 1億ぅ3000万分のいぃぃちぃ! でぇもでもっ! にじゅぅなぁなぁかぁぁいぃ!!連続でVICTORYすればっ! TOP OF THE NIPPONN! とぉっぷおぶざぁ! にっぽぉぉん! なんですよぉ!」
目を見開き唾を飛ばし続けながら演説する。
そして国会は総理の豹変ぶりに静まり返っていた。
「ヒカリ」
「なに?」
「俺、夢見てる?」
「起きてるよ」
「そこでぇー!」
マイクを鷲掴みしながら叫ぶ。
演説台の上に「よいしょ」の声と共に、勢いよく立ちあがる。
そして一呼吸。
大きく息を吸い込みスケッチブックを広げると同時に叫んだ。
「ぜぇん国民っ⤵1億っさぁんぜん万人による⤴全日本大ジャンケン大会を実施するぅぅぅ⤴!」
感極まって感情を爆発したせいか、北〇の拳の次回予告のように、語尾が激しく裏返っていた。
そしてスケッチブックには力強く筆で「全日本ジャンケン大会」と書かれていた。
「この人・・・芸人だったの?」
「一応、総理大臣だよ・・・」
「大会方式はトーナメント方式による勝ち抜き戦!」
「参加費は一人100円!」
「優勝者は参加費を総取り!」
総理が一呼吸置く。
「えっ・・・ちょ・・・マジで」
「冗談でしょ・・・」
「勘の鋭いテレビの前の挑戦者よ・・・そう! つぅまぁりぃぃ!」
そう言って総理はスケッチブックをまためくる。
「優勝賞金は!130億円なりぃぃぃ!!」
「さらに!この賞金は非課税!つまり130億総取りである!」
スケッチブックには大きく強く荒々しく130億円と書かれていた
すると、田中総理の背後から巨大なスクリーンが下りてきた。
何やら古めかしい音楽と港町の映像が映し出され、ナレーションが話し出した。
「今から約60年前ぇ」
「田中総理こと聡一が小学三年生の時だった。クラスで給食のプリンが一つ余ったぁ」
「みんな、プリンが欲しくてクラスは小競り合いになったぁ」
「その時、担任の佐藤先生が言った。ジャンケン大会にしたらどうかしらぁ」
「この瞬間、聡一はジャンケンの持つ平等性と競技性に惹かれたのだったぁ」
「そして、彼は決意するぅ」
「いつの日か、全国民でジャンケン大会をしたいとぉ」
「ヒカリ・・・俺は一体何を見せられている?」
「いや・・・私もわかんないよ・・・」
「聡一が6年生になったとき、弟の総二に聞いたぁ」
「全国民でジャンケンがしたいんだけど、どうしたらいいぃ?」
「弟は答えた。総理大臣になればいいんじゃないぃ」
「この時、聡一は総理大臣になることを決意したのだぁ」
「そして、現在に至るぅ」
映像には「おわり」の三文字が映し出される。
「ふ・・・ふざけんな・・・」
誰かが独り言のように反論した。
その言葉を皮切りに「そうだ!ふざけんな!」の大合唱が始まった。
「だまっ!らっ!しゃい!!」
田中総理がマイクを使わず一喝する。
再び会場は静まり返った。
そう会場を黙らせたのは田中総理の声だけではない。
その眼力だ。
「君達は私を何だと思っている?聖人君主だと言いたいのか?」
「はっきりと言ってやる。私は生まれ切ってのガキ大将だ」
「夢を実行するためには全国民の信頼を勝ち取る必要があった。誰しもが私の声を聴くほどの人間力と説得力が必要だった」
「しかし私は生まれ持っての愚者である。だから私は感情を殺し、賢者の仮面を身にまとい、何十年も信頼を勝ち取るための君達を騙し続けたのだ」
「結果どうだ?騙し続けられた君達の日本はどうなった?戦後最大級に日本は成長した」
「そして、更に問いたい。君達日本国民が国の代表として選んだのは誰だ?君達政治家が国の代表として選んだのは誰だ?」
田中総理は一呼吸おいて続けた。
「YES! IT’S ME!(そう、私だ!)」
「選んだ者たちは最後まで信じろ! 選ばれた者は最後まで責任を持つ! 私は私がこの国の代表である限り、この日本を豊かにする」
「始めよう! 誰しもが平等な戦いを」
「思い出せ。幼き日の給食の残りかけたジャンケンを」
「思い出せ。結婚式2次会の少し景品が熱いジャンケン大会を」
「血肉沸き滾るヒリヒリした展開を忘れた大人よ。純粋に後出しする子供達よ。」
「これは聖戦だ。非課税の130億をかけて国民全体で一喜一憂しようじゃないか!」
田中総理はゆっくりと息を飲み、一呼吸おく。そしてため込んだ空気をゆっくりと吐き出すようにこう言った。
「LET’S PARTY TIME」
「なんなん?これ・・・」
「わかんない・・・」
誰しもが予想しなかった出来事に声を出せる者はいなかった。
『パチパチ』と手を叩く拍手が聞こえてきた。
徐々に大きくなった拍手は会場を埋め尽くす事になる。
一か月後 ―――大学構内―――
「おはよう!吉兆」
「ヒカリか」
「そうだ!ヒカリ 今日のお昼を掛けて勝負しない?」
「ん?あぁ?ジャンケン?お昼のぶん? いいよ」
「行くぞ! 最初はグー!」
「じゃんけん ぽん」
吉兆 チョキ
ヒカリ グー
「あ・・あぁ・・・326連敗目・・・」
「ご馳走様ぁ。今日は学食で何を食べようかなぁ・・・デザートも食べていい?」
「つか、ヒカリも出るんだろ?大会」
「・・・ あたしは遠慮しておこうかな・・・」
「何でだよ! ジャンケン滅法強いじゃん! 130臆だし日本のトップになれる」
「お金とか・・・名誉とかそんなのいらないし・・・普通が一番だよ」
吉兆の力強さとは真逆で、ヒカリは下を向き、その表情は角度的に伺うことが出来ない。
「あ、あのぉ・・・鈴宮さんですよね?」
その声に二人は振り返る。
「あぁ!やっぱり! す、鈴宮さんだ!」
「あの・・・ちょっと」
ジリジリと近寄ってくる男に対して、ヒカリも距離を保つべくジリジリと後退する。
目を合わせなかったヒカリだったが、ここで初めて男の顔を確認すると「あっ」と短く驚き、口に右手をあてたのだった。
特徴的なのが目。顔面総面積に対して、やけに大きくまつ毛も立派だ。
その目が何処を見ているのか分からない。そして常に泳いでいる。
対象者の目と合うと何故がバシャバシャと泳ぎ、また明後日のほうに向く。
それを永遠と繰り返している感じだ。
「あの・・・ヒカリさん?こちらの方は、どちらの方で?」
(何このひと・・・目が常に泳いでるけど・・・大丈夫?)
「あぁ!か、感激だ・・・こんな所で鈴宮さんに会えるなんて・・・こ、今回のジャンケン大会は勿論参加するんですよね?」
「そうそう、申し送れましたが ぼ、僕も連盟に登録してる人間です!まだ、鈴宮さんの華麗な技見たことがなくて~」
(連盟?技?)
吉兆は聞きなれない単語と処理しきれない情報量にパンク寸前になっている。
相変わらずヒカリはイヤイヤをしている。
捕食者ムーブをしてくる男に対し、ヒカリは軽快なステップでかわすと、脱兎のごとく逃げ出した。
男はヒカリの余りのスピードに一瞬何が起こったのか理解できず「す、鈴宮さん?」と声を軽く裏返しながら辺りを見渡すのであった。
当のヒカリはすでに男の遥か後方を「全盛期のボ〇トのような地面反発」を使いながら疾走していた。
「すっ鈴宮さん!待って・・・ぐべっ」
男は吉兆の出した足に引っ掛かったのだ。
吉兆は不敵な笑みを蓄えながら
「よくわからないが、困っている彼女を無視出来るほど、ダメ彼氏じゃないぜ! じゃな!」
と何故か男に向かってサムズアップし、ヒカリの後を追うのであった。
(結局、何なんだ・・・あの男・・・)
(にしても・・・気になる単語が・・・『連盟』?『技』? なんのこっちゃ)
先ほどとは打って変ってランニングフォームがバラバラになり、肩で息をしているヒカリに追いつく吉兆。
「はぁ・・・はぁ・・・吉兆?」
「おう さっきの何だったんだ?知り合い?」
「さぁ・・・何だろうね?た・・・単なる変態じゃない?」
「ゼェ・・」「ハァ・・・」「ヒュー・・・」と苦し気な不協和音を喉の奥から奏でている。
「でも、ヒカリの名前を知ってたよな?・・・それに『連盟』?『技』?」
「あわわわわ!変態の言う事なんて間に受けちゃダメだ・・・グボっ!」
ヒカリは吉兆から出た単語に反応して、女性とは思えない声で咳き込むのだった。
(・・・ 何か隠しているな・・・こりゃ本人から聞くよりさっきの男に聞いた方が早いな)
吉兆は綺麗な短距離フォームのまま右手で顎をさすりながら考える。
「吉兆?? あれは新手の変態よ!そうよ そうに決まってるわ!」
「わりぃ 先に飯食ってて ちょっと忘れ物」
そう言って吉兆は相変わらず綺麗な単距離フォームのまま軽快にターンし、元の道を戻っていくのだった。
「きっちょー!」
追いかけようとしたヒカリだったが膝が笑って追いかけられない。
「昼飯代は後で払う!」
「この体力お化け! 私を置いていくなー!」
悲痛の叫び声をあげるヒカリは全てを諦め、その場でへたり込むのだった。
〇月〇日
全国民ジャンケン大会 ~開幕戦~
東北地方予選会場
記念すべき全国民ジャンケン大会開幕戦が行われる予選会場として『その箱』は、だいぶ寂れていた。
会場となった体育館の小学校は何年も前に廃校になっている。
田中総理は、その会場の入り口にいた。
入口にある鉄製の柱を手で数十センチほど撫でる。撫でた先には『聡一』と書かれた傷があった。
「懐かしいな」
「総理、次が押しています」
「轟君。私が母校に来るのは数十年ぶりだ。少しぐらいは感傷に浸ってもいいんじゃないか?」
「総理、次が押しています」
田中総理は相変わらず鉄柱の柱を眺めていた。
「総理大臣の役職は、君のほうが似合うと思うんだがな?どうかね?私から引き継ぐか?」
彼女は総理を無視しながら体育館の入り口に向かって、カツカツとヒールの踵を鳴らしながら入っていた。
田中総理は短くため息をつき、轟の後についていく。
「そうそう。轟君。国会の演説後の拍手、すごく助かったよ。完璧なタイミングだった。君の仕業だろ?」
田中総理は体育館内を懐かしむように、周りを見ながら轟に言うのだった。
「流石の私も、あの場で気持ちを切り替えるのに数秒かかりました。もし私の拍手の前に、野党の野次が飛んでいたら総理も私も、この場にいなかった可能性がありますよ」
「私の外交も国政も無茶も、君ありきだからねぇ。いつも感謝しているよ」
「おかげ様で総理による無茶のタイミングはある程度予測可能となりました。ですが、今回のような無茶は今後一切しないでください」
先を歩いていた轟が言い終えると同時に立ち止まり、総理に向き合うのだった。
「さて、ご所望された会場に到着しました。今回だけは楽しんできてください。総理」
「今回のセッティングを含め、私の我儘に付き合ってくれてありがとう。総理特権のズルも多少使う事もあったが、楽しませてもらうよ」
田中総理はすれ違い様右手を軽く上げ、轟に感謝の意を述べるのであった。
「それではいってらっしゃいませ」
轟は目線を上げぬまま、田中総理を見送るのであった。
会場に入った田中総理は中央にセッティングされているジャンケン場に進む。
見るからに地元民といった感じの人々が総理を拍手で出迎えている。
中央のジャンケン場に到着した総理は青サイドに陣を取る。
総理とは反対の赤サイドでは老婆がすでに陣をとっていた。
「佐藤先生 おひさしぶりです。本日は私とジャンケンをして頂きたいと思います」
田中総理は佐藤先生に深々とお辞儀をしながら言った。
「おや、田中君。ずいぶんと立派になったわね」
「全国民、そして佐藤先生とジャンケンをする為、私は表面上立派になりました。そしてここへ戻ってきました」
田中総理の目には若干涙が滲んでいる。
「田中君らしいね。当時と全く変わっていない。ガキ大将がそのまま総理大臣になった感じ」
佐藤先生は「うんうん」と頷きながら優しく答えるのだった。
「はい・・・先生のおかげです」
田中総理は、そう言い終えると中央にいた審判へ目で合図する。
「それでは、これより全国民ジャンケン大会開幕戦、佐藤環と田中聡一による一回戦を始める。お互い礼!」
「はじめ!」
「最初はグー・・・・ジャンケン・・・」
当時の記憶共に佐藤先生と田中総理の声が体育館にこだまするのであった。
全国ジャンケン大会
~神奈川地方予選当日~
吉兆はヒカリとの待ち合わせ場所に向かっていた。
(連盟?技? なんのこっちゃ)
(それに、あの男も何も教えてくれなかったしな・・・)
あの後、ヒカリに握手をした男を探し出し内容を聞こうと何も聞くことは出来なかった。
いや教えてもらえなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
~~~~~~~~~~~
「あ、貴方に教える事は、何もありません」
「そこを何とか。ひらにぃ。ひらにぃ」
吉兆は中腰になり相手を見上げ、両手を合わせて懇願している。
「ふん。ぼ、僕を転ばした事を一生悔やむといいです」
それ以降はずっと無視されるだけだった。
~~~~~~~~~~~
(まさか・・・『予知』とか『心が読める』とかそんなベタで漫画みたいな事じゃないよな・・・それに心が読まれてたら、とっくの昔に捨てられてるだろうし・・・)
(もう何だかヒカリに一生勝てる気がしないな・・・何でだろう?はぁ・・・もう諦めるか・・・)
「きっちょー!遅いぃ!」
(よし・・・次負けたら諦めるか・・・)
吉兆が溜息交じりに遠くで手を振っているヒカリを見つめる。
「おぅ 待たせたな」
あくまでも自分のペースを貫き通す。
「最初はグー!ジャンケン・・・」
「えっ?」
ヒカリは拳法の達人のように優雅かつ、素早い動きでグーの姿勢をとる。
「ぽん!」
吉兆 パー
ヒカリ チョキ
(ふぅ・・・もう諦めだな。帰ってヒカリと、どっか行くか)
自分の出したパーを苦い顔で見つめながら『今後の予定』を考える。
「人を待たせて・・・いきなりジャンケン・・・」
「嫌がる私をほぼ脅迫まがいで、ジャンケン大会に連れ出し・・・」
「大会当日、待ち合わせ場所であり、会場でもある区民体育館に一時間の遅刻・・・」
頬を大げさに膨らまし、腕を組み拗ねたふりをするヒカリ。
(やべ・・・こりゃ帰ってイチャイチャしようなんて言えねぇ・・・)
「こりゃ・・・スィーツ食べ放題でもおごってもらおうかねぇ」
拗ねた顔から一転し、ニコニコ顔で言うヒカリ。
「おっおう・・・そうだな」
「やった!」
ヒカリは胸の前で手を握り、軽く飛び跳ねた。
(にしても・・・こいつ本当に怒らないな・・・)
「そんな事より あれだよ もう遅刻だから早く入らないと」
思い出したかのように、区民体育館を指差しながら言った。
「そーだなぁ・・・」
「そういやこの予選地区の参加人数は?」
「128人・・・って張り紙に書いてあったよ」
「ほぉ・・・なるほどねぇ ということは・・・7回勝てばこの地区の予選通過か・・・」
「計算速いね やっぱり学部間違えたんじゃない?」
言葉とは裏腹にヒカリは笑顔だ。
(スィーツ確定演出が出てるからって・・・)
「確か準決勝までは一回勝負で準決勝が3本勝負の2勝先取。んで、決勝だけが5回戦3勝先取だよな?」
「そうそう。よくご存知で♪」
(時間的にどれぐらいになるんだろう?・・・うーん・・・だりぃ・・・)
吉兆達は体育館の入り口である受付場に到着した。
入口には半分以上錆付いたパイプ椅子、折り畳みの長机が用意されていた。
そこに鎮座するのは、椅子や長机より大先輩であろう老人であった。
目につくのが『大会ボランティア』と書かれた黄色のビブスを着ていることだ。
「まずは・・・参加費一人100円ね・・・」
そう言ってゆっくりとお菓子の缶を差し出す。
「お名前は?」
「真田吉兆と鈴宮ヒカリであります。20と1歳になりました」
老人へビシっと軍人さながらの敬礼を行った。
手元にあるA4用紙の参加リストをプルプルと震える手で掴む。
刹那、目付きが大型ネコ科のそれになる。
手にしていたA4用紙を速読のごとく瞳孔が斜めから斜めに動きターゲットとなる『真田吉兆』『鈴宮ヒカリ』というワードの存否を確認する。
1枚目にないと判断するや否や、これまた常人とは思えないスピードで2枚目、3枚目と繰り返していく。
事務員はターゲットとなる文字を捕捉すると、耳にかけてあった赤青鉛筆を指揮者のタクトのように振い、参加に必要なチェックや記入を行う。
「なめるなよ、小僧 流石に鉄砲を使った大戦は経験してないがな。こちとらバブル時代に、札束で殴り合う経済戦争なら経験済みだ」
「かっ かっけぇ」
「なぁ!なぁ! ヒカリ さっきの見た?」
「う・・うん。凄いね(バブルで札束って・・・なんかリアルだな)」
「じぃさん!もう一回!さっきの。もう一回みせてよ!」
「い、いや・・・吉兆、遅刻してるから・・・」
「なぁ!じいさん!もっかいやって!」
「もう・・・私は先に行くよ」
ヒカリは消えそうな声で「なんなのよ・・・」とブツブツ言いながら体育館に入っていた。
ヒカリが会場内に入るころには前置きとなる説明は全て終わっているようだった。
「ですので、もらったゼッケンの番号の場所へそれぞれ行って下さい。それでは予選を開始します」
「ありゃ・・・私、ゼッケンもらってないや」
しかしすぐに体育館正面にトーナメント表があるのを見つけたのだ。
「おぉ・・・あそこにあるのは」
右手で廂をつくり、両目を細め自分と吉兆の名前を探すのだった。
「ヒカリさん ゼッケンを忘れてますぜ」
ヒカリはトーナメント表から目を離さず、左手でゼッケンを貰うため手を伸ばす。
「あぁ ありがとう。えぇと吉兆は108番と・・・私は7番みたいね」
「当然のごとく決勝までは合わない番号ね。よかった」
しかし吉兆はヒカリの笑顔とは反対に、怪訝な顔でヒカリに尋ねた。
「ヒカリさん・・・あれ見えるの?」
「えっ 何が?」
「いや・・・トーナメント表、ここから20、30メートル以上離れた場所にない? 文字も小さいし」
「あっ・・」
ヒカリは口に手を当てる。そして慌てた表情で
「まさか、ここからは見えないよ。さっき近くで見てきたんだよ」
「そんな時間あった?」
「あぁ!あたし7番だし、そろそろ行かないと」
ヒカリは逃げるように、その場を後にするのだった。
吉兆は相変わらず目を細めたまま、ヒカリの後ろ姿を見送くる。
(この前といい、なんか怪しいな・・・まぁいいか・・・)
(とりあえず適当に負けて、さっさと帰ろうっと。負けて帰ったのであればヒカリも文句は言うまい)
すでにジャンケンへの熱意がエンプティ状態の吉兆には『疑問にはなるが、掘り下げるには至らない』些細な問題になっていた。
そして吉兆のジャンケン大会が始まった。
一回戦
相手はスーツを着たサラリーマンだった。
対峙するや否や距離をつめ口元を隠し小声でこう言った。
「君。私はこれから大事な取引があるんだ。私はグーを出すからわざと勝ってくれないか?」
「いや・・・俺も・・・」
負けたいんですけど・・・と言おうとしたが、サラリーマンは下手な演技で吉兆の言葉をさえぎった。
「よし!負けないぞ!審判さっさと初めてくれ!負ける気がしない!大事な事だから二回言った!」
「最初はグー じゃんけん・・・」
(えぇ・・・えぇ~)
「ぽん」
サラリーマン:グー
吉兆:パー
(やっちまった・・・相手のペースに飲まれて間違えた・・・)
サラリーマンは先ほどと同じように二人の距離を詰め、口元を隠し小声でいった。
「有難う。青年よ。もし君が私の会社を志望することがあったら、人事に良く言っておこうじゃないか」
「あぁ!負けてしまった。130億がぁ」
上半身は胡散臭い演技をしているが、下半身はそそくさと出口に向かって消えていった。
二回戦
吉兆の次の相手は小学生だった。
横には母親と思われる保護者もいた。
真っ赤なタイトなドレスを着込んでいるが、年には勝てないらしく体のラインが見苦しいほど弛んでいる。
「130億よ 130億!」と連呼している。
その力強さは彼女の弛んだ肉が波打つほどである。
一方の子供は審判の合図と共に、両手を組みながらひねらせた。
そして両手の間に出来た隙間を覗き込む。
よくあるただ『見えた』というセリフが言いたいだけの小坊病の一つだ。
「見えた!」
「流石、ヨシちゃん!」
「最初はグー じゃんけん・・・」
「ぽん」
ヨシちゃん:パー
吉兆:チョキ
「小学生にムキになるなんて、大人気ない!育ちが悪い証拠だわ」
セイウチボディな女が吉兆に食って掛かったのだ。
もはや赤いセイウチなのか、赤い服を着たセイウチなのか分からない。
とにかく言える事は、どちらもであってもセイウチが日本語を喋っているという事実だった。
黄色のビブスを着た審判が吉兆の勝ち名乗りを上げる。
しかしセイウチが巨体を武器に文字通り吉兆に押し寄せてきた。
審判員が何とか抑止するが、あまり時間が稼げそうにない。吉兆は審判員の「早く行くんだ!」の声と共に、その場を後にするのだった。
やる気のない吉兆だったが3回戦、4回戦と吉兆の意思とは裏腹に勝ち進んでしまうのだった。
そして5回戦で、ある人物と再会する事になった。
目が泳いでる男だった。両者はお互いを確認すると「あっ」と短く声を発し、何か気まずくモジモジするのだった。
相変わらず視線は、どこを見ているか分からないしバシャバシャと泳いでいる。
「先日は変な態度を取ってしまって、すいませんでした」
「いえこちらこそ、いきなり足をかけてしまってすいみません」
お互い営業職が謝罪する時にする「短く息を吸う音」を出しながらヘコヘコと頭を下げている。
「お詫びに極秘情報を・・・」
「極微・・・ですか?」
吉兆はこの手のネタ的なものが大好物だ。
一般の人には通じないネタも吉兆だと一人で大笑いしている事がたまにある。
例の受付員の老人がその類だ。
「俳優のニコ〇ス・ケイジをご存じですか?」
「あのアカデミー賞受賞のニコ〇ス・ケイジですか?」
吉兆は人より映画を見るほうだ。
だが鑑賞した9割の作品に悪態をついている評論家気取りの類だ。
「今この会場に来ているらしいです?お忍びで」
「えっお忍びで!」
「さっきサインもらっちゃいました」
男は、こっそりとサイン用紙を吉兆に見せた。
そこにはカタカナでニコ〇ス・ケイジと書かれており、明らかにまがい物だった。
しかし、こういう事に関して吉兆は純粋である。
「うらやましぃ」
「さっきL〇NEの友達登録もしたんで、後で一緒に談笑しましょう!」
「さて・・・おしゃべりが過ぎましたね・・・そろそろジャンケンを始めましょう」
でら変態の背中を追いかける吉兆の目の端に、見覚えのある姿が映った。
ヒカリだ。何人かのギャラリーに紛れてヒカリが吉兆に両手で振っている。
(今、俺が追い求めているのはヒカリお前じゃない・・・このジャンケンをすぐに終わらせてニコ〇スに会うことだ)
しかし目の端に映るヒカリの動きが変化した。
ヒカリは振っていた両手を何故かピースにした。
そして、そのピースを頭の上まで持っていき、ウサギのポーズをした。
(くそ!俺の趣味をよく理解している女だ・・・しかし今はニコ〇スを)
己の煩悩を振り切ろうとした吉兆だが、それは音を立てて崩れた。
ヒカリがウサギのポーズのまま腰を可愛くクネらせ、さらにウィンクしながら、声は出さずに口を動かした。
(ちょきをだして)
(そうか・・・あの手はピースでもウサギでもなくチョキなんだな・・・)
そう理解した吉兆の右手は無意識にチョキの形になる。
審判員から掛声がかかる。
「最初はグー・・・」
(待ってくれ・・・今はニコ〇スやら、ウサちゃんやら。情報量がおいつかな・・・・)
その瞬間、でら変態が何かを発見したのか、咄嗟に入口付近に首を向け叫んだ。
「ニコ〇ス・ケイジだ!!」
ヒカリVSニコ〇スを天秤にかけていた吉兆だったが、ご本人登場となれば天秤は凄まじい勢いでニコ〇スに傾くのは必至である。
「ぽん」の合図と共に吉兆は首だけをでら変態の視線の先に向け怒鳴った。
「ニコ〇スどこ!」
しかしそこにはニコ〇スの姿はなく、たままた視察に現れた田中総理と轟の姿があった。
「ニコ〇スどこにいんの!」
その声に気が付いた田中総理は自分を指さしながら「私?」と吉兆に向かって問いかけた。
「ちゃうわ!ニコ〇スや!」
吉兆は罵声を浴びせているのが総理だと気付いていない。
「ニコ〇スどこにおんねん!」
もはや目が血走り取り乱している吉兆だったが、次の瞬間、審判員が勝ち名乗りを上げた。
「勝者!真田吉兆!」
よく見ると・・・
吉兆:チョキ
目が泳いでる男:パー
「そんな・・・なぜチョキが出せる・・・」
「ちょっ おま!」
吉兆はでら変態の肩を掴みながら「ニコ〇ス」「ニコ〇ス」と叫んでいた。
この時、吉兆は何故自分が勝利したのか全く理解していなかったし、気にもしていなかった。
しかし数十分後、その理由を理解することになる。
続いて吉兆の6回戦の相手は絵に描いたようなキャラクターだった。
白のスーツに赤のシャツ、胸元は大きく開けており、豊かで濃密な胸毛がアクセサリーのように自身を主張している。
時折、内ポケットから櫛を取り出し、これまた立派なリーゼントを整えている。
(無意識なんだろうな・・・あれ)
リーゼントは櫛を内ポケットに戻しながら、意味ありげな笑顔を浮かべた。
「俺はRockを出すぜ。Baby・・・ふふふ。YouはPaperを出せば俺にVictoryだ」
そして審判にウィンクと指パッチンによる開戦を要求した。
「Well・・・Rockなだけに、Rockな勝負にしようぜ!」
吉兆にはRock(岩)とRock(音楽)の区別がついていない。
『?』な顔をして右手でグーを作っていた。
「最初は・・・」審判が号令をかけるが、よほど英語で事を進めたいのだろう。
リーゼントがそれをかき消すように被せる。
「First Rock! Ja Ken Po!」
英語になりきれていない巻き舌発音で、やたらテンポよく合図する。
一本目
吉兆:チョキ
リーゼント:パー
二本目
吉兆:チョキ
リーゼント:パー
勝負は一瞬でついた。
リーゼントは手を地面につけ、うなだれながら力なく言った。
「Why・・・最初に出す手を公言して精神的優位に立ち、相手の裏の裏をかいたはずなのに・・・」
(なんか簡単な英語しか使わないな・・・この人)
「いや・・・俺さっさと負けたかったから、負ける手を出したんだけど・・・」
「何故だ!この俺がUnderdogなはずはない!」
床をバッシン、バッシンと叩きながら言う。
(その情熱を別の物に向ければいいのに)
「あの・・・人の話、聞いてます・・・?」
うなだれているリーゼントの肩に触れようと吉兆が手を伸ばした。
「Don't! touch! Me! 敗者に手を差し伸べるな! 貴様がどんな手を使ったかはいつか見破ってやる!」
そう言ってリーゼントは吉兆の手を払おうとした。
しかしリーゼントの手は勢い余って何かに当たり、それが地面にゴロンと勢いよく転がった。
その場にいた者、全てが『その転がった物』が何なのか理解するのに時間がかかった。
よく見るとリーゼントの頭は、鳩の巣のような、雑で地肌スケスケの毛量に変化しており、その横にリーゼントのリーゼントが転がっていた。
吉兆とリーゼントはお互い「あっ!」と小さい声を上げるが、それ以上は見て見ぬふりをするのだった。
そうズラがズレている人に向かって「ズレてますよ」と言う人はいないのと同じだ。
リーゼント(偽物)は無言で自分のリーゼントを拾い、小脇に抱え、その場を後にするのだった。
その後ろ姿はヘルメットを抱えて表彰台に上る、F1レーサーの後ろ姿と同じだった。
「あぁ・・・決勝まで来ちゃったよ・・・さっさと負けてヒカリといちゃいちゃしたいなぁ・・・待ち時間も長いし・・・」
そして思い出したかのように「便所行こう」と会場のトイレに向かうのだった。
体育館のトイレには誰もいなかった
(しかし・・・あいつ等、変だったな)
例のリーゼントと目が泳いでいる男のことである。
あの二人は今まで戦ってきた相手とは完全に異色だった。
何よりも歪んだ情熱のようなものを感じたのだ。
考えごとをしていると、トイレに誰かが入ってきた。
(ちっ・・・空いてるんだから、端っこでやれよ)
隣の男がいきなり声をかけてきたのだ。
「この俺にVictoryしたからと言って、あまり調子にRideしない事だな」
「あぁ!さっきの人」
そう隣の男は準決勝のリーゼントだった。しかし、よく見るとリーゼントのリーゼント部分は存在しておらず、地肌が『こんにちは』している。
「あれ?ヘルメットはどうしたんです?」
「Hellメット?」
リーゼントが眉間に皺を寄せながら吉兆に尋ねる。
「あっ いや・・・すいません 何でもないです」
「SSDEに聞く。君はいったいどんなMagicをUseした?」
「SSDE?」
「Single (単) Sword(刀) Direct(直) Enter(入) 日本語で単刀直入だ」
リーゼントは『さも当たり前だろ』と言わんばかりの顔で吉兆に説明する。
(面倒臭いな・・・この人)
「いや・・・だからさっさと負けたかったから、負ける手を出したんですって」
「そんなはずはない!・・・DaemonでもMagicの種は教えてくれないって事か・・・」納得いかないのか、さらに食って掛かるリーゼント。
「だから・・・人の話、聞いてます?」
(というか、『あくまでも』の『あくま』は『悪魔』じゃないけどな・・・)」
「ふっ・・・ジャンケンファイターとして己の手を暴露する事はDeath・・・教えてくれないのはHit Front・・・」
(Hit Front・・・当り前って事か・・・というか話噛み合わなすぎだろ・・・この人・・・冗談は頭だけにしてくれよ)
この短時間で吉兆は優秀なリーゼント翻訳機になったようだ。
「もう話が噛み合わないので行きます」
「まぁ俺に勝ったとしても、決勝があの女とはな・・・どのRoad、君の負けだ」
(どのRoad・・・どの道か・・・と言うかヒカリも決勝に?)
吉兆の足が止まる。
「あの女ってヒカリの事ですか?」
「なんだ あのWomanと知り合いか・・・まぁ あの女ならこんなちっぽけな予選のトーナメントなんてbreakfast前だろう。なら彼女の強さは解っているはずだ。日本ジャンケン連盟公認のファイターならな」
(日本ジャンケン連盟?・・・あの男が言ってた連盟の事か?)
「前にも違う男から聞いたんですけど・・・連盟ってなんですか?」
「はっはっは。君は何も知らなかったのか?彼女の知り合いなのに」
リーゼントは天を仰ぎ右手で蟀谷を抑えながら笑っていた。
「もったいぶらないで教えてくださいよ!」
「いいだろう・・・なら教えてやるよ」
リーゼントはスーツの内ポケットから櫛を取り出すと両手で髪を整える仕草をする。
(エア整髪・・・)
リーゼントのリーゼントは家出中だ。
「あまりメジャーじゃないが日本には日本ジャンケン連盟というのがある。そしてその連盟による大会も地方でよく行われている。その大会に出る人間は勝つことに曖昧な3すくみのジャンケンの必勝法をそれぞれ持っている。それがジャンケンファイター(拳闘士)だ。君も彼女のジャンケンに対する驚異的な強さを味わった事がないか?」
リーゼントは手にもっていた櫛で手のひらをポンポンと叩きながら吉兆に尋ねた。
「・・・確かに彼女に勝った事はありませんが・・・」
「その強さ・・・Funnyと思わないか?」
(その『おかしい』はfunnyじゃなく、Strangeだと思うんだけど)
吉兆はリーゼントの解読作業で無言になっていただけである。
「答えなかったって事はYesって事だな?」
「ふっ Forgetしないよ・・・今から5年ぐらいAgoの事。彼女はShooting starのように現れた」
手にしていた櫛で再び髪を整える仕草をするが、もちろんリーゼントは存在しない。
(2回目だ・・・本当に自分のヘルメットがないの、気付いてないんだ・・・)
「ジャンケン連盟の最高峰の大会1000人トーナメントで、当時High schoolだった無銘の彼女が、並居るジャンケンファイターを負かしVictoryしたんだよ」
「それがヒカリだって事ですか・・・」
「Exactly しかも彼女は優勝のコメントで自分の技を暴露した。ジャンケンファイターにとって自分の必勝法を相手にTeachする事は負けを意味する。だが彼女はそれが知れたとしても勝てると思ったんだろう。皆Shockしたよ。彼女の能力には・・・」
(あの男も言っていた『技』・・・やっぱり実際にあるのか・・・)
「その技って・・・?」
「まぁまぁ最後まで聞けって」
リーゼントはチッチッチと人差し指を左右に振りながら言った。
「それからOne Year 彼女が出る大会は全て彼女が優勝した。そして、その一年で彼女はジャンケン大会から姿をEraserしたんだ。まさにジャンケン界ではLegend・・・一年のみの活動、そして彼女のその能力からLCと呼ばれるようになった・・・」
「・・・LC?・その能力って?」
「Youもジャンケンファイターだろ?俺に種を隠したのと同じ。彼女の能力は自分で見極める。それがジャンケンファイターだろ?」
「いや・・・話の流れで俺がジャンケンファイターじゃない事、分かるでしょう・・・」
「じゃんけんファイターなる者、相手の能力を見極めるのも力の一つ!」
リーゼントは遠くを見つめ、こぶしを作りながら言った。
「いや・・・聞いてない?」
「Just one言っておこう。彼女をよく観察する事だ。さすれば能力をLook break出来るかもしれん」
(Look break・・・あぁ 見破るね・・・なんだっけ入ってこなかった 観察だっけ??)
。
「しかし、例えYouが彼女・・・LCの能力を見破ったとしても彼女には勝てない・・・だろうな・・・」
そして右手を差し出したのだ。
「ふっ・・・Color Colorあったが君の種を見破ってやるよ・・・そして次は俺がvictoryだ!」
(・・・カラーカラーって色々ね・・・それは少し無茶があんだろ)
「どうした?俺とは握手は出来ないか?」
「いや・・・手洗ってないっすよ・・・手」
「んん?ジャンケンファイターたる者、試合が終わったらNo SideのMindだろ?」
リーゼントは左手で吉兆の右肩をバシバシ叩きながら、満面の笑顔で握手を求めてくる。
「いやだから・・・」
(ちょ・・・おま・・・触んなや・・・)
「はずかしがるな!」
リーゼントはそう言ってバシバシ叩いていた左手を、素早く吉兆の首に回し片手で羽交い絞めにする。
「んぅん!」
無理やり右手を握られ、勢いよくシェイクされるのであった。
(あぁ・・・やっちゃったよ・・・やっぱり話聞いてないし・・・)
最初は抵抗していた吉兆だったが直ぐに諦め、なすがままに握手をするのだった。
リーゼントは自分の気のすむまで、力いっぱい握手し終えると、次に両の人差し指を吉兆に向けて指す。
更にその人差し指を自分の両目に当て「よく観察することだ」と小声で言うのだった。
スーツの内ポケットから櫛を取り出しリーゼントを直す仕草をするも、相変わらず空振りしている。もちろん本人は気が付いてない。
(3回目だわ・・・流石にくどいわ・・・つかこれは奴のネタなのか?)
吉兆は再び念入りに手を洗い、体育館に戻るのであった。
体育館ではすでに決勝の準備が出来ていた。
先ほど、吉兆とトイレで固い握手を交わしたリーゼントも少し離れた位置で、壁に寄りかかり腕組をしている。
いつのまにかヘルメットを着用していた。
そのリーゼントに一人の男が恐る恐る近寄ってくる。
「あっ・・・あのネゴシエーター(交渉人)さんですよね?」
その男は下から顔を覗き込むように尋ねる。目が泳いでる男だ。
「公共の場で、その2つ名でCallするなと言っているだろう。ビックリマン(突然男)よ」
リーゼントはビックリマンと呼んだ男に目を合わせず言う。
「す、すいません・・・」
「YouもLegend QueenのStageを見に来たのか?」
「そ、そうですね・・・実際に見たことはないので」
そんな二人のやりとりを遠くから眺めている人間がいた。
その男はしばらく「いいね」「面白そう」と独り言を呟いていたが、後ろに控えている女性に向かって「よし決めた あの二人の横で見よう」と少年の笑顔で告げるのだった。
田中総理だ。
「・・・視察の時間はとうに過ぎていますが」
「別にいいじゃないか。会食なんて。生産性がない。やりたい奴で勝手にやればいい」
そう言って田中総理は二人に向かって歩き出した。
「ではキャンセルの連絡を・・・」
「やぁ 私もここで観戦させて頂いていいかな?」
ビックリマンは突然の来客にオドオドと目を泳がせ、どうにかしてくれとリーゼントに見つめている。
「どこのMr. Dandyだか知らないが構わないぜ」
リーゼントはドヤ顔で答えた。
(こ、この人・・・日本の総理知らないの・・・?)
ビックリマンは泳がせていた目を見開きリーゼントを見つめる。
「ありがとう」田中総理は短く礼を述べると2人の輪に加わるのだった。
その後ろで轟は電話越しに「申し訳ございません「「次の機会で」と話している。しかし言葉とは裏腹に顔は無表情だった。
そんな中、決勝の舞台へ向かいながら吉兆は考えを巡らせるのであった。
(つか・・・本当にあのヒカリに特殊な技があるってのかよ・・・でも確かにあの強さは只者じゃない)
吉兆は不穏な3人組の中にいるリーゼントを見ながら考える。
「吉兆!こっち、こっち!!」
ヒカリは先に決勝の舞台で待っていた。
「おっおぅ・・・」
「なんだかんだ言って二人とも決勝に来ちゃったね!」
ヒカリはやけに楽しそうだ。
「そ・・・そうだなぁ・・・」
「? どうしたの、吉兆?なんだか余所余所しいけど・・・」
「い、いやそんな事ないよ・・・ただ・・・ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」
「なぁに?」
「あのさ・・・ヒカリってジャンケン滅法強いよな・・・」
ゴクリと唾を飲み込みながら吉兆が切り出す。
「そうかなぁ・・・?」
(聞くのか・・・?真田よ・・・)
リーゼントは壁にもたれながら、吉兆を厳しい目付きで見つめていた。
「あの二人何かあるのかな?」
田中総理は興味津々と目の奥を輝かせている。
「見てれば分かるさ Mr. Dandy」
「それは楽しそうだ」
「いや・・・やっぱいいわ・・・なんでもないよ」
「どうしたの??なんだか変だよ?」
小首を傾げながら、ヒカリが吉兆を覗き込む。
「いや・・・なんでもない。ホント」
(何だろう・・・聞いてはいけないような気がした)
(そうだ。そこで変に聞いてはいけない。鈴宮はお前が薄々感づいている事を知らない。ここで変に探りを入れたら相手の警戒心に火をつけるだけだ・・・ 真田、お前の唯一のアドバンテージはそれだけ。そしてそのアドバンテージを盾に鈴宮の能力を見破るんだ)
リーゼントはニヤリと頷くのであった。
(兎に角、気に食わない事が一つ・・・赤の他人が知ってるヒカリを俺が知らない。これは彼氏としていかがな物か!)
(こうなったら意地でもヒカリに勝つ!家に帰っていちゃつくのはやめだ!ヒカリの技・・・あばいてやるよ)
「よし!ここまで来たらぜってぇ負けねぇ!やってやろうじゃねぇか!」
「なんだか解らないけど、何時もの吉兆に戻ったみたいね」
そんなやり取りをしていると、二人の間に一人の男が入ってきた。
吉兆たちの受付をしていた、事務の極意を極めし男だ。
男は黒のスラックスに白のシャツ、黒の蝶ネクタイをしている。そして腕には例の腕抜きがつけられたままだ。
「只今より 高田地区予選決勝を始める!」
「右!鈴宮ヒカリ! 左!真田吉兆! お互い一歩前へ」
「決勝は5回戦3本先取になる!その他のルールは今まで通りだ!お互い例!」
「1本目!初め!」
(負けないよ・・・吉兆)
(よく観察するんだ・・・それが突破口)
(ヒカリの能力・・・えぇい!儘よ)
それぞれの思いが交錯する1本目が始まる。
「最初はぐー!じゃんけん!ぽん!」
吉兆:パー
ヒカリ:チョキ
「1本目勝者鈴宮!」
審判の力の入った声が響き渡り、ギャラリーから歓声が上がる。
「くっ・・・やっぱ強いな ヒカリ」
「ふふ」
(・・・正直何時ものジャンケンと変わらない・・・これをどう観察しろって言うんだ。クソっ クソ!)
(真田よ・・・その顔・・・一本目では何も見破れなかったな)
(どうした真田。俺の見込んだ男は、ただの買いかぶりだったのか?)
二人の表情を見比べて、田中総理がリーゼントに尋ねた。
「なるほどね・・・このままだと彼がストレート負けしそうだけど?」
「そんなことは、分かっている! しかし相手は難攻不落の女王だ!」
リーゼントの声は力が入ってしまい周りのギャラリー何人かを振り向かせた。
「女王?」
その様子に動揺したのは、なぜかビックリマンだった
自分が攻められていると勘違いし、目を泳がせ、早口で説明しだすのだった。
「彼女は嘗て最強とうたわれたジャンケンファイターです!」
ビックリマンは一度、総理と目を合わせたが直ぐに泳ぎだす。
「ちょっと詳しく聞きたいな・・・」
田中総理がビックリマンに問いかけるが、彼はすでにテンパっているようだ。目がオリンピアンと同じようなスピードで泳いでいる。
「どうしたものか」とため息をついていた田中総理だったが、誰かが彼の肩を後ろから叩いた。それは電話越しで謝り続ける轟だった。
彼女は電話を耳と肩で挟みながら器用にタブレットを田中総理に差し出している。
「何々?」
田中総理は目を細めながらタブレットを見ようとする。
「えぇと・・・見えない」
老眼だ。すると間髪入れずに轟が老眼鏡を差し出す。
「すまんね・・・歳には勝てなくてね・・・」
田中総理の言葉を聞いた轟はサムズアップで頷き、電話越しに謝り続けていた。
「どれどれ・・・活力・爆発力・持続力には・・・・マカマカの実・・・」
目の焦点があうまで、たどたどしい口調でタブレットを読み出す田中総理だったが間髪入れず、轟が手の甲でバシっと肩を叩く。
よくある漫才の鋭利な突っ込みだ。轟は突っ込んだ手でタブレットの記事を指さす。
「あぁ・・・すまない こっちは広告か・・・」
田中総理の言葉を確認すると轟は再びサムズアップで頷き、電話の相手に向かって謝罪している。
「えぇと、月間ジャンケンマガジン5月号・・・ジャンケン界隈のグラビアアイドル志村のりこ撮りおろし・・・」
「そろそろ2本目が始まるぜ Mr. Dandy」
(何も見えねぇ・・・・この異常な強さ・・・確かにあいつの言う通り何かが一枚絡んでいるのは確かとみていい・・・だけど何も見えねぇ・・・)
「2本目!初め!」
(吉兆・・・ごめんね でも勝負の世界だから・・・そして二人の為だから)
「最初はグー」
(くっそぉ!!何を出す?何を出したらいい?何を持ってヒカリを制したらいい?)
「じゃんけん」
(・・・グーか!チョキか!パーか!・・・このままだと負ける)
「畜生!」
この時、吉兆はポンの合図で思わず思っていたことを口に大きく出してしまうのであった。
「ぽん」
吉兆:パー
ヒカリ:グー
「おぉ!」
ギャラリーから歓声が上がる。
「2本目勝者真田!」
「あ・・・あれ?」
真田が自分の出したパーを見つめ呆然をする。そ
(・・・迂闊だった。吉兆の叫びに気を取られたか)
ヒカリの顔は今までに見たこともないような表情になっていた。
「・・・ヒカリ・・・俺、勝っちゃったよ?」
「そ・・そうだね・・・」
戸惑いを隠せないヒカリだったが、吉兆に声をかけられたことで、すぐにいつもの笑顔に戻るのだった。
(ふっ・・・鈴宮の能力を知らないが故に出た素人の奇襲か・・・真田!よく考えろ!そこに鈴宮の能力の鍵はある)
(まさかね・・・私の能力が見破られた?いや・・・そんなはずはないよね。だってあの表情・・・)
ヒカリは吉兆を見ながら思う。
(勝った・・・ヒカリに勝った?オレが?・・・マジで?)
最初は信じられないと言う感じの吉兆だったが、徐々に喜びが大きくなり、それが実感に変わっていく。
「勝ったんだ:・・苦節327連敗にして勝った!俺が勝ったんだ!よっしゃー!」
吉兆は1人で万歳三唱をする。
そして何やら文字を書くふりをしている。
この流れは恐らく当選した議員の恒例行事、万歳三唱から達磨の目入れを模しているのだろう。
一通り勝利の味をかみ締めた吉兆は次に冷静になる行動をとることにした。
(とりあえず理由は解らないけど1勝だ・・・よく考えろ・・・そして思い出せ・・・そこに何かヒカリに勝った理由があるはずだ)
吉兆は自分のパーを見つめ、次に目をつぶり考える。
(そのためには時間が少しでも欲しい・・・どうにかして時間を稼ぎたい・・・あっ)
吉兆は何か思いついたのか、急に左手で右手を押さえ苦痛の表情になるのだった。
「あっ・・・何か右手が痛てぇ!多分さっきのだ 何か捻ったっぽい!」
その場にいた誰もが『たかだかジャンケン如きで腕を捻るはずないだろう』と思ったのは言うまでもない。
しかし、時に仮病は絶対防御壁になる。『もし仮病が本当なら、このご時世、無理させた人間の責任になる』それは誰もが避けたいこと。
「お、お客様の中にお医者様はいませんか!」
吉兆は右手を押さえながら、周りを見渡す。
若干芝居がかっており鼻につく。
そして、例の怪しい3人組+1人のところで顔を止め
「もし?そちらの白い方?お医者様ではなくて?」
リーゼントを他の3人が覗き込むように見る。
「多分・・・君の事だと思うんだけど」
「ん?Meのこと?俺はDoctorなんかじゃないぜ?」
当り前だろと言わんばかりの小馬鹿にした溜息を混ぜながらリーゼントが答える。
(面倒臭いな・・・この人)
「いや話の流れ的に、君を医者にして、腕を見てもらいたいんじゃない?彼は」
「回りくどいのは苦手なんだがな」
リーゼントは更に溜息返しで吉兆の元へ向かった。
「見ての通りドクタータイムだ・・・よろしいか?鈴宮選手」
審判員がヒカリに声をかける。
(あの白い人・・・どこかで・・・)
ヒカリはそれに対して無言で頷くだけだった。
吉兆は相変わらず痛がるふりをしながらヒカリに背を向けて、その場に座り込んだ。
吉兆は腕を差し出し、リーゼントに小声で話しかけた。
「そのまま診察するふりを続けてくれませんか?」
「それはかまわないが、Queenの技は見抜いたのか?」
「それが全く分からないんですよ。勝った理由も何もかも。だから時間が欲しいんです。今生の頼みです」
「ふっ・・・大の大人がライバルに頭を下げるか・・・嫌いじゃないぜ!そのBoys comicsのような展開は!」
リーゼントは熱すぎる展開に『嫌いじゃないぜ!~~』以降を大声で叫んでしまった。
ことの成り行きを見守っていたビックリマンがキョドりながら田中総理に話しかけた。
「も、盛り上がってますね・・・」
田中総理も首を振りながら半笑いで答える。
「会場の99%が仮病であると感じていたが・・・100%になったな・・・まぁまだ時間はかかりそうだし、さっきの記事の続きでも・・・」
そうって田中総理はタブレットに目を落とすのだった。
吉兆は大げさに触診を繰り返すリーゼントに身を委ねていた。所々ドイツ語のような単語が聞こえてきたが、通訳を振り切り、先ほどのジャンケンに考えを巡らせていた。
(冷静に・・・まず俺の行動だ。いつもと違った所を考えろ。俺はあの時・・・悩んで、悩んで・・・パーを出した・・・)
自分が「ぽん」で出すまでの過程をスローで思い出す。
(!)
吉兆の頭に何かが浮かんだ。
(いや!パーを出したんじゃない!パーになったんだ! ・・・悩みに悩んだ結果、手を振っている途中に手が色々と変わった。これがいつもと違う所)
さらに眉間に皴をよせ考える吉兆。
すると何故かビックリマンのキョドり顔が脳裏に浮かんだ。
(いや、こいつは違うだろ・・・今考えることじゃ・・・)
するとビックリマンの叫んだ「ニ〇ラス・ケイジ」自分の叫んだ「畜生!」が脳裏で融合し合体していく。
(! そうだ。いつもと違うのは、俺が叫んでいたこと)
(そして、この男が言っていたヒカリを観察しろか・・・)
吉兆は先ほど自分の動きをスローにしたように、ヒカリの動きもスローにし一連の動作を思い出す。
(何も・・・不思議な所はいつもと変わらず・・・ん?)
何百回としてきたヒカリのジャンケンの数々がスローで再生される。
(あれ?・・・ヒカリの視線・・・なんか・・・普通ってこの空間を・・・?)
何かが不自然に引っ掛かる。
それはこの会場での出来事。
遠くのトーナメント表を眺めるヒカリと、ジャンケンで負けた時にビックリした顔でこちらを見ているヒカリだ。
(!)
突然やってきた。
そう圧倒的閃き。
雷に打たれたかのように吉兆の脳裏に全てが繋がって全身を駆け抜けていく。
(十中八九間違いない・・・ヒカリの能力は常人離れしたアレだ)
この時、リーゼントは吉兆の口元を見逃さなかった。
「その口元・・・Queenの能力に気づいたか!?」
「多分な・・・」
吉兆はニヒルな笑顔で答えると、すぐさま目を瞑り一呼吸置く。
「Devil ballは分かっていても、打てないのがDevil ballだ。我々のような凡人にReal Devilは攻略可能なのか?」
「もちろん、攻略可能だ」
「人間が想像したDevilには必ず弱点が存在する(ソースは見てきた映画) その弱点をついてやるよ」
吉兆はリーゼントと硬い握手をし、立ち上がる。
「悪魔祓いにいってくるぜ」
吉兆は左手で右手を押さえ、何故か右足も引きずりながら戻っていく。
その背中に向かってリーゼントは「Good Luck」とサムズアップするのだった。
「あれ、右手は仮病だったけど、右足もだったっけ?ケガ増えてない?」
いわゆる厨二病が悪化した瞬間だった。
「もう初勝利の余韻は十分に味わった!連敗も327で止める事が出来た! ヒカリちゃん オレもう負けないよーおらぁ!いくぞ!」
(そうだ、真田。お前は知らないふりをしろ。鈴宮の能力を見破った素振を見せるな)
(知らないふりをして・・・ヒカリを油断させて。天才吉兆様が考えた最強の奇襲を食らわせてやるよ!)
「3本目始め!」
(いつもの吉兆・・・そうよね 何も知らない吉兆が私の能力を知るはずもないし、ましてやこの戦いの間で見破る事も出来ないはず・・・考えすぎだわ)
ヒカリがこの考えを悔い改めることになるのは、ほんの数秒後になるのだった。
「最初はぐー」
「じゃんけん」
「ぽん」
吉兆:パー
ヒカリ:グー
「おぉ!」
「勝者!真田吉兆!」
ギャラリーから歓声があがり、審判が吉兆の勝ち名乗りを上げる。
(また負けた・・・この私が・・しかも2連敗・・・だと)
「・・・迂闊だった」
ヒカリは自分のグーを見ながら唇をかみ締める。
その目はいつものヒカリの目ではない。
大きく見開かれ、釣りあがっている。
「あれぇ?また勝っちゃったよ?」
舌を出しながら小躍りをしている吉兆。
「下手な芝居はやめるんだな、吉兆。いつから私の能力に気づいていた?」
自分のグーを見つめていたヒカリだったが、吉兆を睨み、場を凍らせるような低い声で言った。
「・・・ヒカリ?」
吉兆はヒカリのあまりの豹変ぶりに戸惑いを隠せなかった。
「下手な芝居にだまされ、見破られていないと勝手に判断し、油断した私が愚かだった」
ヒカリは氷のように冷たい口調で淡々を話す。
「それがお前の本性か?まぁそれも許容範囲内だけどな」
「いつもの私も私。ジャンケンをする時の私も私だ」
目を細くし、ヒカリが言う。
「正直 知らないフリをして4本目も頂こうと思ったがやっぱり無理だったか・・・」
「いつから私の能力に気づいていた! 吉兆ぉ!!」再度ヒカリは大きく目を見開き、吉兆を一喝する。そ
丁度、謝罪の電話が終わったのか轟が田中総理に尋ねた。
「何なんですか?・・・高々ジャンケンごときに能力って・・・」
ヒカリの雰囲気に飲まれていなかった数少ない人間である轟が田中総理に尋ねた。
「先ほど君が見せてくれた月間ジャンケンマガジンによると、彼女はジャンケン界隈で有名な女性で、それに似あった能力を持っているらしい」
轟に渡されたタブレットを人差し指の第二関節でコンコンと叩きながら田中総理は答えた。
「はぁ・・・?ジャンケン界隈?能力?ついにお壊れになりましたか?」
こちらもヒカリに劣らず淡々と冷たく毒を吐く。
「まぁ、おとなしく聞いてな。これから最強と呼ばれた魔法の種明かしが始まる」
突然リーゼントが二人の間に割って入る。
「・・・2本目の後だよ」
吉兆はこのまま黙っていられる空気ではないと理解し話し始めた。
「・・・」
対照的にヒカリは黙ったままだ。
「ヒカリの能力を見破ったのは些細なことの積み重ねだった」
「一つ目は『視線』だ」
「視線だと?」
それを聞いてヒカリの眉がピクリと動く。
「そう、視線。普通ジャンケンをする時って「ぽん」の合図で出す『戦場』を最初から見ているはずだ。普段あんまり意識していないと思うけどね。そこでオレの記憶力の良さがヒントをもたらした」
吉兆は自らの記憶力を自負するため、わざと一呼吸おいた。
「もったえぶるな」
苛立ちのためかヒカリは腕を組んで、人差し指でトントンと腕を叩き出した。
「大会の前にした不意なジャンケンもそう。道端での勝負もそう。全てにおいて共通するヒカリの視線は戦場ではなかった」
「全327回のジャンケンをスローにした結果、ヒカリは『俺の手』をずっと見ていたことが分かった」
「二つ目は『視力』だ」
「ここでクイズです。この会場に入ってヒカリが最初にしていた行動は?」
吉兆は腕時計をしていないにも関わらず、左手の手首を見ながらチクタクチクタクと制限時間をカウントしだした。
「・・・」
ヒカリは答えなかった。
「ブブー 時間切れぇ。正解は遠くにあるトーナメント表を見ていたでした」
吉兆はそう言って何十メートルも離れた位置にあるトーナメント表を指さした。
「この距離から普通見えるか?見えないよな?でもヒカリは見えていた。そうだろ?ヒカリさん」
そう言ってヒカリをニヤリと見つめたのだった。
「・・・」
相変わらずヒカリは黙ったままだった。
「正直、この二つだけではしっくりこなかった。しかし、そこに偶然という名のスパイスが加わったんだ」
調子にのった吉兆は親指と人差し指の腹をすり合わせ、塩を振る仕草をした。
「たまたまだよ。俺が勝った時、いつもと違う偶然が2つほどあった。1つ目は出す手が『直前まで迷ってチョキからパー』になったこと。2つ目は『畜生』と叫んだことで起きたこと」
「結論から先に言う。ヒカリ、お前の目や動体視力は人知を超えているんだろ? その超人的な目や動体視力で相手が出す『手』をギリギリまで見る事が出来るんだろ?だからヒカリは戦場ではなく相手の手を見続けている」
「だが俺の予期せぬ偶然の行動で崩された。いつもの通り相手の出す手をギリギリまで観察し勝てるグーをそのまま出そうとした。しかし急に俺が叫んだ事で、視線が俺の手から顔に移った。結果、ヒカリは視線を外したことでグーをそのまま出し、俺は直前で迷ったパーが出た。全くの偶然の勝利だ」
「ふふ・・・ははははは! 記憶力だけ優れてる吉兆だから気づいたって事か!」
一瞬の静寂の後、急にヒカリが笑いながら叫んだ。
「たった今、思い出した。そこにいる白スーツと小さい男は連盟の連中だろ?あいつ等から何か吹き込まれたかと思ったよ」
ヒカリは一頻り声を上げて笑った後、笑いすぎて出た涙を人差し指で拭いながら言った。
「ただ観察しろって言われただけだけどね」
「俄かに信じがたい話ですが、仮にその偶然の勝利が2回戦目 では、3回戦目の彼の勝利はどのような理由で?」
ことの成り行きを傍観していた轟だったが、田中総理に尋ねる。
「君、他の仕事をしていてちゃんと見てなかったろ?彼の利き手は右、出した手は左手だ ここまで言えば分かるだろ?」
田中総理は顎を摩りながら轟に答えた。轟は「あっ」と短い声を出して納得したようだった。
「まさかな・・・Devilの弱点を逆手にとって、構えた右手を直前で左手にすり替えるとはな 少し複雑な気分だな・・・」
ビックリマンが咄嗟に答える。リーゼントの言う通り吉兆の3回戦目の勝利は、彼の言う通り奇襲だった。
ヒカリの能力を解読しポンになる直前のタイミングで、右手で構えていたチョキから、左手のパーにスライドしたのだ。
「まさか奇襲がここまで上手くいくとは思わなかったよ。やはり一点に集中している時は、周りが見えにくくなるんだな。差し詰めカメラの単眼レンズって所か?」
ヒカリは相変わらず冷たい目線で吉兆を睨みつけていた。
今まで400敗近い苦渋を嫌というほど味わってきた吉兆のテンションは言わずもがな爆アゲ状態だった。『やっとこの女に勝てる』という目前の人参が勝負を急がせた。
「おっちゃん 4回戦の合図を!」
その声に審判も相槌を打ち「両者前へ!」と声をかける。
「待て!真田!」
リーゼントが急に声を荒げた。
そんなリーゼントの慌てぶりを見て田中総理が声をかけた。
「このまま相手に考える隙を与えず、良い流れのまま勝負に挑んだほうが良いんじゃないのか?」
「考える隙を与えられてないのは真田のほうだ!このままではQueenの餌食になる!その記事には続きがある!読んでみろ!」
「違うんだ・・・真田・・・本当の恐ろしさは・・・Queenが開眼した後だ・・・」
田中総理は先ほど読んだタブレットの記事の続きを声を出して読みだした。
『鈴宮チャンピオンの能力は、その圧倒的な目や動体視力の能力で当初Eagle Eye(鷹の目)と呼ばれるようになった。しかしそれは大きな間違いだった。いや間違いではない。特筆すべきは鷹の目以上の能力が備わっていたこと。このチャンプは反応速度が異常に発達していること。つまり刺激を知覚してから筋肉が動く時間が極端に短い。以来、彼女は鷹の目ではなくLightning Counter(絶対反撃)と呼ばれるようになった』
「絶対反撃?」
「まぁ 黙って見てなって・・・開眼したQueenが本気を出すぜ」
「とにかく真田3勝対鈴宮1勝で真田のアドバンテージのままです。ここで真田が勝てば、そのまま優勝です!」
ビックリマンが状況をまとめる。
4回戦の舞台は整っていた。
余裕綽々の吉兆と、無言を貫くヒカリは両極端だった。誰の目に見ても吉兆の勝ちが濃厚だった。
「最初はグー」
予想通り吉兆は右手で音頭をとるが、左手もすでにスタンバイしている。
「じゃんけん」の声と共に「これで終わりだー!」とドラ〇ンボールの全力気弾負けフラグで閉めようとする。
しかしリーゼントは見逃さなかった。無表情だったヒカリの口元が笑っていたのを。
「くるぞ!この勝負、刮目せよ!」
「ぽん」
吉兆:パー
ヒカリ:パー
その場の誰もが『予想外の引き分けに』に戸惑った。
「あっ あいこでしょ!」
吉兆:グー
ヒカリ:グー
またしても引き分けだった。それから2連続ほど引き分けになった。
回数を重ねるごとに吉兆の余裕は焦りへと変貌していった。
ヒカリを討伐すべく右手から左手にスライドさせる作業を必死に行っている。
4回戦が始まる前は全く逆の立場だった。
それがほんの数十秒で逆転している。
誰しもが、この異様な事態に声を上げられる者はいなかった
しかし、この特殊な状況で声を上げられる強メンタル保持者、つまり強烈に空気を読めない人間がいた。
「これ、ありえなくないですか?」
轟だ。
「君、よくこの状況で普通に会話が出来るね?さては仕事で状況見てなかったでしょ?」
「はぁ・・・」
二人の短いやりとりが終わりかけた時「ふふ・・・」とその小さな笑い声のような物が聞こえた。
この静まり返った会場内で皆に聞こえた声は、次第に甲高く、誰かをあざ笑うような声に変わっていった。
「ふふ・・・・あはっ。あははははははははは!この状況、確かにありえないよな!吉兆!」
いつのまにか邪悪な黒ヒカリに戻っていた。
「うふふふふ。それで何が『これで終わり』なのかなぁ?」
黒ヒカリは若干うっとりした表情で、モジモジしながら色っぽく吉兆に問いかけた。
「・・・」
吉兆は何も答えなかった。引き分けは6回をこえ、今も続いている。
「無邪気な吉兆を騙して高い所から突き落とす感覚。たまんないわ」
そして8回目の勝負で急に決着がついた。
吉兆:パー
ヒカリ:チョキ
ヒカリはウィンクと共に「ごめんね、吉兆。我慢出来なかった☆彡」と言ったのだった。
「確か・・・私の目は単眼だから、周りがボヤけるみたいな事、言ってなかったっけ?」
「残念だけど、私の目は超広角だからw」
「だから言ったんだ。あのQueenは生粋のドS 連盟トーナメントの決勝でも、相手を痛ぶるだけ痛ぶった後に優勝している。彼女の視力と反応速度は常人では理解出来ないほど優れている。相手がどんな手を使っても『相手の手を肉眼で捉える視力』と『視界で捉えた情報を筋肉に伝える反応速度』の二つの能力で『相手に勝てる手を必ず出せる』んだ。さっきの連続引き分けだって彼女の手の中で踊っていたにすぎない。Lightning counter(絶対反撃)の名は伊達じゃない」
リーゼントは誰に言うでもなく、独り言のように吐き捨てた。
それを聞いたヒカリは「丁寧な解説ありがと」とリーゼントにニッコリと微笑むが、一瞬で冷徹な顔に戻り語りだした。
「この際だから色々と教えてあげるわ」
「さっき吉兆が使った右手から左手にスリ替える技は『ツバメ返し』と言い既に存在する技よ。更に右から左、そして右手に戻す技『ちゃぶ台返し』という技も現存するわ。前者は佐々木小次郎の技ね。後者は昭和のスポコンアニメらしいけど、食事中のちゃぶ台をひっくり返す惨状から由来してたみたいね。よく知らないけど」
昭和のことは全く分からないと、両肩を竦めながらヒカリが言った。
「まぁどっちも、私に勝とうと編み出された技だけど、私が1年間無敗だった理由を考えると意味分かるよね?」
「両方とも即時攻略された・・・いとも簡単に」
「あなたには聞いてないわ。ネゴシエータ―(交渉人)」
ヒカリは酷く冷たい視線と口調でリーゼントに吐き捨てるのだった。
「いや、ごめんなさい。この二つの技の発案者には敬意を表さないとね。ネゴシエーターさん」
(えっ)
吉兆が急に反応した。吉兆は驚きの目でリーゼントを見ると、彼と一瞬だけ目が合った。
「そうだ・・・俺は『二つの技』で彼女に完敗している」
「そうそう、誰かさんみたいに自信満々で挑んできて、余裕で敗北させるのって相変わらず気持ちいいよね。そこにいるネゴシエーターさんも、ビックリマンさんも」
二人の脳裏にはヒカリに完敗した過去が、料理に失敗したフライパンの焦げのようにこびり付いている。
「連盟に登録している人間って勝ち負けが不安定な3すくみのジャンケンで、いかに勝てるかを自分なりの必勝法で挑んでくるわけ」
ヒカリは腕を組み顎を上げ、完全に上から視線で話し出した。
「ビックリマンさんはポンの直前に相手をビックリさせて相手にグーの手をそのまま出させる、どうしようもない戦略」
ヒカリは組んでいた右手の人差し指を頬にあて対戦したことを思い出すかのように薄く笑う。
「ネゴシエーターさんは試合前に、役に立たない交渉で、精神的優位に立った気でいるお門違いの策略家。他にツバメ返しの発案者でもあるわ」
今度は左手の人差し指を頬にあて、同じように薄く笑う。
「吉兆は2人と対戦したから分かるでしょ?」
吉兆は二人との対戦を思い出し、交互に二人を見るのだった。
二人とも対戦していた時に感じた「どこか楽しそうな雰囲気」とは真逆の悔しそうな顔をし、吉兆とは目を合わせなかった。
吉兆はその表情だけで、過去に二人がどんな苦渋を味わってきたか理解出来た。
「わかったでしょ?吉兆」
「なにが・・・?」
「私にジャンケンで勝とうなんて25年早いってことよ」
恍惚の表情で言い放つヒカリはまるで淫魔のようだった。
「時に吉兆、おとなしく負けてくれる?」
ヒカリの声のトーンが急に落ち着き吉兆に問いかけた。
「今なんて・・?」確かに自分に対して「負けろ」と言った。
「だから余計な事は考えないで負けてって言ったの」
ヒカリは長く美しい髪をサラサラと手でなびかせながら言い放ち、そして続けた。
「あなたが余計なことをしなければ、私は100%130億と言う賞金を手にすることが出来るわ」
目をキラキラと輝かせ、シスターのように胸の前で両手を組み遠くを見つめながら言葉を続けた。
「130億あればどんな未来が見える?そう、一番近い未来は私達の挙式が見える。それもプロ野球選手とアナウンサー並みの結婚披露宴!」
組んでいた手を大きく広げ恍惚な表情をするヒカリは、例の持病であるウェディングトリップ状態だった。
「披露宴のあとは皆に笑顔で見送られクルーズ船で世界旅行。仕事はお互い無理をしない程度で、その分家族との時間を大切にするの。子供は2人以上で私立幼稚園に通わせて・・・・・」
広げた両手で自分の肩を抱きしめクルクルと回転するヒカリだった。
しかし、そんなヒカリの妄想物語は途中から吉兆の耳には届いていなかった。代わりに彼の中で大会が始まる前にしたヒカリとの『お金とか・・・名誉とか、そんなのいらないし・・・普通が一番だよ』という言葉がエコーとなって何度も何度も耳の奥で響いてきた。
(何が『普通が一番だ』 カマトトぶってんじゃねぇよ)
吉兆は『勝手に自分の未来予想図を決められたこと』『八百長で負けろ』と指図されたことが気に食わなかった。
よくよく考えたら、やっと巡ってきたヒカリへの勝利のチャンスだ。
(男のプライドなめんじゃねぇよ・・・)
「・・・・」
吉兆は、その場の誰もが聞き取れない声で何かを呟いた。
二人の輝かしい未来を恥ずかしげもなく語っていたヒカリだったが、吉兆の声に反応し「どうしたの?」と聞いたのだった。
刹那、吉兆は顔を上げ、叫んだ。
「うるせぇって言ってんだよ!」
吉兆の顔は怒りと言うよりも決意の表情になっていた。
「130億も私立幼稚園も関係ねぇんだよ! 男はな、たとえ未来が99%決まっていても逃げちゃいけねぇ時があるんだよ!」
「八百長で手に入れた『大変お幸せな未来』なんて、クソ興味ねぇんだよ!皮算用的夢物語なんて語ってないで勝負しろやい!この、すっとこどっこい!」
ヒカリは、背景にお花畑がチラつくような雰囲気から一転、瑞々しい花々は徐々に枯れ始め、禍々しいオーラが体を包み込んでいく。
それにあわせて持病で幸せ一杯だった顔も鬼の形相に変化していった。
今にも髪が逆立ちそうな雰囲気だ。
「私の・・・この私の幸せ未来予想図を・・・よくも・・・よくも・・・この恨み辛み・・・晴らさでおくべきか・・・きっちょうぉぉ!」
しかし吉兆は意外にも冷静だった。
この最愛のラスボスを倒すための打算を考えていた。
(とは言え・・・どうする? このモンスターをいくら煽ったからといってボロが出るわけじゃない)
そして吉兆は目を閉じ考えるのであった。
「どうした?先の意気軒昂はどこに行った?目を閉じて考え事か?」
(まさに暗澹だな・・・ん?目を閉じる?)
急にヒカリの言葉が脳裏に引っ掛かった。
(そうか、ヒカリの能力は目で見ることが前提だ・・・目を閉じてくれれば勝てるかも・・・って無理だよな・・・どうしたもんか・・・)
吉兆は周りの雑音を遮断するため、自信の呼吸音に集中する。すると心の暗闇から徐々に何かが近づいてきた。ビックリマンだ。
(いや・・・また出てきたけどお前じゃないし)
(消えろっての!)
心の中の吉兆がブチ切れた時と同時に、心の中のビックリマンが「ニコ〇ス・ケイジ!」と叫んだ。
すると吉兆の中でヒカリとの日々が走馬灯のように脳裏を駆け抜けていく。その中で吉兆はあることに気付いた。ヒカリに勝てるかもしれない、あまりにも弱々しい糸口があることを。
吉兆は目を見開き、驚いた顔でビックリマンを見つめた。
(そうか・・・目を閉じさせる必要はない。そして世界中で俺にしか出来ないことをやればいい)
「何だ?そこのビックリマンのように私を驚かして奇襲をかける気か?」
吉兆は僅かな勝ちへの獣道を相手に悟られぬよう、ここはあえて「さぁな・・・」と不敵な笑顔で答えるのだった。
「残念ながら、どんな言葉や行動をとっても、私の注意を引く事は出来ない。それは、そこの本人が一番よく知っている」
(勝手に油断してろよ。俺だけが出来るヒカリの『目潰し』を披露してやんよ)
吉兆は気持ちを相手に悟られぬよう、顔色を変えることなく、深く思考を手繰らせる。
(しかし、いくら『目潰し』でLightning Counterを封じたとしても、所詮はジャンケン 能力がない俺に必勝はない)
(しかもだ 『目潰し』は一度きりの奇襲。2度目は絶対に通用しない)
吉兆の考えていることを整理すると、ヒカリの目を潰すことは初回限定で確実に出来る。
しかし潰したところで普通のジャンケンになるだけで、勝確ではないということ。
当り前の話である。
『目潰し』しても普通のジャンケンになるだけ。
しかも1度きりの奇襲である為、アイコだった場合は次の勝負で負けが確定する。
つまり、いくら『目潰し』をしたとしても吉兆の勝率は1/3、ヒカリの勝率は2/3になるのだ。
(これじゃあ薄い もっと勝ちを手繰り寄せる事は・・・)
吉兆は態度には出さないが、思いのほか焦っていた。イキッた割には勝算が低いこと、そして切り札の『目潰し』を使う事にである。
(と言うか・・・こんな事に使っていいのか?俺の未来予想図が確定しまう・・・)
いつまでたっても最終戦の舞台に立とうとしない吉兆にシビレを切らしたのかヒカリの口が動いた。
「いつまで、そこで日和ってんの? さっさと終わらせてブライダルフェアに行くわよ」
「ウチの旦那さんは、またインチキな時間稼ぎをするつもりかしら?」
そういって眉を八の字にし、肩をすくめながら審判員に目を向ける。
審判員はヒカリの意をくみ取り、頷きながら言った。
「真田選手。そろそろ尺的にも・・・ここの会場もケツが決まっている・・・出来れば巻きで」
手を差し出し、吉兆に前へ進むように指示する。
こうなると吉兆がいくらマイペースといっても、場の雰囲気に逆らうことは出来ない。
意を決したかのように一歩一歩前に進んでいく。
(・・・1/3の低い勝算・・・これを少しでも上げることが出来れば・・・というか勝確にしたい・・・無い知恵より、俺の確かな記憶力をフル回転しろ!)
ヒカリとの出会いから今日までの記憶が、超高速で脳内を駆け巡る。
吉兆の記憶の中でヒントとなりそうな場面は『停止→リバース→再生』必要なければ先に進む作業を繰り返す。
次第に吉兆の脳は程よい熱に犯され、周りの声が聞こえなくなるほどの集中力を生み出した。
これがスポーツ選手であれば俗にいうゾーンに入ったと言える状態だ。
全ての物がスローに動き、8Kテレビのように鮮明に見える。
声もスロー化され耳では理解出来ないが、脳は言葉としてしっかり理解している。
しかし記憶の掘削作業だけが超高速で進んでいく。
吉兆のスニーカーの踵は擦り切れている。
しかし革靴のように歩くたびにヒールの音がカツン、カツンとゆっくり響く。
これが心臓の鼓動であることに気付いたのは数日経ってからだった。
吉兆が舞台に立った。
これが最後の勝負である。
「それでは最後の勝負。これに勝ったほうが地区優勝だ」
審判員が声を掛けた。
ヒカリはニヤニヤと余裕な面持ちだったが、ふと吉兆の顔を見た時に違和感を覚えた。
吉兆の顔は、ヒカリの記憶には存在しない表情だった。
それは菩薩像のように、慈愛と無の境地を体現した表情だった。
目線はヒカリに向けてあるものの、ヒカリを捉えている感じはしない。
どちらかと言うと、ずっとその先を見ているような感じだった。
その不気味さに、ほんの数秒フリーズするが審判員の「はじめ!」の声に我に返った。
ヒカリは首を左右に振り、慌ててジャンケンの姿勢をとる。合わせたかのように審判の合図が入る。
「じゃーん」
その瞬間も吉兆は記憶の掘削を行っていた。
そして進化した。
記憶の掘削がマルチタスク化したのであった。
5つのマルチタスクが高速で回転し、全てが一斉に停止した。
キーンと耳音のようなものが響き同時にリバースし、ゆっくりと再生される。
場所や状況は違えど、共通している場面で全て停止した。
それはヒカリが驚く場面であった。
無の境地であった吉兆の目に光が戻り、薄く笑う。
(人生一度きりの男の覚悟、そしてMemory(記憶)という名の俺の能力見せてやるよ!)
「けーん」
審判員が力強くコールする。その時だった。
「ヒカリぃぃぃぃ!!!」
その空間にいた全ての者が振り向く程の声量が響き渡った。
(やはり、奇襲をかけてきたか吉兆 しかし、私はどんな状況になっても目や意識を戦場から離すことはない!)
吉兆が叫んだ事で、ヒカリの集中力もさらに上がっていく。
(この勝負!私の・・・)
次の瞬間、ヒカリは一生のうちで一度だけ聞きたい魔法の言葉を聞いた。
それは小さい頃から、いくども勝手に想像し、赤面していた王子様の夢言葉。
吉兆がそれを叫んだ。
「俺とぉぉぉぉ 結婚してくれぇぇぇぇぇ!」
その場にいた全ての者が吉兆に釘付けになった。
勿論ヒカリも例外ではない。
2秒ほど時間差が空き、呆気にとられた審判員から力なく「ぽん」と言うコールがされる。
そのとたん皆が我に返り、決勝の舞台に注目する。
吉兆の公開処刑(公開プロポーズ)で混沌とした状態だったが、皆が判断出来たのは吉兆がチョキを出していたこと。
そしてヒカリがビックリした表情で、手を口に当てていたこと。
それは、いつものヒカリの癖だった。
よく見ると全ての指が大きく開き、パーの形をしていた。
ヒカリは口を覆っていた右手を、視線のみを下げ確認する。
すると状況を判断したのか、両手を背中に回し恥ずかしそう告げた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
その直後、審判員から「勝者!真田吉兆!」と勝ち名乗りが上がるのだった。
リーゼントを含め多くの者が声を上げている中、ヒカリが吉兆に近づいてきた。
その顔はいつもの糸目美人のヒカリだった。
「負けちゃったけど・・・嬉しかったよ」
それを聞くと吉兆は「ふっ」とキザな笑いを浮かべ、ヒカリに背中を向けるのだった。
「どうしたの?照れてるの?」
ヒカリが聞くと吉兆は「何でもないよ」と答えるのだった。
その顔は明らかに『やっちまったぁ』の顔だった。
確かに勝負には勝ったが、それが本当の勝利だったのだろうか?
変なプライドのせいで130億を棒に振り、挙句の果てにはプロポーズまでしてしまった。
確かにそんな顔だった。
1か月ほどが過ぎた。
街並みは随分と夏の色合いになってきた。
ジャンケン大会はと言うと、地区予選から勝ち進んだ吉兆は何を勘違いしたのか、出来もしない心理戦で県大会に挑み、初戦敗退をしていた。
結局のところ、優勝したのは東北の港町の誰かと言う事だった。
噂によると、その130億も地域の復興に寄付されたらしい。
あれからと言うと、吉兆とヒカリはジャンケンをしていない。
正確には吉兆がジャンケンをしないようにしているのだ。
恐らく自分が勝ったままでいたいのだろう。
相変わらず子供っぽいところがあるなとヒカリは思うのであった。
ヒカリは帰り道にある雑貨屋の店頭を覗きながら吉兆に意地悪く聞いた。
「あの時、私が勝ったら、今頃挙式の準備で忙しかったと思うんだけどなぁ」
吉兆は「またか」とため息をつきながら話題を変えようと試みた。
「そんなことより聞きたいことがあるんだけど」
ヒカリは「そんなこと」や「プロポーズしたじゃん」とブツブツ言っていたが諦め「聞きたいことって?」と聞き返した。
「決勝の時に言ってたじゃん?『私にジャンケンで勝とうなんて25年早い』って 何で25年なん?」
それを聞いてヒカリは「あぁ」と手の平を合わせ、次にグー、チョキ、パーを出した。
「つまりグー(0) チョキ(2) パー(5)で25年」
それを聞いた吉兆は無視するように黙っていた。
バツが悪くなったヒカリはグー、チョキ、パー、グー、チョキ、パーと何かを胡麻化すような呪文を小声で呟いていた。
「それに25年もたてば老眼とか始まるころでしょ?流石に視力の衰えがあれば、吉兆もチャンスかなって・・・ほら、あのイ〇ローでさえ視力の衰えには勝てなかったじゃん?」
それを聞いた吉兆は小声でポツリと呟いた。
「つか イ〇ロー以上だろ・・・君」
「ん?何か言った?」
「なんも・・・」
「そんなことより、ほら、先にまってんぞ」
吉兆が指した先にはリーゼントとビックリマンが駅前のカフェで寛いでいた。
「あぁほんとだ。二人が飲んでるのって新作のキャラメルマキアートメガミックスじゃない?」
ヒカリは、50メートルは離れているだろう二人の飲み物を指しながら吉兆に言った。
「相変わらず。よく見えること・・・」
吉兆のボヤキは、ヒカリに届いていないようだった。
END




