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第6話:稽古

 ラフローグ守護騎士団本部の裏手に広がる訓練所は、戦士たちの熱気と鉄の匂いに満ちていた。

 広大な敷地は、多人数での模擬戦にも対応できるほど余裕がある。長年の修練によって硬く踏み固められた土の上には、無数の斬撃痕が刻まれた木杭や標的が立ち並び、ここで行われてきた鍛錬の苛烈さを無言で物語っていた。


 その中央で、副団長の一人、龍武ロンウーが二振りの相棒を手に舞っていた。

 白龍刀と黒龍刀。対照的な色を放つその双剣を、彼女は己の肉体の一部であるかのように自在に操る。地を蹴り、空を舞い、独楽のように回転しながら繰り出される斬撃は、アクロバティックでありながら一点の隙もない。


 その猛攻を真っ向から受け止めていたのは、《天風十三隊》の第七番隊を率いるジーク隊長だった。

 隊長職に相応しい確かな実力と、日々の積み重ねに裏打ちされた体躯を持つジーク。だが、今日の龍武を前にしては、その防戦も風前の灯火に見えた。


「くっ……、速すぎる……!」


 ジークが呻きを漏らす。連続して放たれる双剣の連撃に、彼は防戦一方に追い込まれていた。反撃の糸口を掴もうと鋭く踏み込もうにも、龍武の変幻自在な間合い管理に阻まれ、ただ剣を合わせるのが精一杯の状態だった。


 やがて、決定的な差が誰の目にも明らかとなる。

 副団長と隊長。その肩書きの間に横たわる実力の壁は、ジークが想像していた以上に高く、そして厚かった。


 ジークとの稽古を切り上げた龍武は、乱れた呼吸を整えながら、ふと視線を訓練所の隅へと向けた。

 そこには、腕を組み、静かに自分たちの動きを見守っていた団長エーデルワイスの姿があった。


 龍武は不敵な笑みを浮かべ、白龍刀を軽く肩に担いで声をかける。


「団長、よかったら次、あたしの実戦稽古に付き合ってくれませんか? 見ての通り、今日のあたしは最高にキレてるんです。……もしかしたら、団長から一本取れちゃうかもしれませんよ?」


 自信に満ちた、挑発とも冗談とも取れる言葉。しかし、エーデルワイスの表情に揺らぎはない。

 彼女は何も答えず、ただ静かに腰の鞘へと手を伸ばした。金属が擦れる、涼やかで澄んだ音を響かせ、彼女の剣が抜かれる。


 エーデルワイスの構えは、驚くほどゆったりとしたものだった。

 片手で剣を保持し、半身に構えるその姿勢には力みが一切ない。威圧感で相手をねじ伏せるような真似はせず、ただ自然体で、そこに「在る」だけで相手を待ち受ける。


「行きます!」


 先に仕掛けたのは龍武だった。白と黒の軌跡が交差し、二刀流の利点を最大限に生かした、攻防一体の猛烈な太刀筋がエーデルワイスを襲う。一歩の踏み込みは岩をも砕くほど鋭く、その連撃には一点の迷いもなかった。


 だが、その攻めが完成形に至る直前、エーデルワイスの体がわずかに沈み込んだ。

 龍武が踏み込む「刹那」を、彼女は正確に捉えていた。稲妻のごとき鋭い突きが、双剣の隙間を縫って放たれる。


「っ?!」


 その一撃を辛うじて弾いたものの、龍武の重心は大きく崩れた。エーデルワイスはその絶好の機会を見逃さない。流れるような所作で二振り目の横薙ぎを重ねる。防ぐ術を失った龍武は、そのまま勢いに抗えず、砂塵を舞い上げながら地面へと倒れ込んだ。


 エーデルワイスは、倒れた部下の様子を確かめることさえせず、静かに剣を鞘へと戻す。

 その横顔に勝利の昂揚はなく、ただ日常のルーチンを一つ終えたかのような平穏さだけが残されていた。


 対照的に、周囲で見守っていた団員たちは、静かな熱狂に包まれていた。

 あまりにも洗練された無駄のない動き。そして、実力者である龍武を赤子のようにあしらう圧倒的な実力の差。言葉を失った彼らの胸の内には、憧憬を通り越した畏怖の念が湧き上がっていた。


 ラフローグ守護騎士団長、エーデルワイス。

 その力が絶対的なものであることを、彼女はただ一振りの剣で再び証明してみせたのだった。

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