第3話:特等席
副団長と隊長、その職責における決定的な違いは、前線の土を踏む頻度にあるだろう。
魔物と刃を交える実働部隊の象徴が隊長であるならば、副団長は戦力全体を俯瞰し、采配を振るう管理官としての側面が強い。どの隊を動かし、いかに街を守るか。その重責ゆえに、副団長が街の外へ自由に羽を伸ばす機会はどうしても限られていた。
その日、エーデルワイスと龍武は、城壁沿いのパトロール任務に就いていた。
街の目と鼻の先ということもあり、周囲には平穏な空気が満ちている。行き交う住民たちの活気ある声が風に乗って届き、少し離れた草むらでは子供たちが無邪気に駆け回っていた。魔物の気配など微塵もない、凪のような昼下がりだ。
並んで歩く道すがら、エーデルワイスは隣を歩く龍武の、とりとめのない零し話に耳を傾けていた。
「もっと遠くまで遠征したいんですよね……」
龍武はそう言って、遠く霞む地平線に目を細める。街の姿が豆粒のように小さくなるまで足を延ばし、未知の素材を採取したり、清流で糸を垂らしたり、獲った獲物で野外料理に興じたり。そんな自由奔放な旅への憧憬が、彼女の言葉には不満とともに混じっていた。
エーデルワイスは、規律を重んじる彼女らしい落ち着いた足取りのまま、静かに言葉を返した。
「……騎士としてのランクを下げれば、お前の望みは叶うだろう。どうする、検討してみるか?」
半ば冗談めかした、だが核心を突く問い。龍武はしばし沈黙し、城壁の向こう側に広がる豊かな平原を眺めてから、困ったように眉を下げた。
「それは非常に悩ましいですね。ただ、階級を落として自由を得れば、こうして団長とお側にいられる時間が減ってしまう。それが一番の難点なんです」
愛嬌のある告白に、エーデルワイスは微かに口角を緩めた。折しも二人は、城壁の根本に自然と積み重なった石段の前に差し掛かっていた。
エーデルワイスが誘われるように腰を下ろすと、龍武も当然の権利であるかのように、すぐ隣の特等席へと収まる。
しばらくの間、二人は言葉を交わさず、ただ流れる雲を眺めていた。やがて龍武が、どこか気の抜けた、甘えるような調子で呟いた。
「……午後はこのまま、ここで二人して仕事をサボってしまいたいですね」
言うが早いか、彼女は陽光を全身に浴びるように背を預け、猫のようにのんびりと日光浴を始めた。
エーデルワイスはその弛緩した様子を咎めることもなく、ただ隣で同じ風に吹かれながら、部下であり相棒でもある彼女との穏やかな時間を受け入れていた。
ブックマークと評価5:5お願いします!
皆様からの応援が執筆の励みになります!!!




