第14話:ポータル
王都の大通りは、昼下がりの陽光に照らされていた。露店の呼び声や人々の笑い声が混じり合い、通りには活気が満ちている。その中を、騎士団長エーデルワイスと副団長の龍武は並んで歩いていた。
視察の帰り道である。予定よりも早く仕事が終わり、二人は本部へ戻る途中だった。
街には多くの冒険者の姿があった。軽装の剣士、巨大な槍を担ぐ戦士、魔導書を抱えた魔術師。彼らは笑い合いながら歩き、時折、空間の揺らぎに足を踏み入れてはふっと姿を消す。
旅の女神『アヴァン』の加護による転移――ポータルだ。
その光景を見送りながら、龍武がぽつりとつぶやいた。
「私も冒険者になりたいな」
何気ない一言だったが、どこか本気の響きが混じっていた。
「なぜ、そう思う?」
隣を歩くエーデルワイスが穏やかに問いかける。
龍武は前を歩く冒険者たちを指差した。
「彼らは旅の女神『アヴァン』の加護を得ているから、ポータルを使えるではありませんか。それに比べて私たち騎士はそれがないので、『風の翼』でせっせと飛ぶばかりです。これは不公平です。そもそも騎士団と冒険者ギルドは連携して任務にあたっているのですから、私たちにもポータル機能を与えてもいいと思いませんか?」
不満を吐き出すように、やや早口で言葉を連ねる。
エーデルワイスはその横顔をちらりと見て、小さく息をついた。
「気持ちは分からんでもないが、与えられていないものを嘆いても仕方がない」
そう言いながら、ふと足を止める。通りの先には、香ばしい匂いを漂わせる飲食店が並んでいた。
「それより、何か食べたいものはあるか? 視察が予定より早く終わった。騎士団本部へ戻る前に、どこかに立ち寄る時間はある」
「え? もしかして……奢ってくださるのですか、団長?」
龍武の目がぱっと輝く。
先ほどまでの不満はどこへやら、顔にはすぐに期待の色が浮かんだ。
その様子を見て、エーデルワイスはわずかに笑みを浮かべる。
「ああ。かわいい部下のためだ。彼らにはポータルがあるかもしれんが、私がいないだろう」
さらりと言い放たれた言葉に、龍武は一瞬きょとんとしたあと、思わず吹き出した。
「それは確かに……そうですね」
笑いながら頷き、通りの向こうを指差す。
「では、あそこのパスタ屋に!」
指差した先には、こぢんまりとした店があった。窓からは湯気が立ちのぼり、バターと香草の匂いが通りまで流れてくる。
エーデルワイスは軽く肩をすくめた。
「よし、行こう」
こうして二人は、賑やかな通りを抜け、龍武の希望する店へと足を向けた。
羨望を口にした副団長の表情は、いつの間にかすっかり晴れていた。




