表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

第11話:市場調達

 一週間ほど前、副団長のシャルロットから「近いうちにプラムの果実を採取してきてほしい」と個人的な依頼を受けていた。

 当時のエーデルワイスは騎士団長室で山積みの書類に判を押し続けており、思考の余裕もなかったため、その依頼に二つ返事で了承してしまった。ラフローグ周辺の森へ一歩踏み入れば、休日の散策ついでに容易に手に入るだろうと軽く考えていたのだ。

 しかし、肝心の休当日。解放感に包まれた彼女は、約束のことをすっかり失念していた。街角のコーヒーショップに腰を落ち着け、豆の産地による香りの違いを優雅に飲み比べるという、至福の時間を満喫してしまったのである。

 そのため、騎士団本部に戻った際にシャルロットから「例のプラムの件ですが……」と問われた瞬間、エーデルワイスは内心で「しまった」と苦い舌打ちをした。

 立場上、「公務が多忙ゆえ、回収の時間が取れなかった」と冷徹に言い逃れることもできただろう。しかし、期待に満ちた部下の眼差しを前に、上官としての後ろめたさがそれを許さなかった。


「……少し、ここで待っていろ。すぐに持ってくる」


 そう短く告げると、エーデルワイスは平静を装いながら、足早に街の市場へと向かった。

 彼女が訪れたのは、植物学者フローラが営む専門店だ。


「フローラ、急ぎで申し訳ないが、プラムはあるか?」

「おや、団長殿。はい、ちょうど良いものが入っていますよ」


 幸いにも目的の品はすぐに見つかった。エーデルワイスは籠いっぱいのプラムを受け取ると、さも「今しがた森から戻った」という風を装い、騎士団本部で待つシャルロットのもとへ帰還した。


「お待たせした。これが頼まれていたものだ」

「ありがとうございます、団長! さすが、良い品を選んでくださいましたね」


 シャルロットは嬉しそうに果実を受け取ったが、その直後、思い出したように首を傾げて問いを投げかけてきた。


「ところで……採取の際、森の生態系はどのような様子でしたか? プラムは魔族が好む植物ですので、その周辺に不穏な気配がなかったか、団長の見解をお聞きしたいのですが」


 それは、現場を見てきた者でなければ答えられない、予想外の角度からの質問だった。コーヒーショップの香りに包まれていたエーデルワイスが、森の魔力濃度など知る由もない。


「……周囲の状況を仔細に意識していたわけではないので、迂闊なことは答えられない。そういった専門的な調査報告については、しかるべき部署の専門家に確認すべきだ」


 無理やり正論を突きつけて話を濁すと、エーデルワイスは追及を逃れるように、背を向けてその場を後にした。

 嘘をつき通すことの難しさを噛み締めながら、彼女は次回の休日こそは、本当に森へ足を運ぼうと心に決めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ