表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/14

第10話:異国文化の調査

 第四番隊隊長ヘルタから、領地外縁部で異邦の商人を保護したとの報告が入った。

 団長室に現れたその商人は、ラフローグ地方では見かけない独特な刺繍の施された衣服を纏っていた。その物腰や穏やかな話し方に、エーデルワイスは微かな既視感を覚える。それは、副団長である龍武ロンウーの故郷、東方の「逸仙イーシェン」から漂う空気に極めて近いものだった。


「逸仙地方は、ここからどれほど離れているんだ?」


 エーデルワイスの問いに、傍らにいた龍武が目を細め、どこか遠くを見るような仕草で応じた。


「今はシルクロードが整備されていますから、隊商を組んで三ヶ月といったところでしょうか。……もっとも、道が拓かれる前は魔物や地形の険しさに阻まれ、辿り着くことすら命がけの難所だったんですよ」


 商人がこの地に持ち込んだのは、宝石の転売を目的とした品々だった。

 彼が風呂敷を広げると、見たこともない色彩を放つ原石や、精緻なカットが施された宝石が並び、室内を彩る。だが、エーデルワイスの視線を引き寄せたのは、それらの傍らに添えられていた、流れる水のように滑らかな光沢を持つ絹織物だった。

 その僅かな視線の揺らぎを、もう一人の副団長が見逃すはずもなかった。シャルロットは慈しむような微笑を浮かべると、主君の背後から静かに囁いた。


「団長。心が動いたのであれば、迷う必要はございません。買いましょう」

「だが、これは公務とは無関係な私物になる……」


 生真面目なエーデルワイスが躊躇いを見せると、シャルロットは事もなげに、甘く誘惑するような声で続けた。


「案ずることはありません。名目は『異国文化の調査』。経費で落としてしまえば良いのですから」


 流れるような手際で、シャルロットは団長が目を留めていた絹織物を買い上げた。

 そのまま、団長室の奥にある更衣スペースで簡易的な着替えが行われる。

 ほどなくして現れたエーデルワイスの姿に、その場にいた者たちは息を呑んだ。

 上質な絹で仕立てられたその衣装は、驚くほどしなやかに彼女の身体のラインをなぞっていた。鍛え抜かれた無駄のない四肢、そして騎士装束の上からでは計り知れなかった抜群のプロポーションが、薄い生地越しに鮮明に浮かび上がる。軽やかでありながら、どこか毒を含んだような華やかさ。それは、鋼の鎧を纏った時とは正反対の、異国的で艶やかな魅力を放っていた。

 その出来栄えを眺め、シャルロットは頬を上気させ、心底満足そうに溜息をつく。


「……素晴らしい。少し、露出度が高すぎる気もいたしますが、逸仙地方ではこれが『常識』なのでしょう?」


 期待を込めたシャルロットの問いに対し、衣装の「本場」を知る龍武は、一拍の猶予も置かずに淡々と、そして非情なまでに冷静なトーンで言い放った。


「いいえ。その服装は逸仙地方でも、どちらかと言えばハレンチ寄りです」


 あまりにも率直すぎる指摘が、静かな部屋に空虚に響いた。

 その場の空気が一瞬で凍りついたようになり、エーデルワイスは自分の肩や脚の露出具合を改めて確認し、頬を微かに赤らめながら居心地悪そうに身を縮めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ