8月29日、風に乗る伝統と笑い声
ほっこりカフェのテラスに、窓際の四人席。
アイスコーヒーのグラスが汗をかき、エアコンの風が「ひゅるる」と歌う。
私は智子、美咲、佳代と肩を寄せ合って、今日も井戸端会議の開幕だ。
智子(スマホをぱちぱち叩きながら)
「さっきニュースで見たんだけど~! 八重里町の『八重ママのサーターアンダギー屋』に、孫のさくらちゃんが弟子入りしたって!」
私(ツッコミ顔)
「え? あの行列が止まらない超人気店? 孫さんが?」
美咲(目を丸くして)
「ちょ、ちょっと待って。サーターアンダギーって、あの油でぷくぷく膨らんだやつ? 私、高校の時に修学旅行で食べて以来~!」
佳代(冷ややかに)
「美咲は結局いつもそうやって脱線するのよね。話は孫ちゃんの弟子入りでしょ」
智子(画面を見せびらかす)
「ほら、写真。八重ママが真ん中で、隣にふたつ結びのさくらちゃん。可愛い~」
私(思わず呟く)
「うわ、見た目もぷっくりしてる……って、グラスの水滴が口元まで来ちゃった」
美咲(遠い目)
「私の祖母も昔、サーターアンダギー焼いてたなぁ。油の香りが廊下まで漂ってきて、『あ、今日は来客か』って分かったもん」
佳代(ため息交じり)
「美咲の祖母って、いつも砂糖をがっつり入れすぎて、食べると唇がベタベタにならなかった?」
私(記憶の味に誘われて)
「私も週末に実家に帰ったら、母が急に『油あげるわよ』って。で、出てきたのがサーターアンダギー。思わず涎垂らしちゃって、子どもに『ママ、変』って言われた」
一同「あはははは!」
アイスコーヒーの氷がカランカラン鳴る。テラスの向こうで、小学生の野球チームが遠く「セーノ!」と声を張る。
智子(話題を変える)
「でさ、続きがあるの。和歌野県の安全公園で、小学生が書いた交通安全スローガン風鈴が来園者を癒してるって!」
美咲(首を傾げ)
「安全スローガン風鈴……堂?」
私(思わずツッコミ)
「堂って何! 神社みたい」
佳代(呆れ)
「風鈴堂って、もうお寺じゃん」
智子(笑いを堪えて)
「スローガン風鈴なの。子どもたちが『ゆっくり走ろう』とか『みんなの命、みんなで守ろう』って書いたやつ。風に揺れてチリンチリン」
美咲(脱線開始)
「うちの玄関にも風鈴あるんだけど、去年の台風で半分割れちゃって。でも音が変にカスカスで、なんか味があるのよね」
佳代(鋭く)
「味って、錆び臭い音?」
私(記憶を掘り起こす)
「実は私も、小学生の時に交通安全標語コンテストで入選したことあって。標語は『パパのハンドル、ママのハンドル、みんなのハンドル』って……今思えば、なんかズレてるよね」
智子(爆笑)
「それ、ハンドル握ってる人間が三人いるみたいで、怖い!」
美咲(遠くを見る)
「でも風鈴の音って、夏の終わり感じるじゃない? 今日も暑いけど、もう8月29日だもんね」
エアコンの風が「ひゅるる」と再び流れ、テーブルのナプキンがひらりと舞う。
佳代(腕組み)
「で、最後のニュースは? 早く言わないと、また美咲が昔話始めそう」
智子(スマホを滑らせ)
「愛知県安城町で、小学生たちが伝統の『桜井凧揚げ』を未来へつなぐ活動してるって!」
美咲(首を傾げ)
「凧あげ?」
私
「揚げじゃなくて揚げ? いや、凧揚げって読むの?」
佳代(ため息)
「凧あげて、凧揚げ。どっちでも通じるでしょ」
智子(画面を指差す)
「子どもたちが、地元のおじいちゃんおばあちゃんに教わりながら、大きな凧を作ってるんだって。写真見て、でっかい鯉が空に浮かんでる」
美咲
「鯉……私、子どものころに作った凧、すぐ樹に引っかかって、泣きながらおじいちゃんに助けてもらったなぁ」
佳代(辛辣)
「美咲はいつも、自分の失敗談に着地するよね」
私(苦笑い)
「私も一度だけ凧揚げしたけど、糸が切れて、隣町まで飛んでいって。親に『迷惑だ』って怒られた」
智子(楽しげ)
「でも、伝統を次世代に渡すっていいよね。八重ママのサーターアンダギーも、桜井凧揚げも、子どもたちが受け継いでくれる」
美咲
「風鈴も、凧も、お菓子も、全部風に乗ってる気がする」
佳代(ため息混じりに笑う)
「風に乗るのは、私たちの愚痴だけじゃないみたいね」
私(グラスを傾けながら)
「でも、こうやって集まってぐだぐだ言うのも、伝統かも」
一同「あはははは!」
アイスコーヒーの最後の氷が溶け、カランと音を立てる。
窓の外では、雲がぽっかり浮かび、子供たちの笑い声が遠ざかる。
私
「くだらない話ばっかりだけど……楽しかったな」
智子(微笑む)
「明日はまた別のニュースあるでしょ」
美咲
「風鈴堂、再来週にでも行ってみる?」
佳代(肩をすくめる)
「凧あげじゃなくて、カフェあげにすれば?」
私(笑いながら)
「それ、空飛ぶカフェ?」
四人して、もう一度「あはははは!」と笑い、テーブルの片付けが始まる。
エアコンの風が「ひゅるる」と最後に鳴き、午後のひとときはゆるゆると幕を下ろした。




