season 1-4 黒野
season 1--4 黒野
2023年10月11日 水曜日
いつものように朝起きると、美亜ちゃんは起きていた。テーブルの上の花を愛でている。
「おはよう、黒野君」
「おはよう」
朝はあまり時間がないので相手をしている時間はない。顔を洗い、簡単な朝食を作ると、テレビでニュースを見ようかと思ったが、やめた。残り少ない美亜ちゃんとの時間なのだ。向かい合って座ると、何を話そうかと考えていると、美亜ちゃんは唐突に言い出した。
「白鳥の湖の、黒鳥のバリエーションをかけてよ。
黒野君のために、踊ってあげるよ」
「ありがとう、そういえばバレエも習っていたんだよね」
「うん、下手だけどね」
美亜ちゃんが、すっと立ち上がる。
僕はスマホをBluetoothに繋ぎ、音楽をかけた。
チャイコフスキーの旋律が、静かに部屋に広がる。
美亜ちゃんは軽くスカートをつまみ、
音に合わせてふわりと動き出した。
小学生用にアレンジされた簡単なバージョンのものだけど、朝日に照らされたその姿は優雅で美しかった。
ターンをひとつ、ポーズをひとつ――
朝の光をまとって、彼女は小さな黒鳥になった。
音楽が終わると、美亜ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「どうだった?」
「すごく、きれいだったよ。世界で一番、ね。
贅沢な朝食の時間だったよ」
僕が言うと、美亜ちゃんは少し照れたようにうつむき、またテーブルの花を見つめた。
静かでやさしい朝。
そんな時間が、流れていった。
——————
仕事が終わり、家のドアを開けると、「おかえりなさい」と美亜ちゃんが微笑んでくれる。
それが、どれほど心地よいかを実感する日々だ。
「ねえ、家にいるの飽きちゃったよ」
「どこか散歩でもいく?」
「うん行く」
僕らは夜道を色々な話をしながら歩いた。
「今朝のバレエ良かったよ」
「そう?ピアノは好きだったけど。バレエはママに無理矢理習わされてたいたんだ。フランス語もね。でもやっていて良かった。黒野君に喜んでもらえたんだもん。他に何か習い事してた?」
「ピアノの他はスイミングをやっていたよ。僕も無理矢理やらされていただけ。でもやっていなかったら泳げなかったかもしれないからね」
「うん、フランス語も何の役に立つかわからなかったけど、明日の朝はシャンソンを歌ってあげるよ」
「うん、よろしくね。朝起きるの楽しみだな」
美亜ちゃんが来てから、今日で4日目。最初は不思議で特別だったこの生活も、少しずつ日常へと溶け込んでいく。僕はそれが怖くもあり、同時に心地よくも感じていた。彼女と過ごす毎日が、当たり前になっていくことに…。