表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/119

season 1-4 黒野

season 1--4 黒野


2023年10月11日 水曜日


いつものように朝起きると、美亜ちゃんは起きていた。テーブルの上の花を愛でている。


「おはよう、黒野君」


「おはよう」


朝はあまり時間がないので相手をしている時間はない。顔を洗い、簡単な朝食を作ると、テレビでニュースを見ようかと思ったが、やめた。残り少ない美亜ちゃんとの時間なのだ。向かい合って座ると、何を話そうかと考えていると、美亜ちゃんは唐突に言い出した。


「白鳥の湖の、黒鳥のバリエーションをかけてよ。

黒野君のために、踊ってあげるよ」


「ありがとう、そういえばバレエも習っていたんだよね」


「うん、下手だけどね」


美亜ちゃんが、すっと立ち上がる。

僕はスマホをBluetoothに繋ぎ、音楽をかけた。


チャイコフスキーの旋律が、静かに部屋に広がる。

美亜ちゃんは軽くスカートをつまみ、

音に合わせてふわりと動き出した。


小学生用にアレンジされた簡単なバージョンのものだけど、朝日に照らされたその姿は優雅で美しかった。


ターンをひとつ、ポーズをひとつ――


朝の光をまとって、彼女は小さな黒鳥になった。


音楽が終わると、美亜ちゃんはにっこりと微笑んだ。


「どうだった?」


「すごく、きれいだったよ。世界で一番、ね。

贅沢な朝食の時間だったよ」


僕が言うと、美亜ちゃんは少し照れたようにうつむき、またテーブルの花を見つめた。


静かでやさしい朝。


そんな時間が、流れていった。


——————


仕事が終わり、家のドアを開けると、「おかえりなさい」と美亜ちゃんが微笑んでくれる。

それが、どれほど心地よいかを実感する日々だ。


「ねえ、家にいるの飽きちゃったよ」


「どこか散歩でもいく?」


「うん行く」


僕らは夜道を色々な話をしながら歩いた。


「今朝のバレエ良かったよ」


「そう?ピアノは好きだったけど。バレエはママに無理矢理習わされてたいたんだ。フランス語もね。でもやっていて良かった。黒野君に喜んでもらえたんだもん。他に何か習い事してた?」


「ピアノの他はスイミングをやっていたよ。僕も無理矢理やらされていただけ。でもやっていなかったら泳げなかったかもしれないからね」


「うん、フランス語も何の役に立つかわからなかったけど、明日の朝はシャンソンを歌ってあげるよ」


「うん、よろしくね。朝起きるの楽しみだな」


美亜ちゃんが来てから、今日で4日目。最初は不思議で特別だったこの生活も、少しずつ日常へと溶け込んでいく。僕はそれが怖くもあり、同時に心地よくも感じていた。彼女と過ごす毎日が、当たり前になっていくことに…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ