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Part8:「鋼鉄、衝突す」

 この地域一帯の最奥まで、破竹の勢いで進め押してきた帝国軍。

 しかしそれは、そこに生まれる綻びを虎視眈々と狙い。潜み待ち構えていた自衛隊側の待ち伏せからの迎撃を皮切りに。

 その快進撃を崩され、覆され始めた。


 帝国軍部隊は密な連携の維持に努めながらも、しかしその快進撃の影響から。少なからず前線から後方まで、各部隊の戦線隊形は伸び切っていた。

 自衛隊の狙いはそこ。

 作戦エリアの最奥にまで、帝国軍をその得意とする快進撃を認めて誘い込み。

 その最奥で迎撃襲撃、分断各個撃破を試みる算段であった。


 まず、今程に亜壽等が見せたように。

 エリア最奥に点在する町村に進入して来た国軍部隊に対して、潜み待ち構えていた各隊が最初の一撃をかまし。

 そして殲滅せしめたのを、その算段の始まりとし。

 一帯各所で、その戦闘行動の火蓋が切られていた――



「――命中、有効打!撃破確認ッ!」

「おォしッ――操縦手、行動開始ッ」


 エリア奥地の一か所、一点。

 掘り下げた戦車壕に、ダックイン状態にて身を潜め。その状態から今まさに、120mm滑腔砲の一撃を向こうに叩き込み、帝国軍の重戦車一両の撃破を成して見せたのは。

 一両の10式戦車。無線識別、奈良46。

 それが次には車長の陸曹の指示から、操縦手の操りによって。

 その巨体を潜めていた戦車壕を、エンジン唸らせ履帯を鳴らして這い出し前進。

 そしてその光景は近く周囲で、4つ5つ6つと同様にいくつも見え現れた。


 〝外域作戦団 戦車戦闘群〟の第1戦車中隊による、待ち伏せの隠蔽を解いての、襲撃の開始だ。


 ダックインを解いて這い出て、エンジンを吹かして物々しく乱雑に走り出しながらも。しかし10式、90式混成の各戦車からなる中隊は、同時に戦闘隊形を確実に形作っていく。


 その第1戦車中隊が相手取るは、進行から押し上げて来た帝国軍側の中隊規模の戦車部隊。

 帝国軍の各種戦車は、地球側の第二次大戦中後期~末期のドイツ軍の物に似た。もしくは一部は、そのイメージを保ったまま2~2.5世代主力戦車へと発展したような印象を得る。

 それが帝国軍の主力、最新鋭戦車たち。


 その帝国軍の各戦車は、自衛隊側の待ち伏せ襲撃を受けて少なからずの驚愕動揺を見せてはいるが。

 しかしやはり、よく訓練されているのだろう。すぐさま互いを援護しながらの隊形変更で、自衛隊側に向けて応戦行動を見せ始める。


 待ち伏せ側の自衛、 戦車戦闘群側にいくらかの利こそは望めたが。

 しかし帝国軍側の応戦攻撃もすぐさま苛烈なものとなり、激しい砲撃の撃ち合いが繰り広げられ始めた。



《――奈良41、42、左側面に周り抑えろッ》

《奈良33、敵駆逐戦車撃破確認ッ》


 無線通信上には、第1戦車中隊の各戦車からの、動向や撃破報告の音声が上がり飛び交っている。


「ッァ――ッ!初っ端からキッツぃな……ッ――射ァッ!」


 そんな最中。10式戦車、奈良46の内では。


 今まさに正面装甲を、ガインッ――と接触して掠めた敵砲弾に。

 その振動衝撃に、砲手の陸士が苦い声を零しながらも。次には射撃トリガーを引き、お返しのために再装填が終わったばかりの120mm滑腔砲を撃ち唸らせ。

 照準に捕らえていた重戦車クラスの敵戦車に、APFSDSを叩き込んで撃破。その向こうで、敵戦車は爆発炎上からその砲塔を高く舞い上げる。


「少しだけ堪えろ、すぐに〝贈り物〟が来るッ」


 その砲手の今の零しに、車長がそう伝える言葉を紡ぐ。


 〝それ〟が聞こえたのは、直後。


 ヒュゥゥ――という、風を切り裂くような不気味な音。

 そしてそれも刹那。


 向こうで展開、陣形を組んでいた敵の戦車中隊が――無数の大きな爆炎に包まれた。

 無数のそれは、巻き込まれ晒された敵戦車たちを損壊。

 一部、運の無かった数両には「直撃」して、爆発炎上大破の末路を迎えさせる。


 明かせばそれこそ、自衛隊側の後方に展開配置した。外域作戦団 特科大隊の155mmりゅう弾砲 FH70からの射撃が成した砲撃の幕。

 そしてこの砲撃は所定の行動。戦車中隊が敵戦車部隊を足止めした所へ、特科大隊がそこを狙い敵戦車を撃破せしめたのだ。


「うぁーォ――ッ」


 奈良46内では。

 照準の向こうに見えた、苛烈で凄惨なまでの、敵戦車部隊が巻き上げ千切り散らかされる光景に。

 少しのえげつなさを覚えてしまい、砲手が苦い声色を零す。


「戦場の女神、様々だな」


 同じくの光景を、ペリスコープで外部の向こうに見ながら。

 車長は特科隊をそんなように表現して、感嘆の声をしかし少しの険しさの混じった顔で零す。


《――奈良10より各車、敵戦車中隊は作戦行動不可能まで陥った模様――司令部より中隊には前進命令。ブラボー及びデルタエリアに進出する、普通科隊の支援にこれより付く》


 それから一拍の間を置いた後に、通信音声により寄越されたのは。中隊指揮車からの、これよりの次段階の作戦行動。


《第1戦車小隊はブラボー、第2戦車小隊はデルタへ――》

「はぁッ。女神様からの賜り物の次は、女王様(普通科)とのお付き合いか」


 その通信指示を聞きつつ、車長は今度は普通科隊をそんなように表現しながら。少しの皮肉交じりの溜息と言葉を零す。


《奈良46、了解か?》

「46、了解ですッ」


 そんな所へ来た中隊指揮車からの確認呼びかけに、車長は微かな倦怠感を敢えて伝える声色で返す。


「行くぞ――」


 そして車長の、自身の指揮の砲手と操縦手に告げ。

 彼等の10式戦車は続く作戦行動のため。また移動、行動を再開した――

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