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Part7:「諸所のっぴきならずも、しかし進め」

色々と説明解説したり、(たぶん一応)ヒロインポジション登場したりします。

 豆戦車に乗って現れ、亜壽の危機を救ったのはゴブリンであった。

 子供ほどの身長を猫背に曲げ、顔立ちは老人のように皺を刻み。その鼻や耳は大きく尖り、眼は鋭い。

 その腕に手先もまた凶器のように鋭い。

 しかしその彼がそんな姿の身体に纏うは、専用に誂えられたカーキ色の軍服。


 そのゴブリンの彼は、今のこの地、この国――ウォーシャ県連合の国民であり。

 そして国の陸軍、第1機甲師団所属の士官、中佐であった。


 ゴブリンという種族は。この異世界では、いや元地球世界の伝承創作上にあっても。

 凶暴で下劣な魔物として見られる事がしばしば有る。それは時に残念な事に、事実である場合もあるが、しかし全ての者が必ずしもそうでは無かった。


 知性、理性を携え。文明の内にて暮らす者も少なからず存在した。

 今に現れた中佐も、それに該当するゴブリンの一人であった。


「あぁ、ジョア中佐。借りができたようで」


 そんなゴブリン中佐を乗せて、近くまでまたおっかない動作で徐行して来た豆戦車。

 亜壽はその車上を見上げ。今に敵車輛から自分を救ってくれた、そのゴブリン中佐をジョアという名前で呼んで。合わせて端的だが礼の言葉を返した。


「アカズ、タイミングが良かったようだな」


 そんなゴブリンのジョア中佐は、向こうに撃破した帝国軍車両を見つつ。自分等が丁度良いタイミングで参上できたことを、しかし誇るでもなくストイックな色で言葉にしながら、豆戦車上より飛び降りてきて亜壽の前横に立った。


 自衛隊は現在。帝国軍の侵略行為に晒される事となった、「同盟」のいくつかの国と協力関係にあった。

 それは混乱下で協力せざえるを得ない事態からの、突貫のものであり。お世辞にも充実したものではなく。

 それも現状の態勢が満足な物とは、とてもいえない各国軍は。自衛隊に多くを依存する形になってしまっていたが。

 しかし現場レベルでは、果敢な者が自衛隊と合わせて戦いに身を投じる場面もあり。

 今のように自衛隊側が助けを得る場面も度々あった。


「帝国連中め、俺の行きつけの書店を吹っ飛ばしやがってッ」


 背後の豆戦車上ではジョアの指揮下の。ウォーシャ陸軍の豆戦車乗員――人間にゴブリンなどの混成からなる――が無理くり搭載する戦車砲に再装填を行っている元。

 ジョア中佐は向こうの十字路角の建物、書店であったそこを見て。

 しかし帝国士官のエリスンの雷魔法が落ち、焼け焦げて損壊してしまった書店の有様から、しわがれた声で隠しもしない悪態を吐く。


「こっちも散々暴れたから、耳が痛いですが」


 方や亜壽は、そこかしこを吹っ飛ばしまくったのは自分等も同じであり。それをまた少し皮肉気に零して返す。


「それも正直頭が痛いが……まあしゃぁない、そっちにまで文句は言えん――しかし、よくアレを無力化できたモンだ」


 亜壽のそんな言葉にも、ジョアも正直な所を苦くは零しつつも、しかしそれについては看過し。

 話題を切り替え、続けてそんな一言を紡ぐ。

 それは、強大な脅威である魔女を。帝国軍士官でありエリスンを無力化せしめた事実を、驚きを交えつつ評すものだ。


「偶然見つかった、トンデモ技術様々です」


 それに亜壽はまた誇るでもなく、むしろ歓迎し難い様子までの色で、端的に発しつつ。

 向こう奥で停車する、PFE装置装備を乗せた高機動車を見る。


 今に見た通り、驚愕の新技術であるPFEはその特性効果を持って。

 この異世界の魔法魔力を、さらには強靭な身体を持つ存在を無力化せしめることを可能とした。

 そんな良い物であれば、その特性効果を常時発動しておけば良さそうものだが。いかんせんそう都合よくはいかなかった。


 PFE――この代物。人類にとっての恐るべき脅威である、魔法に拮抗しうる力となったは良いが。

 異様にエネルギー燃費が悪く、そして何より大変に状態や性質が不安定だ。


 車両に搭載できる程度のエネルギー備蓄量では、その効果範囲は半径1kmにも満たず。それも今の一回こっきりの発動で底が付く。

 そのため使用には都度、面倒な手間を必要とする「再装填」作業を必要とした。

 現にちょうど今。先のPFE装備搭載の高機動車がそのために、後方へと後退していく所であった。


 無論、より大型の装置形態を取り。より長時間、広範囲に影響を与えることが可能な装備も開発から配備されており。現に亜壽の指揮下にも一ユニットが組み込まれているが。

 そちらにあってはより大掛かりな装備形態となった分、運用の手間も大きくなり。

 その上、効果・出力の増大から比例して、より不安定でデリケートな代物となり。

 そこから使用上のリスクも数倍増し。扱いには一層の慎重さを求められた。


 その扱い上の特性から、現場ではその使用、対応が後手となってしまうケースもままあり。


 何よりも、もし。それらのリスクを無視して無理・無茶な運用を行おうものなら。


 それは最悪、またしてもの崩壊暴走を招き。

 マシでも新たなどこかの異世界との接続。最悪、宇宙、次元の崩壊すら招くであろうと予測されていた。


 正直、使い難いの域では無く。その上に今に述べたような、べらぼうなリスクを伴う代物。

 それがPFE。


 できれば、使用することすら憚られる代物であったが。

 しかし同時に。接続してしまった異世界の『魔法魔術』に、種族に、強靭な存在に。それ等に拮抗しうる現状唯一のこちら側の力・技術であり。

 利用を躊躇ってはいられないのも、また現状であったのだ。




「――うだァァッ!チックショォォ、俺の愛車をやりやがったァァッ!」

「?、あぁ」


 そんな面倒な代物であり、しかし今の状況打破の功績者である。そのPFE搭載の高機動車が後退して行くのを見送った直後。

 別方近くから、何かそんな張り上げた声が届いた。


 見れば、発生源は今先に大破炎上してしまった90式戦車の近く。

 それを近場で囲い見る、脱出に成功した機甲科乗員等の一名からのものであった。


「よくも破壊こわしたァァッ!破壊こわしてくれたなァァッ!」

「お前のではないだろ、国の物だ」


 雄叫びの如き声を上げて拳を握り、悔しさを表していたのは、その90式の操縦手であった陸士。それに傍に立つ同砲手の陸士が、呆れつつ突っ込みを飛ばしている姿が見える。


「ったく……ふざけたモンだ」


 そんな部下二人を近くに見つつ、しかし面白くない想いが同じくあるのだろう。また大破炎上した90式戦車の前に立つ、戦車長の陸曹も苦い色で零している。


「封季一曹」


 そういった光景を見せる機甲科隊員等の内の陸曹に、亜壽は歩み近寄りながら声を飛ばし掛けた。


「三佐――申し訳ありません、戦車を損失しました」

「いや、乗員は皆無事のようだな。良い脱出判断だった」


 亜壽の姿に気づいた、封季と呼ばれた陸曹は。預かる90式戦車を失ったことを、重々しいため息交じりの言葉で謝罪したが。

 しかし亜壽は乗員が皆、脱出から無事であることを歓迎し。そして評する言葉を合わせて紡ぐ。


 今程に目の当たりにしたように、異世界には生身単騎でこちらの重装備を容易く沈め無力化してくる、ふざけた存在が確認されている。

 そういった脅威である存在との接触接敵、それからの襲撃・突撃・突入行動など見止めた場合。戦闘行動を行う各員はその時点で退避、車両の放棄などを躊躇うなとの指示通達が徹底されていたのだ。

 現に今はそれが功を成し、戦車こそ失ってしまったが、乗員は皆無事であった。


「そちらは一度後方へ戻り、新しい戦車を受領しろ」

「了――ほれ、二人とも行くぞ」


 そして、戦車長の封季にこれよりの行動を指示。

 封季はそれに「やれやれ」という倦怠感を隠しもせず、しかし指示を受け取り。

 簡単な敬礼を返すと。戦車班の砲手と操縦手に声を掛けながら、後退すべく動き離れて行った。


「――亜壽三佐」

「?」


 亜壽がそれを見送った直後だ。また入れ替わるように、別方より声が掛かった。

 亜壽が視線を移し見れば、別の人影が――一人の女陸自衛官が、向こうより歩んで来る様子が見えた。


 美少女から美女になりかけといった、女としては少し長身の容姿年齢の、凛とした雰囲気の女幹部。戦闘服の襟には三尉の階級章。

 ふわっとしたセミロングをポニーテールに結い、その戦闘服越しにも分かるスタイルの良さと合わせて、美麗さを演出している。

 PFE隊の本部要員の幹部隊員であった。


可連かれん三尉か、他隊はどうか?」

「待ち伏せはおおむね成功です、村内に進入して来た敵部隊は排除されつつあります。村を包囲していた敵戦車中隊には、こちらの戦車戦闘群がぶつかっています」


 端的に尋ねた亜壽に、可連と呼ばれた女三尉はクールに。いや少しぶっきらぼうな色を滲ませて見せた様子で返す。


 可連は防衛大学の出身者。

 異世界派遣のゴタゴタから技術幹部である亜壽の元に就くこととなったが。

 その互いの経歴関係。そして何より、可連本人が少し自信家で高慢なきらいのある人間であることから。正直言って可連は、亜壽のことを暗に見下している節があった。


「大きな損失は、ここの戦車だけですっ」


 そして次にはそれを体現するよう。「クスっ」とその美麗な顔に、しかし何か嫌味な微笑まで見せて皮肉を寄越す始末。


「乗員が無事で良かった。ふざけた相手を潰すには、安く済んだな」


 亜壽ももちろんそれを見通していたが。

 だが亜壽にあっては、そんなものはいちいち相手にしていられない細事と言うように。

 片手間に、10.9mm拳銃にスピードローダーのクリップを挿し込む再装填行動を行いながらも。

 良しとする言葉を、堂々とした様子と言葉で返して見せた。


「っ……」


 それに、可連の皮肉を退け返すようなそれに。彼女は明らかに、威圧までするようにムっとした顔色を見せたが。


「所定通りだ、ウェーブを進めるぞ」


 しかし亜壽はそれに、臆することも気にする事も無く。そんな彼女の顔をまた、堂々と刺すまでの視線で見返しながら。

 指示の旨も含めた、促す言葉を発する。


 その直後。亜壽等の真上上空を、バタバタと轟く響かせて。

 戦闘ヘリコプター――AH-2。

 新型偵察ヘリコプターのOH-2から派生発展したバリエーション機が、一機、二機と通過。

 その飛び去った向こうで、敵地上部隊へ攻撃を始めたのであろう。村の外から炸裂音に爆音が聞こえ届き始める。


「……了解、かかりますっ」


 それを聞き、可連も「今は任務だ」とでも言い聞かせるように。だが不服そうな顔は隠しもせずに、簡単な敬礼と共にまたぶっきらぼうな了解の返事を返す。


「各隊各員、次に段階へ移行するわよ!移動準備をしなさいっ!」

「隊が移動するぞーーッ!」


 そして可連が周囲の各員に指示の声を張り上げ。

 それは各員に復唱され伝わっていく。


「――はッ」


 そして騒がしくも各隊各班、車輛などが動き始めた様子を周りに見つつ。

 亜壽は再装填を終えた10.9mm拳銃を下げ控え。

 ここまでの多々の諸々に向けての、端的ながらため息交じりの人声を零しながらも。

 自身も続く作戦行動のために、動きを再開した――

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