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Part6:「その〝力〟にて、抗え」

トンデモ反則技を食らえッ!

「――脅威接てェきッ!!」

「ヤベェのがお出ましだぞォッ!」


 村道の向こうより、指揮下の各隊員の張り上げて伝える怒号が、亜壽の耳に届き聞こえる

 そしてその示すものを判別するのは、向こう見えた光景から易かった。


 己が指示で押し上げさせた90式が、爆発炎上。大破する姿が見え。

 次には近くの家屋に、まるで砲撃かのように雷が落ちてその上階を崩落させた。

 そしてその光景の最中、中心に姿を見せるは。遠目にも目立つ巨大剣を持ち、立ち回る一人の敵兵士の人影であった。


「おいでなすったッ」


 そんな数々の脅威の光景を向こうに視認し。

 そして同時に、指揮下の各員が急いて呼応し、行動展開に移っていく中。

 しかし亜壽は驚く様子は無く、堂々と立ち構えながらも。ただ「ウザそう」な顰めっ面を隠すことなく顔に作り、一言を零す。


「あぁッ、やだやだッ」


 背後隣の仙國もまた、顰めっ面であからさまに煩わしそうな声を零す。


 向こうに見止めたその人影、現れたそれこそ。この『魔法魔力』などが存在する異世界の名物、脅威たる存在。

 詳細はまだ不明瞭だが、ふざけたその分類の一つである事はほぼ確定だ。


 戦車を容易く両断する剣技。

 街をその一角ごと吹き飛ばす魔法

 そして、こちらの攻撃を受け付けない防御の術に魔法。さらには強靭な肉体。


 異世界にて直面し。問題、脅威となった数々の存在現象だ。


 実の所、自衛隊がこれらに接触するのもすでに初めてでは無い。

 ここまでに友好、敵対のどちらの側にあっても、いくつかの強大な力を持つ存在に接触ないし接敵しており。

 良ければそれに驚きつつも興味を抱く程で済んだが。悪い時には戦闘から、大なり小なりの被害を出していた。


 それは自衛隊は元より。

 自衛隊派遣には限定的だが、無理くり捻じ込まれて同伴している多国籍軍の各国部隊もいるのだが。

 内の、少なからずの野心を抱いて無理を通そうとし、あるいは傲慢を振舞ってしまった所は。その脅威との遭遇を前に、かなり痛烈に痛い目を見たと聞き及んでいる。


 それに呆れつつも。しかし自衛隊にとっても笑ってはいられぬ脅威であり、早急に対応対策が要求された。



 ――そして、じゃあどうした?



「――川越12から川越42ッ」


 その脅威存在、単騎で暴れる敵兵士を向こう見ながら追いかけつつ。

 亜壽は、身に着けるハンズフリーマイクに声を紡ぎ、呼びかける旨を通信に上げる。


《川越42ですッ、無線傍受にて状況は掌握ッ。すでに〝そっちに回して〟ますッ》


 その呼びかけに、呼びかけたコールサインの相手より、返答は間髪入れずに返って来た。

 そしてその向こう側の行動を、その証明を届けるように。

 次に聞こえ届いたのは、背後向こうよりの唸る音、エンジン音。


 その直後には。村道の背後向こうの家屋の影より。

 一輛の自衛隊車輛が。高機動車をベースにした、しかし荷台に物々しい大げさな機器を積載した車両が。

 見ていておっかないハンドリングで、一秒をも急く様相で走り込んで来た。


 高機動車は、その荷台に乗せる大げさな機器に備わる、レーダーのような部分を起こし展開しながら。半ば横滑りする走りですぐ向こう近くに急停車。


《三佐、〝一ウェーブ〟かましますッ!》


 次に、通信にそんな知らせの声が上がり亜壽に届けられ。

 そして、直後――


 ドッ――、とも。グォッ――、とも。


 どちらつかない衝撃音に衝撃派が。

 爆発炸裂もかくやというそれで発生。

 次にそれは、高機動車を中心に。何か電気・電子的にも見える波紋を発現し、瞬く間に波打つように周囲に拡散した。


 その直後だ。

 まさに今、向こうの家屋に落ちようとしていた落雷が。しかしその前に、灯りを吹き消すように消え去ったのは。

 そして向こうで乱舞する脅威である敵兵士の、その纏っていた漏れ出る電気のオーラが。停電を起こした際のように儚い点滅を見せ、そして消え去ったのは。


「――消えた」


 それを向こうに見止め。まるで見えた通り、照明機器の消灯でも確認するかのような、端的な一声だけを零した亜壽。


 だが色に反してそれは――脅威の〝無力化〟を確信するそれだ。


 それをさらに裏付けるように、向こうで単騎乱舞していた敵の兵士は。その動きを止め、ここからでも分かる少なからずの狼狽の様子を見せる。

 それも無理は無い。

 彼女の凶悪なまでの『魔法魔力』は――〝消滅〟させられた。

 〝消し飛ばされた〟のだから――


 ――それこそ、亜壽の率いるPFE隊の。なによりPFE装備の真髄。


 PFE技術を利用応用した、『魔法』に『力』を〝消滅〟せしめる力だ。


 これはPFEを利用した新エネルギー実験開発の流れで生まれた、一種の副産物。死に物狂いの調査研究の果てに発見された、異世界の脅威への対抗策。

 例えるならば、魔法魔力を妨害から消滅に至らしめ。異世界の驚異的存在の身体能力を鈍らせ弱体化せしめる。

一種のジャミング効果。


 元世界の日本が手に入れた、また別の形の〝脅威〟の、その一つであった。




「――……!……な、なに……!?」


 向こうでは、エリスン自身もその異常に嫌でも気づいた。

 そして次には、その腕力で悠々と担いでいたはずの巨大剣を。しかし支える力を失ってズシンと地面に沈め落とす。


「魔力、が……力、が……!?」


 発動していた魔法が、〝消えた〟。

 さらに再度の詠唱を試みても、魔法が、魔術が発現できない。いや――己の体より、魔力が完全に消失しているのを嫌でも感じた。

 おまけにその上、身体に力が入らない。愛剣を持ち支えることすら叶わなくなっている。


「魔力を、消された……!?力を、奪われた……!?」


 己の身体に異様な消失感、脱力感を感じながらも。推察から判断の言葉をなんとか絞り出すエリスン。

 今に周囲一帯に走った、正体不明の波紋は彼女も視認していた。

 それが原因である事は、それが〝魔法を消し、力を奪った〟元凶であろうことは。最早明らか。


「こ、こんな……ことを……!」


 それは敵中で単騎乱舞していた彼女にとっては、絶望的なまでの現実。

 しかし、卑劣な冒涜にも等しいそれに。彼女が覚えたのは絶望ではなく激怒だ。


 罠を張り、仲間を奪い沈め。果ては彼女たちにとって尊ぶものである魔法までもを、下卑た手法で消し去る大罪。


「どこまで……どこまで冒涜を……――おのれぇッ!!」


 そして次にはエリスンは、最早怒りのままに。

 力の入らぬ身にしかし鞭打ち、緩慢ながらも怒気の含まれた動きで。腰のホルスターから護身用の大型拳銃を引き抜き。

 最早誰を、何を狙うかも考えぬまま。その銃口を突き出し引き金を絞ろうとした。


 ――ドォンッ、と。

 鈍くも劈く、一声が轟く。


「――か゜゛……っ!?」


 それはエリスンの拳銃の銃声――では無かった。

 なぜなら彼女の指は引き金を引くことなく。彼女の体は、もんどり打って仰け反っている。

 その片目の眼孔を――赤黒く惨たらしい大穴へと変えて。

 そして、彼女は次にはドシャリと地面に投げ出されて沈み、動くことは無くなった。




「――沈んでいろッ」


 エリスンが沈んだ、その正面向こう。そこに堂々立ち構え、端的に言葉を零す亜壽の姿がある。

 その片手に突き出し構えられるは、10.9mm拳銃。その銃口からはうっすらと硝煙が上がっている。

 最後の足掻きを見せようとしたエリスンに、しかし引導を渡したのは亜壽であった。


 凶悪なまでの脅威たる彼女の、しかしもんどり打ち、地面に叩かれ崩れた儚き最期。

 それを亜壽は、10.9mm拳銃の照準の向こうに静かに見届けた。


「――ッ」


 脅威たる敵の女兵士、エリスンの無力化を。PFE装備の効果からの、続けての一撃の撃ち込みで、見事に成した亜壽。

 しかしエリスンの崩れる姿を、照準の向こうに見たのも束の間。亜壽は次には、その向こう奥で動く大き目の物体を見る。


 その向こうに見えたのは敵、帝国軍の装輪装甲対戦車車両だ。

 おそらく、単騎乱舞する兵士のサポートに向かって来ていたであろうそれが。荒々しい動きで現れ、走り迫って来る姿だ。


「大尉ィッ!よくも大尉をぉッ!!」


 同時にその車上に見える、小柄ながらも雄々しい人影が。ドワーフ種族の下士官が、何か憤怒の雄叫びを上げる姿が見えた。

 亜壽から、車上のドワーフの声の内容までは聞こえなかったが。今の女兵士の敵討ちの動きであろうことは、考えずとも明らか。

 次には、そのオープントップの車上に乗せる対戦車砲らしき砲が動き。その砲口で亜壽を睨む。


 ――だが。

 その敵の車両が、――ガンッ、と。直後には何かに横殴りにされるように打たれ傾き、そして爆発炎上した。


「っと」


 それを向こう見て、しかしそこまで驚くでは無く、亜壽は言葉を零す。

 次には村道上で大破炎上した敵車輛より、その側方に伸びる脇道から届く、別のエンジン駆動音を聞く。


 その直後にその側方の脇道より。大破炎上する車両の、側面を取る形で現れたのは小さなシルエット。

 何か駆動のおっかない様子の、豆戦車だった。


 その、本来は機関銃か大きくても機関砲までの搭載を想定した小さな車体に。しかし不釣り合いなまでの75mmクラスの戦車砲を、無理やり括りつけ乗っけている。

 それは自衛隊のものでも、帝国軍のものではなかった。


「――悪く思うなッ」


 大破炎上した帝国軍車両の、その沈黙を確かに確認するように、ゆっくりと走り進んで来た豆戦車。

 その豆戦車の車上、車長ハッチの上に身を置く小柄な存在が見える。

その彼が何かしわがれた声で、皮肉交じりのそんな一言を零した。


 そこに身を置いていたのは、この異世界において魔物の一種とされる存在――ゴブリンであった。

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