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Part3:「苛烈、その始まり」

 時系列は少し戻る。

 その場所は、この地域一帯の奥端に存在する一つの村。

 小さな村だが周辺の地形の関係から、交通アクセスのためには重要度の高い地点であった。


 そこへ帝国軍で最初に到達したのは、クリエールの第231独立戦車大隊のアイン戦車中隊。

 アイン中隊にはこれに、第1装甲師団の装甲擲弾兵大隊から派遣された1個中隊が同行していた。


 アイン中隊を率いる女士官のエリスン大尉は、アイン中隊の主力に村を包囲待機させ。己は自ら1個戦車小隊を率い、擲弾兵の中隊と共に村へと突入進入した。


 村の内は、静かで人っ子一人見られなかった。もぬけの殻と疑うのも億劫なまでに。


 無論、警戒をしていなかったわけではない。

 しかしここまでの快進撃から。

 そしてここまでの村町が悉くもぬけの殻であり、ほとんど無血占拠に終わって来たことから。

 少なからずの楽観と、徒労と終わるであろう警戒への億劫さ。そして、少しの驕りも生まれていたのかもしれない。


 ――それが、綻びを生んだのか。


 〝それ〟が起こったのは。

 村の内を調べ浚えながらも。舗装も申し訳程度の村道を、擲弾兵の1個小隊とそれを支援するエリスンの小隊が進めていた最中。

 部隊の先鋒を務めて進行していた、エリスン指揮下の一両の中戦車。

 帝国陸軍装甲部隊にて、名実ともに主力を務める『ファウス中戦車』。

それが――


 ――轟音が。


 射撃砲撃の音であるそれが、響き轟いたと同時に。そのファウス中戦車が、文字通りボロ切れの様相で横殴りに吹っ飛んだのだ――


「――……ぇ……?」


 部隊の後続で、また別種の汎用中戦車の『フェアト中戦車』の車上で。相棒である戦車の上で、それを目の当たりにしたエリスンは。

 その事態の目撃からしかし少しの間、脳での情報の処理が停止するに陥った。


 射ち抜かれた『ファウス中戦車』は、最新のレオンファーツには敵わないが。攻防ともにその強力強靭さは決して生半可な物では無く。ここまでも同盟側の火砲を、悠々と跳ね除けて来た戦車。

 容易く貫けるような物ではないはずであった。


 しかしその「はず」は。文字通り、物理的にあっけなく吹っ飛んだ。


「……な……!?」


 停止に陥っていた思考が緩慢に戻り。

 なんとかその一声だけを絞りだしながらも、彼女はその頭では待ち伏せ襲撃を理解する。


 だが、その見せつけられた一撃は。彼女たちにとって、阿鼻叫喚の始まりでしかないことを。

 周囲より響き上がり始めた、無数の銃火の音が。無慈悲なまでに伝え知らしめ始めた――




 敵――この『異世界』に存在する、フォルツメイルという帝国国家の陸軍。

 それの、戦車部隊の援護を受ける1個歩兵中隊が。

 自分等――陸上自衛隊が潜み待ち構える、この村へと進入した報が入ったのがつい今程。


 そしてその先鋒を務め進んで来た、帝国の中戦車クラスの戦車が――定めていたラインに踏み込み、姿を現した瞬間。


 一件の建物の屋内に、無理くり押し込み掩体隠蔽させていた、こちらの90式戦車が咆哮を上げ。

 その中戦車はどてっ腹を叩き貫かれ、清々しいまでの様相で千切れ吹っ飛んだ。


 それが、合図であった。


 周辺の地形状態は、少しまばらではあるが家屋建物が両側に並ぶ村道。

 その各所に、潜み、掩体し。身を隠して待ち構えていた、その陸上自衛隊部隊の各隊各員が。

 砲撃音を合図に、一斉に攻撃の火蓋を切り、それぞれの得物の唸りを上げ。

 入り込んで来た帝国軍の部隊へと、苛烈な銃火を四方八方より浴びせ始めたのだ。


 まずそれに晒されたのは、今まさに吹っ飛んだファウス中戦車に、徒歩にて随伴していた帝国陸軍の擲弾兵たち。

 目の前で、頼もしいはずの味方の戦車が一撃で吹っ飛んだ光景に。

 擲弾兵たちはそれに伴い襲った衝撃から、己の身を庇いつつも。同時に明らかな動揺の様子を見せていたが。


 その彼らを直後には。一切合切の容赦の無い、激しくも重々しい銃火――機関銃の掃射が襲った。

 その銃火は擲弾兵たちの足元を次々に掬い、彼らの脚を貫き、崩して行った。

 怒鳴り声や悲鳴を上げながらも、浚えるように崩し沈められていく擲弾兵たち。

 彼ら彼女らは、人間に獣人に亜人にと様々な顔ぶれであったが。そこに一切の差別区別は無かった。

.

 冷酷で無常なまでに彼ら彼女らを射貫き崩したのは。

 村道の向こう正面にて。積もった瓦礫を掘り下げたその内で、低く掩体隠蔽していた12.7mm重機関銃M2。その運用班。

 さらにはまた別方。村の家屋の下階に隠し掩体させていた、7.62mm機関銃M240Bの運用チーム。

 それぞれからの射撃銃火が十字砲火を成し、帝国軍の擲弾兵たちを掻っ浚い崩し沈めてゆく。


 襲撃行動はその十字砲火の一つに、もちろん限られない。


 別方。帝国軍の一個小隊がちょうど通過中であった十字路の、その角に建つ商店。

 その下階の瓦礫の内には、念入りな掩体隠蔽で陸自側のMINIMI軽機班が身を潜めていた。

 そこから向こう、外の十字路に見えるは。襲撃に慌て、遮蔽物を求め目指して散り駆ける帝国軍の擲弾兵小隊の兵士たち。

 その兵士たちを狙い。MINIMI軽機の射手は次には、引き金を引いて軽機を唸らせた。

 側方から横殴りにばら撒かれ、襲い来た5.56mm弾の火線は。混乱下で無防備を晒していた擲弾兵たちに無慈悲に浴びせられ。

 多くの帝国歩兵は遮蔽物に逃れることも叶わず、掃射に射貫かれて崩されて行った。


 さらにはその近場、家屋建物の二階。

 そこに潜んでいた陸自隊員等が、閉ざしていた窓を叩き開く。

 直後に隊員等が認めたのは、眼下にちょうど走り込んで来た帝国軍の軽量戦闘車両。

 車両は軽戦車を改造し、オープントップ砲室に旧式の歩兵砲を転用搭載した、直協支援用の軽自走砲であった。

 仲間のファウス中戦車が撃破され、擲弾兵たちが襲われる様を目の当たりにし。それを救うために慌て、焦りエンジンを吹かして押し上げて来たか。

 しかしそれが不幸となった。


 上階で潜んでいた陸自隊員等は次には、手元にすでに準備していた手榴弾を、ほとんど放り落とすだけの動きで投擲投下。

 それは間が悪くも真下に位置していた軽自走砲の、オープントップ砲室に容易く投げ込まれ落ち。

 真上の敵に気づき、慌て何かの声を張り上げようとしていた犬獣人の乗員のそれを。しかし遮る形で炸裂。

 砲室内で爆発と破片飛散の暴力を巻き起こし。乗員を、そして車両を殺傷破壊。

 軽自走砲は次にはその走行を、歪な音を立てて止め、白煙を上げて路上で沈黙した。


 自衛隊側の待ち伏せから、火蓋を切った苛烈な戦闘劇。

 その村道上で響く銃火砲火に、悲鳴怒声。

 詳細には、その銃火砲火の多くは自衛隊側のものであり。帝国軍側は懸命に抵抗反撃を行おうとしたが、それは銃火を響かせる前に彼らの悲鳴が成り代わった。


 合わせて。戦闘行動はこの村道の周辺のみに限定されず、村の各所で同様に巻き起こっていた。

 自衛隊の待ち伏せ態勢は、村内のあちこちで入念に準備されており。

 村に散って索敵を行っていた、帝国軍の擲弾兵中隊の各小隊分隊を。同時多発的に襲撃し、開始展開されていた。




 場所は先に帝国軍の『ファウス中戦車』が、ボロ切れのように吹っ飛ばされて撃破された地点へ戻る。

 吹っ飛ばされ。その背後の建造物に叩きつけられた後に、横転して沈んだファウス中戦車。


 その村道を挟んで反対の建物より、物々しい音に唸りを立てて上げ。別の鋼鉄の巨体が、ヌォ――と這い出て姿を現した。

 元々空いていた物を隠蔽偽装で隠していた、家屋の壁の大穴。

 しかしそこをまた突き破り壊して、飛び出す様相で姿を現したのは、陸上自衛隊 機甲科戦車隊の90式戦車だ。


 這い出て来て村道上に鎮座するや否や、その砲塔を帝国軍部隊のまだ残る方向へ向けて旋回。

 砲塔に遅れ信地旋回する車体が追い付くのを待たずに、その120mm滑腔砲が照準もそこそこに再び唸りを上げ。

 向こうの帝国軍部隊の背後近くの建造物に叩き込み、破砕崩落。

 どうにか態勢を構築しようとする帝国側部隊を牽制、妨害し。合わせて帝国擲弾兵たちの逃げ込む先を奪い消した。


「――ッォ」


 その、90式が堂々と飛び出し開けた家屋壁の大穴。

 そこから続けて、ズッカズッカと歩み出てくるシルエットがあった。


 薄暗い内より繰り出て、刺し注いだ太陽光に、そして周辺に舞い上がる煙に。

 ただでさえ印象の悪い顔をさらに顰め、ドスの効いた声を零すシルエット。


 それこそ、今の戦闘の開始を。最初の一撃を命じた幹部自衛官の彼だ。

 その迷彩服の襟には、三等陸佐の階級章が見える。


「所定通りだッ。第1分隊、向こう十字路まで押し上げて押さえろッ。鎌倉40は随伴支援ッ」


 その彼は、日光に煙をやや煩わしく思いながらも。次には指示のものである声を張り上げる。

 それに呼応するように、背後の建物の大穴からは、彼に続いて数名の隊員が繰り出し現れ。

 同時に近場の建物の影からも、一個分隊程の隊員等が駆け姿を現し。

 それぞれは散会展開しながら向こうへと押し進み、同時に個々の判断で戦闘行動を開始、銃声を響かせ始める。


「ったく――」


 自分の周りを駆け抜けて行く各員を見つつ、同時に自身も警戒を保ちつつも。

 次に彼は、小さく悪態交じりの一声を零した――

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