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Part16:「劈く」

 亜壽等は今先の広い交差路を曲がり、通過。

 隣接する区画に置かれる、敵の野戦司令部を目指す。


 隣の区画に続く幅広い街路は。しかしそこかしこが建物倒壊による瓦礫に、構築されたバリケードだらけ。

 そしてしかし、それを越えた向こうには。

 町の役所庁舎である、それなりの大きさだが荘厳な造りのビルが覗き見えている。

 それこそ、偵察観測によりすでに割り出されている、敵の野戦司令部だ。


「――あれだッ」


 その目標建物を向こう視認しながら。亜壽はペアとして可連を伴い、瓦礫にバリケードだらけの街路を駆け進んでいる。



 バリケードは、元は密に構築されていた物だったのだろうが。現在は、自衛隊側の事前砲撃が加えられた影響から、そのそこかしこに崩れ空いた個所がある。


「ッ」

「っ!」


 亜壽は、その崩れて手薄になっている個所を。駆ける速度を落とさぬまま、瓦礫を平気で飛び乗り越え。

 流れ続くように、すかさず可連も同じように飛び越え。

 メチャクチャな街路上を、しかし縫うように進んでいく。


「開けるぞッ」


 程なく、その瓦礫にバリケードだらけの景色が前方に開け。その向こうにまた大きな交差点を見る。

 亜壽と可連は次にはバリケード地帯を抜け出て、その交差点に踏み込み。

 直後にはその前方にあった、建造物のものであった大きな瓦礫に、突っ込むように飛び込みカバー。


 ――重々しい銃火が頭上近くを掠め抜けたのは、直後瞬間だ。


「ひぃっ!」


 無事カバーして難を逃れながらも、お約束のように悲鳴を上げる可連。


「向こう庁舎の上階、敵の重機関銃ッ!」


 亜壽はすぐさま、瓦礫から一瞬最低限出した視線で。その銃火の出所を把握して発し上げる。

 言葉通り。交差点の向こうの角に、堂々と構える役所庁舎の上層階。そこから重機関銃クラスのものであろう火線が、唸り降り注いでいた。


「!……ちょ、まって……アレっ!」

「――チッ、ホントかッ」


 しかし、亜壽に可連がさらなる「それ」を見止めたのは直後。

 あからさまに狼狽える声を漏らす可連に、隠さぬ舌打ちを打つ亜壽。


 瞬間――二人の側方近くを、重々しくも空気を切り裂くように何かが掠め抜け。

 次には斜め反対の背後に建つ、また別の建物が――叩き、爆砕された。


「っ!……ひぅ……!」

「ッォ――デカブツを」


 爆砕され、濛々と煙を立てて崩落する建物を背後に一度見て。

 それから、前方向こうに視線を戻す二人。


 今先の、役所庁舎ビルの根元の地上。

 そこに鎮座君臨していたのは――巨大な砲だ。


 見ただけで、少なくとも150mmクラス以上。

 ――明かせば。それは帝国陸軍砲兵の用いる、17dhh(170mm)口径の加農砲。


 巨大で、本来は開けた場所で配置展開するべきそれを。しかし庁舎ビルの根元階層に、崩れたそこに半分押し込む形で無理やり掩体させたものが。

 そこに居座り、待ち構えていた。


「――ふっざけてやがるッ!」

「よくも苦労してまで、こさえたな」

「あんなものを役所にッ」


 その、加農砲からの一撃が劈いた直後。

 仙國と時代、そして同伴していたラーセが。バリケード通りより飛び出し掛けて来て、追い付き到着。

 それぞれ皮肉気に、呆れ気味に、もしくは苦く険しい色で言葉を零しつつ。

 三名は、側方背後で瓦礫の内に横転して沈んだ、大型トラックの残骸に飛び込んでカバーする。


「あれに鉢合わせしたら、戦車も一撃だ。このまま、迂闊に味方を呼べない」


 さらに今も、頭上に近くを重機関銃の銃火が掠める元で。しかし淡々と零す亜壽。

 言葉の通り。瓦礫にバリケードだらけのこの周辺で、あんな巨大な砲に居座られては厄介極まりなかった。

 行動に制約を受ける状況で、迂闊に味方戦車などが進入してくれば。鉢合わせからそのまま餌食になりかねない。


「潰す必要がある――仙國、時代、援護しろッ。自分と可連で、誘導マーカーを設置にいくッ」

「!?んな!?私もっ!?」


 そして次には迷う暇も無いと、亜壽は加農砲を潰しに掛かる旨を発し。同時に近接戦闘に備えて10.9mm拳銃を取り出し準備。

 その横で、行動に問答無用で付き合わされることになった可連が、目を剥いて驚愕の声を上げた。


「正気ですかねェッ?」

「了」


 援護の要請を受けた二名は。

 仙國はその危険を伴う行動に、それに上官自ら臨む事に皮肉を向けながらも。しかし瓦礫にM240Gを据え構えて準備し。

 時代は端的な了解だけを返し、HK417を構えて配置に付く。


「川越12より調布03ッ。こちらは敵野戦司令部を視認、そこに強力な大型火砲の配置を確認。無力化の必要有り、優先の航空投射を要請するッ」

《了解川越12、手配する》

「願う、これより誘導マーカーの設置に掛かるッ」


 その間に、亜壽は司令部の航空管制と通信にて調整を実施。

 敵司令部の攻略のためとあってか、優先の要請は容易く許可され。亜壽は最低限のやり取りで通信を終える。


 そして直後――仙國のM240Gによる、援護制圧射撃が唸りを上げた。


「――行くぞッ」

「あぁ……もうっ!」


 援護射撃の開始を見止め。

 直後には何の迷いも無く、亜壽は瓦礫でのカバーを飛び出して、全力疾走に近い速度で向こうへ駆け進み始め。

 可連も腹を括る様に、それに続き飛び出した。


 役所庁舎は敵の司令部、かつ最終防御地点だけあって。多数の帝国軍部隊に兵士が配置している。

 上層階に配置された敵の重機関銃は激しく唸り、降り注ぎ。

 あちこちの窓からは敵の各個射撃が撃ち寄越されて襲い。

 極めつけに、17dhh加農砲が再びの咆哮を上げ。こちら側の瓦礫の山を爆砕する。


「ヌォァッ!」


 しかし、それに負けじと。

 仙國は役所庁舎上層階の重機関銃の配置個所に、阻害射撃を叩き込み続け、向こうの射撃掃射を妨害。


「ダウンッ」


 時代は的確に、向こうの庁舎の窓から亜壽等を狙っていた敵狙撃兵を。しかしその狙撃を認めるよりも早く、撃ち仕留め阻止する。


「ッォ!」

「っ!」


 その、敵からの過激な攻撃と。味方からの援護射撃が交錯する中。

 亜壽と可連は駆け抜けた先で、一旦遮蔽物に突っ込み飛び来みカバー。

 向こうへそれぞれ、10.9mm拳銃に20式 IARを突き出しばら撒きながらも、その息にタイミングを整える。


「仙國ッ、さらにだッ!敵の銃座にッ、プレッシャーを掛け続けろッ!」

「あぁッ、やってるさッ!」


 同時に亜壽は背後へ張り上げて、仙國に指示を飛ばす。

 それに仙國は隠さぬ悪態の声で答えながらも。M240Gの引き金を引き続けて、我武者羅に敵火点へと撃ち注ぎ続ける。


 仙國の阻害の機関銃火が、敵の機関銃を怯ませてその過激さを鈍らせ。

 時代の狙撃が、また向こうの敵兵を仕留める。


 さらにそこへ、PFE隊の戦闘班や増強の普通科隊も、バリケードを縫い越えて来て追い付き合流。戦闘行動に順次加わる。


 背後各員からの援護射撃により、少しでも敵の攻撃の勢いが低下した隙を縫い。

 亜壽と可連は飛び出し駆け、向こうの敵加農砲に肉薄するべく前進する。


「……すごい……ッ!」


 その苛烈、果敢。間違えば無謀とも見える姿に。

 ラーセは自身も短機関銃をばら撒き、少しでもの援護を行いながらも。同時に目を剥き、敬意と畏怖の混在した感情を抱きながら、亜壽等の姿を追っていた。


 その各行動の果てに、亜壽と可連が敵加農砲の間近まで接近を果たしたのは間もなく。


「――マーカーッ!」

「投てぇきっ!」


 また近場の瓦礫に突っ込み飛び込み遮蔽した、亜壽と可連は。

 直後には一瞬も惜しむ様相で。張り上げると同時に航空投射誘導のためのマーカー機器を、向こうに向けて投擲。


「敵戦ッ車ァーーッ!!」


 背後後方から、仙國の怒号の域での張り上げる伝える声が届いたのは直後。

 同時に前方向こうに構築される、帝国軍の厚い防御陣地をしかし縫って越えて。敵戦車部隊が出現したのは直後。

 レオンファーツ重戦車に、ファウス大型中戦車など。複数両の脅威たる強力な戦車から成る隊伍が、この場を巻き返すためであろう、雪崩れ込むように走り込んで来た。


「来るぞォーッッ!!」


 しかし、その脅威にしかし構わぬ様相で。直後は――「それ」が来たことが。

 亜壽の張り上げた怒号と。

 そして上空真上より聞こえ届いた、空気を切り裂くような轟音によって知らせられる。


 上空――航空自衛隊のF-3B戦闘機が。

 役所庁舎に隠れた加農砲を狙うべく、急降下爆撃の軌道で進入してくる姿が真上に見えた。

 しかし、それすらも一瞬。

 そのまま地上に激突してしまうのではないか、そう思うまでの急降下急速度で真上に迫ったF-3Bは。

 だが刹那、尖るまでの動きで思い切り機首を水平まで引き起こした。

 そのF-3Bが、何らかの複数の物体――複数発のMk.82航空爆弾を、その腹より放ったのはその直前のほぼ同時。


 そして――


 ――無数の爆音が。本当に全てを吹き飛ばしてしまうかの如き様相で、上がった。


「――ッォ――」


 可能な限り身を低くして、遮蔽カバーした亜壽等を。

 しかしその零れ来た、感じるだけでも引き裂かれてしまうのではないかと思う程の、衝撃派に振動が揺さぶる。


 だが。爆撃の体現するそれは、一度切りに留まらない。


 上空真上からは、再びの劈く轟音が届く。

 二機目のF-3Bの急降下爆撃進入。


 そして直後には。今程の爆撃を再現するように、二度目の爆音に衝撃が上がった――



「――ッぉ……ッ!」


 爆音が、衝撃が、その他の物音が収まり。

 亜壽は、舞い込んで被った土埃を払いながら、カバーを解いて視線を覗かせ回す。


「あァ――」

「うっぁ……」


 そして向こうに見えた光景に。亜壽は、次いで顔を出した可連も思わずの声を上げた。


 向こうに。先程までは、厚く防御構築が成されていた帝国軍陣地の方に見えたのは――しかし、それが見る影も無く吹っ飛んだ光景。


 野戦司令部の置かれた役所庁舎は、雪崩でも起こしたかのように構造が大きくこそげ取られて崩れており。

 今先に状況を巻き返そうと雪崩れ込んで来た、敵戦車部隊の隊伍は。その全てが焼け焦げ、炎上大破して沈黙している。


 密であった陣地からの、敵の各攻撃も止み。

 一番の脅威かつ無力化目標であった、170mmクラスの加農砲は。その砲身が思い切り拉げて、損壊して引っくり返っていた。


「ッゥー」

「さまッさまだコトでッ!」


 その、敵の果てた有様であり、自分等が成したものでありながらも。凄惨と表現するに値する光景に。

 亜壽は思わずの吐息を零し。

 背後からは一拍遅れてカバーを解き、同じくの光景を見た仙國からの。皮肉一杯の台詞が届く。


 続けて向こう背後の上空を見れば。

 今しがたに急降下爆撃を見事に成功させた二機のF-3Bが、悠々飛び去って行く姿を見せていた。


 そして入れ替わるように、背後の厚いバリケードが、しかし向こうの奥側から崩れ。味方、戦車戦闘群の10式戦車が、崩したバリケードのど真ん中から突破して出現到着。

 続いて、機動連隊 第4普通科中隊の面々も、到着して展開して行く姿を見せた。


「ご到着だッ」


 その到着を見て、またいつものように皮肉気に。合わせて後は任せるというように、仙國が零す。


「気を抜くな、残敵を警戒。安全を確保しろッ」


 しかしそれを律するように。亜壽は仙國始め、周りの指揮下各員に声を飛ばし。

 自身も10.9mm拳銃に再装填を行おうとした。


「!……待って……あれ……!」


 しかし。

 それを、隣にいた可連の声が阻んだのは直後。

 見れば、彼女は前方の上空を見上げ。そしてなぜか震え、怯えるまでの様相で上空を見上げているではないか。


「――ッ!」


 それを訝しんだのも一瞬。しかし可連の視線を追い、亜壽はその理由に気づく。


 街路、交差点の向こうの上空。

 そこに出現していたのは。無数の発光する紋様に文字で、いくつもの巨大な円形が描かれ。それが重なり絡み合う、一種幻想的なまでの光景。

 ――魔法陣。


 一目見ただけで分かる、攻撃のそれ。

 この異世界に存在する、『魔法』による脅威の体現のそれ。


 一瞬前までは何も無かったはずの上空に。しかし短時間での発現が可能なのか、今現在は確かにその巨大な姿を描いて形作り。

 さらにそれはすでに、発動の直前であることを匂わせる、膨張の如き発光現象を見せている。


「ぅ……ぁ……」

「ジョォッダンッ!?PFEッ、どっか――ッッ!」


 可連はすで身を硬直させ、怯える声しか上げられておらず。

 肩代わりするように、仙國が近場に即応可能なPFEユニットが居ないかを張り上げる。

 

 言われるまでもないと。すでに第1PFE小隊の隊員が、近場に乗りつけていたPFE装備搭載の高機動車に取り付き、その発動に手を掛けている。


「あぁッ――手遅れだッ――」


 だが、その最中で。亜壽は察する。

 敵の魔法の発動のほうが、僅差で早いと――


「ッ!――退避しろォッッ!!」


 そして、亜壽がまた怒号の如き声で、周りへ張り上げ退避を伝え。

 同時に亜壽は隣で硬直している可連の首根っこを掴み。そのまま真っ先に目についた遮蔽物に、最早吹っ飛ぶ勢いでとにかく突っ込む。

 亜壽を筆頭に周りの各員も、同じくの様相で退避の動きを見せた直後――


 向こうより、巨大魔法の発動の衝撃派が襲来。

 あまりにも巨大な破壊が、周囲一帯を包み込んだ――

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