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Part15:「〝始めるぞ〟」

 自衛隊側がゴルフエリアと区分した一帯の、その中心に位置する街。

 元はウォーシャ県連合の街であり。しかし現在はフォルツメイル帝国軍にて占拠され、その野戦司令部が置かれている。


「っ……」


 その一角にある役所庁舎。現在は帝国軍野戦司令部が入るその建物から、ちょうど歩み出てくるクリエールの姿が在った。

 その彼女の顔色は、暗くしかし険しい。


 ここまでへの後退から、一旦の報告と防御の際の指示を受けるために出頭したクリエールは。

 しかしそこで、リヒュエルやエリスン。友人たちの討たれた報を聞いたのだ。

 混乱下で命からがら後退して来た仲間が、その確かな知らせを持って来たらしい。


「リヒュエル、エリスン……皆……」


 ここまでで逝ってしまった友人たちに仲間たちを想い。感傷の色をそう、静かに口に零すクリエール。


「――私を、怒らせたな……」


 しかし、次には彼女は。静かに、しかし確かな怒気を込めた声を零す。

 彼女の麗しいその瞳には、静かな怒りと闘志の炎が宿っている。


「稚戯は、ここまでだ――」


 そして彼女は、己が意志を確かとするように。今度はそう、静かだが気迫の込められた声で紡いだ――




 最終攻略地点であるゴルフエリアの中心となる街、その内を通る街路上の一点。

 そこに、横転した指揮車仕様の汎用装甲機動車。亜壽等の搭乗車の、しかしそんなようになった姿があった。


 つい先ほどに、ついにゴルフエリアに至り。そのまま町へと進入した亜壽等は。

 しかしその矢先、襲った敵の砲撃の近弾を食らい。吹っ飛ばされて今の状態にあった。


「ッぅー……」

「皆、五体満足か?」


 幸い乗っていた亜壽等は皆、大事は無かった。

 その、右運転席側を下に、横倒しになっている汎用装甲機動車の車内で。

 亜壽はまず、隣で身を軽く打って唸っている可連を、しかし問題無しと見止め。続けて後席の各々へ尋ねる言葉を向ける。


「えェ、幸いにも無事ですゥッ」

「ナシッ」

「え、えぇ……っ」


 後席からは、仙國からは悪態交じりの。

 時代からは端的な。

 ラーセからは少し戸惑いつつも、それぞれ問題の無い旨が返される。


「ここからは徒歩だ、行くぞッ」


 その確認が取れると。亜壽はすぐさま各々へ告げながら、シートベルトを外し。

 次には真上になった助手席ドアを叩き開き、外へと這い出した。


 慎重にしかし素早く、視線を出して周囲の最低限の安全を確認。

 そして次には車上より飛び降り、すぐさま近場の瓦礫を遮蔽個所と定め、飛び込みカバー。


 少し向こうには、こちらの存在に気づき、慌ただしく動く敵の姿が点々と見え。散発的な攻撃がすでに寄越され掠め始めている。

 亜壽は、自身の装備であるコマンドカービン仕様の20式5.56mm小銃を繰り出し。次には突き出し構えて発砲。

 他の四名が汎用装甲機動車を降りて離れ、態勢を整える間を稼ぐため。牽制射撃をばら撒く。


 近くのどこかに軽量の迫撃砲でも配置しているのか、散発的な着弾炸裂が時折、周囲向こうで起こる。


「っ……!」


 そんな最中でしかし。他の皆の脱出から退避にはさほど掛からず、直後に亜壽の隣には可連が飛び込んで来てカバー。


「ったくッ」

「ッ」

「っぁ……!」


 同時に、周囲の各遮蔽可能個所に。仙國、時代、ラーセのそれぞれがカバーを完了し、それぞれの火器を繰り出し構えて態勢を整える姿を見せた。


「指示任務を続けるぞ。敵の構築を可能な限り崩し、妨げるッ――いいかッ?」


 それを見止め、次には各々へ向けて指示の声を張り上げて。合わせて尋ねる亜壽。


「っ……当然!」

「あぁ、面倒だことッ」

「了」


 それに返るは、指揮下の三名からのそれぞれの色での了解の言葉。


「交互援護しつつ前進するッ、中尉は自分等の誰かから離れるなッ。行くぞッ」


 続けての指示を各々へ向け。最後に他軍からの連絡要員であるラーセには注意事項を告げると。

 亜壽は任務行動の先陣を切る様に、遮蔽物を飛び出し向こう前方に向けて駆け出した。


「調布01へ、川越12及び13が徒歩ッ!指示任務は継続行動中ッ」


 まだ散発的だが敵方からの銃火が飛び来て、掠め始める中を。

 しかし亜壽は司令部へ片手間に、自分等が徒歩行動へと移行した旨を伝えながらも。素早く駆け進む。


 駆ける進行方向にあるのは大きな交差路。そのすぐ前までへ駆けて走り、次には適当な位置にあった遮蔽物に飛び込み、吸い付くようにカバー。


「ッ」


 それから間髪入れずに20式コマンドカービンを突き出し、向こうへ向けてとりあえずの様相でばら撒く。

 一拍置いて、他の四名も互いの援護行動の元に順次到着。

 十字路の対面の角を向こうに見るように、こちら側の周辺各所へ散会からカバー配置。

 その直後、途端に向こうから襲い来たのは。

 向こうの建物の屋根上に配置した、敵の汎用機関銃の銃火。

さらにはまた向こうに陣取る敵擲弾兵などからの、本格的になり始めた各個射撃だ。


「各個判断でやれッ」


 それを一度カバーで凌ぎながら、亜壽は指揮下の各員に自由攻撃を指示。


「おーらよォッ!」


 直後には、装備火器のM240Gを瓦礫に据えて構えた仙國が。その唸りを、掃射を向こうの敵に向けて撃ちばら撒き始めた。


「ッー」


 それを横に見つつ、同時に亜壽はまた素早く銃を突き出し、一瞬かつ最低限の照準から二三発を切り撃ち。

 直後にはすぐさま身を下げてカバー。その瞬間には、間髪入れずに頭上を敵の銃火が掠める。


 他。可連はまた彼女の装備火器である、分隊支援火器仕様の20式5.56mm小銃 IARを。

 時代はHK417をそれぞれ用い、敵の攻撃の隙の縫っての射撃応戦を開始する。


「ヌォッ!?」


 背後の建物の壁を、爆炎が叩いたのは次の瞬間。

 それは十字路向こうの施設の側。積み上げた土嚢に掩体した帝国軍のハーフトラック。

 それの搭載する50mmクラスの対戦車砲が、狙いもそこそこに撃ち寄越した砲撃だ。


 他、帝国軍擲弾兵のそれぞれが寄越す銃撃が、容赦なく周囲を叩き掠め。

 さらに次には、敵の軽量対戦車火器が撃ち寄越されれ、その弾頭が真上を飛び抜ける。


「っぁ……!」

「チ」


 苛烈なそれに、少し臆する色を見せる可連に。

 瞬発的な射撃を繰り返しながらも、舌打ちを打つ亜壽。


 初動こそ、亜壽等のチームのみのこちらに対して、敵側が圧倒的に有利であった。

 だが、それはすぐに変わり始めた。


「おでましだぜッ」


 M240Gを唸らせながらも、知らせる声を上げた仙國。

 次に各々が聞き留めたのは、十字路の側方街路の向こうからのエンジン音。


 そしてその向こう、建物の影から――25式装輪装甲車が登場。

 PFE隊に増強される普通科小隊のもの。この街への進入直後に、別方向から回り込ませていた隊だ。


 その25式装輪装甲車は現れるや否や、搭載の12.7mm機関銃を回し。十字路向こうの角の建物に、そこに籠る敵に向けて、苛烈な銃火を注ぎ始めた。

 またその間に、25式に搭乗の普通科一個分隊が降車。散会展開して戦闘に加わる。


「続々だぞッ」


 さらに亜壽等の背後からは、距離を離して後続させていた別の汎用装甲機動車が。PFE隊、第1PFE小隊の戦闘班が到着した。

 戦闘班は亜壽等を増強、援護するように散会展開。

 汎用装甲機動車からは搭載のMINIMIが唸り始める。


「――ダウン」


 その直後には、一発の銃声が響くのと合わせて、時代から小さく零された声が聞こえる。

 そしてそれと同時に、反対側家屋の屋根の上からの、敵機関銃の掃射が止み沈んだ。

 時代がその狙撃行動で、見事に機関銃の射手を仕留め沈黙させたのだ。


 ガゴン――と。鈍く金属を拉げさせる音が上がったのは、ほぼ同時の直後。

 そして次に見えたのは、先の対戦車砲搭載のハーフトラックが爆発大破する光景。

 準備を完了させた普通科の対戦車要員が、ハーフトラックに無反動砲を叩き込み。大破せしめた証であった。


「……大半は沈黙っ、残敵は後退してるっ」


 少しおっかなびっくりながらも、可連が向こうを観察しながら伝える声を寄越す。

 言葉通り、向こう敵陣地からの攻撃は大分沈静化。配置していた敵部隊は後退か敗走かは不明だが、ともかく引いていく姿を見せていた。


「ったく――でェ?こっからはッ?」


 さらに次には、仙國がここからの行動指針を訪ねる声を寄越す。

 その動きは、据えていたM240Gを持ち構え直しており。倦怠感露わながらも、すでに続く移動行動に備えている。


「とりあえず、抉じ開けろとの指示は完遂したが――ここでじっとしている理由も無い」


 それに亜壽は、まずそう言葉を紡ぎ。


「最終目標、敵の野戦司令部はすでに、すぐ隣の区画だ。状況を少しでも掌握し、潰す事を容易にする――続けるぞッ」


 続けて周囲指揮下の各員に、直接及び通信で続く行動を伝え。そして促す声を張り上げる。


「っぅ……了解……!」

「へェへェッ!」

「了」


 それに可連、仙國、時代などの、亜壽と行動を同じくしている各々から。

 少し躊躇いがちだったり、皮肉に悪態全開だったり、端的そのものな返答がまず返され。

 他ポツポツと。戦闘音に混じって、各隊・班の代表からも返答が届く。


「よしッ――再開ッ!」


 確認を終えると、それ以上の細かな問答は無用と。

 亜壽は張り上げ、自ら先導するように。遮蔽を飛び越え、最終目標を目指して駆け進み始めた。

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