Part13:「強襲、その応酬」
二曹率いる一個分隊は中隊より先行し、崖際の帝国軍陣地から発してその奥へと進出。
「――あった、見つけた」
生息していた林を抜けて越え、その向こうに在った小さな集落で。目標である敵の重迫撃砲はあっさり見つかった。
詳細には、重迫撃砲と形容するにしても大分大型で。大型榴弾砲にも匹敵するサイズの帝国軍の火砲が五門。
それがしかし集落の広場で、陣地構築もそこそこに突貫で展開された様子で。
急き慌てるまでの動きで、砲撃を行う姿が在った。
人員も足りていないのか、展開配置されて射撃を行っているのは内の二門のみで。残りは牽引状態に畳まれたまま、半ば放り置かれていた。
警戒の人員も、後方であることからか、もしくは人で不足でそれすらを惜しんでか。軽装備の兵が屋根の上や土嚢の側に2~3名見えるのみ。
それも少人数での警戒を要求されてか、その注意は乱れ散らかっている。
「始めてやがるッ、止めるぞッ」
しかし突貫の様子とは言え、その砲撃が自衛隊側の味方を狙った阻止砲撃であることは明らか。それが脅威である事に違いは無い。
二曹は迷うことすら選択に無いと、襲撃制圧を決定した。
即座に木立を隠れ蓑に、分隊のMINIMI軽機が配置。次には向こうの帝国軍砲兵の陣地に向けて唸りを上げた。
注ぎ叩き込まれた軽機銃火に。帝国兵の何名かが撃たれ、向こうがこちらの存在に気づいて、慌て動き始めるが。
しかし奇襲を仕掛けた分隊の利は傾かなかった。
「ダウンッ」
家屋の屋根の上で警戒に着いて居た敵兵が、それに気づき慌て動きを見せたが。
しかしその兵は、直後には彗ヰのすかさず行った射撃に撃ち仕留められる。
他、同じく慌てての対応を行おうとした敵兵達は、しかしやはりその前に、分隊側の各員の開始した銃撃に動きを止められ、射ち崩される。
「そうれッ、ストンと行けッ」
最後には、敵側の動きを封じた所を。自衛隊側の隊員等が遮蔽を利用して接近、そして手榴弾を投げ込み。
向こうの土嚢に護られた砲兵陣地に飛び込んだそれが、炸裂。
敵兵達を炸裂の暴力で打ち弾き、散らし沈めた。
「――手軽かったな」
さほど掛からずしての状況の鎮圧を見て。鳴り止んだ銃声と入れ替わりに、二曹は零す。
「半数は警戒――重迫にしてもデカブツだな、爆破処分するぞッ」
そして警戒を指示しつつも、帝国軍の大型重迫撃砲にそんな感想を零し。その爆破処分を続けて指示。
分隊各員は、そのために行動を始めようとした。
――しかし。微かな金属の擦れる音に、唸り声のような音が。
キャタピラ音にエンジン音が、向こうから聞こえ届いたのは直後。そこかしこで響く様々な音の中で、しかしそれは一際明確なものへと変わり。
ヌォ――と。
集落の向こう奥の家屋の影から、帝国軍の大型中戦車。『ファウス』が現れたのはその直後だ。
「――最悪だッ!」
それを見止め、その正体を理解した瞬間に、悪態交じりに張り上げる彗ヰ。ファウス中戦車のその主砲方向がこちらを、彗ヰの方を向いて睨んだのは同時。
そして直後瞬間、その砲が唸りを上げて撃ち放たれた。
「――ッぉ!?」
砲撃の軌道は、彗ヰの側方真上を掠め。彗ヰがちょうど背後近くにしていた家屋建物を、その角をその角を叩くように直撃・爆砕。
その砲撃の炸裂と、家屋の爆砕の破片が彗ヰを巻いて襲い掛かった。
「ッゥ!――っオぁ……ッ!?」
幸い彗ヰはその直前に前へと踏み飛んで、地面に身を捻り突っ込み伏せたため。衝撃破片による被害負傷は免れた。
しかし、代償として後先を考えずの飛び込みにより、地面に強く身を打ち、彗ヰの神経は揺さぶられた。
「ぬォ……ッ」
「彗ヰッ!」
すぐさま這い逃げようとしたが、ダメージの影響で緩慢な動きしかできない彗ヰ。
そこへ慌て、二曹が助けに駆け寄って。次には彗ヰの戦闘服を掴んで、引き摺っての後退を始める。
その後退行動を行いながらも、二人から見える向こうには、歓迎し難い光景が広がりつつあった。
今しがたに登場したファウス中戦車は、向こう奥から集落の内を押し上げて迫り。さらには多数の随伴の擲弾兵も出現。
集落の奥向こうには、帝国陸軍の軽戦闘車両や兵員輸送車の到着までもが見える。
そして、一点で敵側の機関銃班が汎用機関銃を据え。次にはその銃火が唸り、こちらを掠め襲い始めた。
「増援が来やがった!後退ッ、林で再編成しろッ!」
「ッゥ……!」
二曹は指揮下の各員に張り上げながらも、彗ヰの身体を引き摺っての後退をできる限り急ぐ。
その彗ヰは引き摺られながらも、G28を構え。照準もそこそこに、阻害行動のために撃ちばら撒く。
背後の林からは向こうに逃げ飛び込んだ分隊員や、待機していたMINIMI軽機の支援射撃が寄越され。苛烈に行き交い始める双方の銃撃。
しかし、手数は明らかにこちらが不利、さらにこちらにとって問題なのは、向こう正面から迫りくる敵戦車。
丁度、分隊の対戦車火器要員が無反動砲を撃ち放つが。それはファウス中戦車の分厚い砲塔正面防盾に、ガインッと音を立てて退けられる。
そしてお返しのように砲撃が寄越され襲い。また家屋が吹き飛ばされて、近場でカバーしていた隊員を襲い掠め巻く。
窮地。「まずいか」、彗ヰや二曹の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
だが――ガインッ、と。
一層の衝撃が、向こうのファウス中戦車を叩き。一部を拉げさせ、そして爆炎で巻き込んだのは直後瞬間だ。
「ッ!」
驚き目を張る彗ヰ。
ヌッ――と。その彗ヰの視界の端、すぐそこの家屋の影より現れたのは別の大きなシルエット。
それは――16式機動戦闘車。
今のファウス中戦車を襲った衝撃打撃は、その機動戦闘車の105mmライフル砲の射撃が成したもの。
増援。機動連隊からの機動戦闘車中隊の到着。
別ポイントより上陸を果たしたその隊が、この場へと増援に駆け付けたのだ。
その現れた機動戦闘車は徐行で走り出て来て、彗ヰ等を守るように配置。
さらにそれに続けて二両目の機動戦闘車も出現。二両目は一両目と連携し、互いの隙をカバーするように配置すると。次には中戦車に向けて105mmライフル砲を撃ち放ち、二撃目を叩き込んだ。
側面を取られる形となったファウス中戦車は、今度は後ろ側面のエンジン部にそれを叩き込まれ。次には歪な音を立てて停車、行動不能に陥る様子を見せた。
「味方だ、なんつータイミングだッ」
その光景を向こうに見つつ、歓迎の色で発し上げるは二曹。
その周りを、機動戦闘車に随伴して現れた別隊の普通科小隊が。駆け抜け配置して行き、帝国軍の部隊を押し返すべく戦闘行動を始める。
その中でさらに次には。一両目の機動戦闘車が再装填を完了。向こう奥で機関砲をばら撒き唸らせていた帝国軍の軽戦闘車両を、しかし射ち叩いて仕留める光景を見せた。
「――!?」
だが、その光景の内で。彗ヰは向こうにある姿に動きを見止める。
見えたのは、今まさに行動不能に陥ったファウス中戦車の車上。そこから飛び降りてくる、大柄の狼獣人の戦車兵の姿。
その戦車兵、おそらく車長は。遠目かつ戦車兵の服越しにも分かるその屈強な体躯で、中戦車の車上機関銃をもぎ取って抱えており。
次にはその引き金を引き、照準もせずに周囲にばら撒き始め。集落のど真ん中、展開する自衛隊普通科小隊の包囲の内で暴れ始めた。
「ヤベェのが暴れ出したぞォ!」
「どこか対応しろッ!」
獣兵はおそらく士官。その立場に責からの囮か、最後のあがきか。
ともかくその屈強な身体をもって、なりふり構わずに暴れ銃火をばら撒き始めた獣人兵に。
一時的に後退カバーを余儀なくされる普通科小隊始め各隊。
「いや――やれるッ」
しかし、彗ヰが向こうの狼獣人兵の我武者羅のそれの内に、隙を見出したのは直後。
そして彗ヰはまだ痛みの残る身体で、しかし迷わず構わずG28を構え、その装着の光学照準を覗き。
一拍を要した照準行動から――引き金を引いた。
結果は――ヘッドショットが見事に決まった。
G28より射ち込まれた一発は。機関銃を撃ちばら撒き、暴れていた狼獣人兵の頭部に見事に命中。
狼獣人兵の脳天を貫き、次にはその巨体に足を折らせ、儚く地面へと崩し沈めさせた。
「マジかッ」
自分の元でそれを成してのけた彗ヰに、思わずの感嘆の声を零したには二曹。
「あァ、なんかいい感じに入ったッ」
一方のそれを成した当人である彗ヰは。しかし誇るでもなく、運が良かったとでも言うように零しながら、手元のG28を降ろす。
方や。向こうでは増援の機甲小隊までもを失い、引っくり返ってしまった状況から、後退せざるを得なくなった敵部隊の姿が見え。
しかしそんな彼らに、彗ヰ等の背後から側方を飛び越えて、さらなる強力な火力が注ぎ叩き込まれて襲う。
「戦闘上陸中隊か」
振り返り見れば、背後の林を折り倒して、戦闘上陸中隊のAAV7が現れており。その搭載の擲弾銃と機関銃による掃射行動が、向こうの残る帝国軍部隊を浚えて行く。
AAV7は先の着上陸から、岸に崖を迂回して上がって来て。今ここに到着したものであった。
「彗ヰ、大丈夫か?」
そんな光景を見て、戦闘状況は増援に任せて良いと判断してから。
二曹は自身の元の彗ヰに声を掛けながら、手を貸す。
「えぇ、なんとか……ッ」
幸い、身を打っての痛みから緩慢になっていた身体は回復しつつあり。彗ヰは二曹の手を借りて立ち上がった。
「皆、他は大丈夫かッ?」
「支障ナシッ」
「かすり傷ッ」
続けて、指揮下の分隊各員にも安否確認の声を飛ばし。各方のそれぞれからは大事無い旨が返って来る。
「危機を救われたな」
「あぁ、イイトコもって行きやがった」
彗ヰに、指揮下の各員の無事を確認した後。
二曹は向こうで展開から押し上げて行く増援の各隊に、次には側面背後を横切っていくAAV7の巨体を見ながら、そんな言葉を零し。
それに彗ヰは、苦い顔と悪態の言葉で答える。
「何言ってる、お前もよくやった。大した腕だよ」
しかしそんな彗ヰに。二曹は今しがたに敵の脅威を見事仕留めて見せた、彼の行動に射撃の腕を評し、称えて見せる。
「そいつぁどうも」
それに、しかし素直に喜べないところがやはりあるのか。少し苦い色でまた返す彗ヰであった。
結果。
自衛隊側の実行した渡河作戦は、少ないとは言えない被害損害も出してしまったが、成功。
対岸へと渡り、進出のためのアクセスを確保する目標は完遂された。
そしてここからいよいよ作戦は終盤へと差し掛かり。その戦闘は一層苛烈なものと張り始める――




