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Part9:「戦場の女王」

 視点は、その戦場の女王たる普通科隊の方へ。


 自衛隊はこの地域一帯を。山間部に挟まれて、東西に縦に伸びる形のこの一帯を。

 アルファ(A)からゴルフ(G)までの7つのエリアに分け。それぞれを順に確保掌握するための作戦行動を開始、展開していた。


 場面は、その内のブラボーエリア。そこにある中~小規模の一つの町へ。



「――ッォ」


 町へと繋がり伸びる街道。その周囲では無数の爆炎が――帝国軍の砲兵隊の成す、砲射撃の着弾が上がり起こっている。

 それを時に遠くに、時に間近に見ながら。

 自衛隊側――外域作戦団 機動連隊の第1普通科中隊の。装甲車輛を中心とした車輛隊形が、荒々しい走行の様子を見せて進んでいた。


 第1普通科中隊は。ブラボーエリアと定めた一帯の、その中心であるその町と、合わせてその周辺を攻略制圧するために目指して進行していたが。

 その最中に、帝国軍砲兵部隊の過激な阻止砲撃に晒されていた。


 その車輛隊形で先頭を務め進む25式装輪装甲車の上で、中隊長たる一等陸尉が。近弾が巻き上げ伝えた爆炎と衝撃派にその顔を顰め、声を零す。


「スリリングだことッ」


 その中隊長の背後元。分隊用乗員室隊のシートに座す指揮下の陸士長が、苛烈な砲撃に晒されている状況に、しかし皮肉気な台詞を上げる。


「備えろッ、町のすぐそこまで来たぞッ」


 その陸士長の皮肉はまともに相手はせずに、伝える言葉を端的に飛ばす中隊長。

 中隊長の言葉通り、車輛隊形は掌握目標の町のすぐそこまで迫っていた。


「入口の向こうに敵火砲ッ!」


 次に、飛び寄越されたのは25式装輪装甲車の操縦手からの声。

 それは町の入り口の向こうに配置した、帝国軍対戦車砲の存在を知らせるもの。


「このまま突っ込めッ、家屋に突っ込んで遮蔽しろッ!」

「了ッ、備えろ掴まれェッ!」


 中隊長がしかし突入の指示を張り上げ。

 操縦手もそれに呼応了解、訴える声を張り上げ伝え。


 間もなく装甲車は町へと到達、その出入り口の境を越え。

 そしてその先にある家屋に、申し訳程度にだけ速度を落とし、ほとんどその勢いのまま――斜行から鼻先で、思いっきり突っ込んだ。



「――ッ゛ぉ……ッ!」


 突入から生じた衝撃に。装甲車に乗車していた隊員等は身構えて居て尚、それによって身を大きく揺らして、何名かは軽くどこかにぶつけ。

 中隊長始めそれぞれが、声を唸らせ零す。


「ッー……到着だ、降車ッ!」


 しかし、それに時間を掛けてはいられないと、次にはすぐさま気を取り直し。

 中隊長は各員に降車を指示。

 それに応じ、乗車していた普通科一個分隊の各員は。「了」と返事を返し、あるいはその手間すらも惜しみ。

 降ろし開かれた後部ハッチから、次に次にと踏み駆け降りて行く。


「車長、適当に援護頼むッ」

「了ッ」


 そして中隊長も。装甲車の上で銃手を兼ね担当する車長に、肩を叩くと合わせて告げると。

 自身の装備火器の20式5.56mm小銃を取り。車内乗員室を抜けて後部ハッチより外に駆け飛び出した。



 町は、帝国軍側の占拠下だ。

 進出して手中に収めようとする側であり。そしてその占拠からさほど時間の経過していない帝国軍側の防御態勢は、あくまで突貫構築のものであったが。

 しかしそれでも直面した帝国軍部隊からの攻撃は、苛烈なものであった。


 今程の25式装輪装甲車の先陣を切っての突入に続き。町路の上や、後方や周囲には第1普通科中隊の各小隊に班。また各車輛が到着しており。

 その各小隊、各班がすでに順次散会展開。

 向こうに陣取る帝国軍部隊を相手取っての、また苛烈な応戦を開始していた。


 正面周りに散会からカバー、展開した一個分隊の。各員が行う小銃射撃や支援火器の銃火が向こうへと注がれ。


 後続到着した24式装輪装甲戦闘車が、その背後に配置し停車鎮座。その胴よりまた一個分隊を降車展開させながらも。

 戦闘を始めた各隊員を支援するために、砲塔の旋回から照準を完了。次には備えるMk.44 30mm機関砲を唸らせ。

 向こうの交差路角の家屋の上階にその砲火を叩き込み。そこを、その内に籠り陣地としていた帝国軍の機関銃班ごと、砕き弾き飛ばした。


 その24式を、慌て狙おうと動いていたのは。突入時に確認していた帝国軍の対戦車砲。

 しかしそれは75mmクラスのその強力な射撃を、撃ち放つことが叶う前に。

 普通科小隊の携行対戦車火器班に、その扱う84mm無反動砲(B)の射撃を叩き込まれ。爆発から大破、無力化された。


「分隊ごと、順次押し上げろッ。機関銃要員、誰か一名上階に上がれッ」


 その各員各隊が戦闘行動を展開する中心で、中隊長はそれぞれに指揮を飛ばし。

 それに呼応して各隊各員は、また確実に戦闘行動を、行程を進めて行く。



「――行け行けッ」


 一名の分隊支援火器射手が、他の隊員に援護されながら、踏み込んだ家屋の階段を上っている。

 彼らはすぐさま上階に辿り着き。次には一名が閉ざされた窓を見つけて、すかさずそこへと取り付き。そして乱雑に叩いて開け放つ。

 開けた外の眼下に見たのは。簡易作りの陣地に籠り必死の抵抗行動を行う、帝国軍の機関銃班に、擲弾兵小隊。


「ジャスト真上ッ」


 援護の隊員は眼下のそれを見止め、零しながらも背後に手招き。

 それに呼ばれ、次には分隊支援火器射手が追い付いて窓際に取り付き。急く乱雑な動きでMINIMI軽機を突き出して据え、その銃口を眼下に向ける。


 ――直後、その唸り声が上がった。


 眼下地上の帝国兵達に、銃火は雨あられの如きで注がれ始めた。

 それは正面の自衛隊各隊の相手に、意識を取られていた帝国兵達を。あまりに容易く浚え刈り取った。


 撫で浚えるように崩れていく、帝国軍小隊の兵たち。

 銃火の初撃を辛うじて逃れ、頭上の敵に気づいて応戦しようとした兵もいたが。しかしそれも援護の普通科隊員の露払いに阻止されて崩される。

 さらには一部、慌てての狼狽から、遮蔽より飛び出し身を晒してしまった帝国兵は。正面向こうからの第1普通科中隊主力の銃火に喰われ、儚く沈でいった。



「――敵、重車輛ォッ!」


 そんなように。

 帝国軍部隊の防御を剥がし崩すようにして、第1普通科中隊が押して進み。町をいくらか抑え始めた矢先。

 一名の隊員が、あるものとの遭遇に知らせの声を張り上げた。


 町路の奥から第1普通科中隊の前に姿を現したのは――重戦闘車輛。

 中戦車クラスを改造した派生型と思われる、短砲身大口径の砲を搭載した、突撃砲の形態を取る戦闘車両。

 その外観から、一目見ただけで堅牢な装甲を有するであろうと推測できた。


 その、町路の奥より現れた重突撃砲は。次には第1普通科中隊を見止めるや否や、備える大口径砲を唸らせ撃ち放ち。

 町路を押し上げている最中であった普通科分隊の、側面背後の家屋にその大口径砲弾を叩き込み。家屋を盛大に吹っ飛ばして、瓦礫を降らせて煙を巻き上げ、それらで普通科分隊を襲い煽った。


「2分隊無事かッ?」

《被害は軽微ッ!散会退避中ッ》


 その様子を後方から目撃した中隊長は、すぐさま安否確認の通信を飛ばし。

 幸いなことに該当の分隊からは、被害が軽いものである旨と、退避行動中である旨が返されてくる。


「品揃えが豊富だなッ」

「軽MAT、前に出られるかッ?」


 中隊長の隣ではさっきの陸士長が、自身の小銃に弾倉を叩き込みながらも、また皮肉気な言葉を零す。

 中隊長は横で零されるそれを聞きつつも、指揮下の対戦車誘導弾の班に向けて、重突撃砲への対応の可否を訪ねる。


《中隊長、第3小隊長です。ちょうど良いモンがそっちに向かってますッ》

「?」


 しかし、次に通信に割り込まれて聞こえたのは。また指揮下の小隊長からのそんな言葉。

 それに訝しんだのも束の間。

次には――ドンッ、という。劈くまでの音が背後から聞こえ届き。

 そして、前方向こうで進み迫っていた重突撃砲の――その正面装甲が拉げて大穴が空き。

 直後には、堅牢なはずのそれが、しかし千切れ吹き飛ぶように爆発炎上した。


「ッぉ……!――成程」


 爆発炎上した重突撃砲に、それに巻き尾まれて混乱に陥る、敵の随伴擲弾兵部隊。その衝撃の光景を向こうに見ながら。

 しかし中隊長にあっては納得の色の一声を零しつつ、次には背後へと振り向く。


 後方、町路の向こうに。こちらに向けて進み上げて来る鋼鉄の巨体――10式戦車が見えた。


「――失礼、女王様方にお付き合いをとのご用命でしたが、余計なお世話でしたか?」


 走り進み上げて来て、中隊長等の近くで停車したその10式戦車。戦車戦闘群、第1戦車中隊の奈良46の車上より。

 車長である陸曹が、そんな少しふざけた台詞を降ろして寄越して来た。

 今に重突撃砲を仕留め、撃破したのは彼等であった。


「妙な呼び方をしてくれるな、戦車乗り――だが、良い仕事だった」


 中隊長はそんな車長に。

 自分等普通科を「女王様」などと形容した事に、苦い顔で突っ込み返しながらも。同時に窮地を救ってくれた戦車隊の行動には、評し感謝する言葉を向けた。


「このまま先行して、敵中を抉じ開けてくれるか?我々が露払いする」

「女王様方にお護りいただけるとは、恐れ多い――是非とも、やりましょう」


 続けての中隊長からの、作戦行動継続のための要請に。車長の陸曹はまた冗談を混ぜた言葉で了承。


「聞こえたな、前進!」


 次には車長は戦車乗員に指示し、第1普通科中隊の活路を開くべく、その鋼鉄の巨体を持って押し上げ始める。


「まったく――続くぞ、行動再開ッ!」


 中隊長は、ふざけたムーブを崩さない戦車隊の陸曹に、少し呆れ苦く零しながらも。

 次には指揮下の各隊各員に張り上げ伝え、そして10式戦車に続いた――

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