Part1:「幻想の世界、ハイエルフと鋼鉄の獅子」
序盤導入。異世界の敵勢力側の描写です。
――その世界の地球日本は、異世界と接続してしまった。
その世界の日本で発見された、ある新事象・技術。
――Phenomenon Fluctuation Effect
和訳名、〝事象変動効果〟。通称〝PFE〟。
発見から、次世代の新たな技術・新エネルギーとして着目され、活発な実験研究が始まっていたそれは。
しかしその実験の際に、想定外の暴走事故に見舞われ。
その結果が招き発現したのは特異接続点、一種のワームホールの出現生成。
そしてその接続先は――未知の異世界であった。
そこは魔法と呼ばれる力が存在し、さまざまな異種族が住まう幻想的な世界ながらも。同時に動乱渦巻く激動の最中にあり。
その異世界の地と接続してしまった日本は、否が応にもその動乱の影響を受け、巻き込まれる事となり。
結果。その予防防衛及び人道支援のために、自衛隊が派遣される事が決定された。
――その異世界接続の起因となったPFE技術を。
異世界の凶悪な魔法魔術や脅威たる種族に、拮抗しうる〝力〟であることが明らかとなった、それを携えて――
「――ふっ」
快晴で澄み渡る空の下、広がる豊かな瑞々しい草原。
その元で、彼女――一人のエルフの美少女が小さく息を、声を零した。
外見年齢は20前後程。しかしその実、ハイエルフたる彼女の実年齢およそ300のそれに達する。
そのハイエルフ種の中も特に可憐な顔立ちは、結い上げ飾った眩い金髪により一層際立っている。そして側部より覗くはエルフの特徴である長い耳。
女としては少し高めの身長に携えるは、大変に恵まれたプロポーション。それが黒色の「戦車兵」用の軍服で、凛々しく飾られていた。
彼女の名は、クリエール・ロ・アルフィオン。
この『異世界』に存在する大国、『フォルツメイル帝国』の。その陸軍の軍人であり少佐だ。
フォルツメイル帝国では、最近に若き新皇帝が即位。
その新皇帝の掲げたのは、以前より緩やかな衰退低下を見せていた帝国の、再びの繁繁栄拡大。
その貪欲なまでの拡大政策は、帝国民に熱狂的に指示されたが。それは次第に狂気を帯び、歯止めを失い始めた。
昨今脅威となっていたのは、国力の衰退を見せていたフォルツメイル帝国の。その取得を虎視眈々と狙う近隣諸国の存在。
新皇帝の導く帝国は、己を護るためにこそ己より討って出ると――その名目で。ついには侵略という手段に手を染め、近隣諸国へと侵攻を開始。
そして帝国軍は怒涛の如き速さで――電撃戦にて快進撃を見せ。近隣諸国を次々に陥としせしめ、その版図を恐るべき勢いで広げていたのだ。
帝国陸軍、近衛第1装甲師団。精鋭たるその部隊は電撃戦の先鋒を務め。
同師団にて、第231独立戦車大隊をその大隊長として預かるクリエールも、それに参加していた。
クリエールはそのハイエルフという身分種族から、本来ならば故郷の森に籠り静かに過ごす事を好み、争いは好まぬ。
しかし彼女にとって帝国もまた、覇道と狂気に染まる道を辿ろうとしていようとも、己が故郷だ。
若き新皇帝の掲げる政策に、大手を振って賛同はできないが。しかし故郷たる帝国を虎視眈々と狙う、近隣諸国の脅威もまた理解しており。
そして彼女にとって新皇帝は、その幼き頃よりを知り。師として友として接した時期もある間柄であったため、全てを頭ごなしに否定はできないでいた。
そして版図を拡大し、また返り咲き世界に君臨するためと。老いに若きまでもが時に志願し、時に徴収動員されて行く中。
己だけが他人事でいることは彼女の矜持が許さず、従軍を志願した身であった。
皮肉にも。本心では争いを好まぬ彼女の、しかし軍人に武人としての才は恐るべきまでのものであった。
元より武を嗜み携える身ではあったが、それは戦場を駆ける中でさらに昇華。
そして同時にその心身に宿した、確たる勇敢な気質を持って。彼女は預かりし大隊を率い、進撃し、立ちはだかる敵を蹂躙。
帝国軍を勝利へと幾度も導いた。
そしてその武勇と、なにより彼女の美貌にその凛とした気質が。軍人たちを、仲間たちを引きつけ魅了し、そして恋焦がれるまでの憧れと尊敬を抱かせた。
そのカリスマから、彼女は今や帝国軍の戦女神とまで持て囃される程となっていた。
「――澄み渡った良い空だ。硝煙漂う戦場にはもったいない、優雅にお茶としたいものだ」
そのクリエールは。敵からも時には仲間からも、軍神と恐れられる彼女は。
しかし今にあっては、戦争などするには惜しい、澄み渡る青空を見上げながら。麗しい微笑でそんな台詞を零す。
「……ふふ。などと言ったら、お前は妬いてしまうか?」
だが次には、その笑みを何か自嘲気味なものに変えながら。
視線を自身の眼下に――自身が現在『騎乗』する『鋼鉄の愛馬』へと降ろし、そして語り掛けた。
彼女が現在に身を置いているのは、鋼鉄の軍馬――いや戦の獅子の上。
重戦車。
その砲塔、車長用キューポラの上だ。
クリエールの戦場での相棒――『レオンファーツ重戦車』。
強靭な鋼鉄の巨体に、また強力な『牙』――10.8dhh(cm)長砲身ライフル砲を備えた、鋼鉄の獅子。
帝国陸軍が最近になって完成にこじつけ、新たに実戦配備となったばかりの新鋭戦車だ。
数の主力の座こそ、より汎用性の高い中戦車に譲っているが。
その行き過ぎたまでの重装甲に、砲の破壊力。携えるそれらを持って次々に紡がれる武勇は、帝国陸軍将兵を昂らせ、敵を震え上がらせ。
今やその存在は、帝国陸軍戦車部隊の顔であり象徴となっていた。
実を言えば志願前から、志願してよりさほどまでは。ハイエルフであるクリエールは近代兵器に興味などなく、品も無く所詮数だけが取り柄の雑兵の武器だと。
そしてこの世界に元より存在し、今もなお戦場の華の座を譲りはせぬ『魔法魔術』の。その強大さに美麗さには到底値せぬ、下品な代物としか思わず侮蔑の念すら抱いていた。
しかし、クリエールは陸軍への志願から戦車大隊に配属され。その認識を変えることとなった。
武骨で荒々しくも、しかし鋼の獅子はどこか魅力的に、愛らしくすら見え。その広野を駆ける荒々しい足音に揺れは存外心地よく。そして奏でる砲の猛りは頼もしく思えた。
言ってしまえば、彼女は戦車に惚れ込んでしまったのだ。
今の言葉は、その相棒たるレオンファーツを可愛がり呼びかける、彼女の日常の一つであった。
「相変わらず、少佐は戦車が恋人ですかっ」
そんな姿に様子を見せたクリエールに、次に横から飛んで来たのは揶揄うような声。
クリエールの身を置くレオンファーツ重戦車の砲塔上、戦車長キューポラの隣。同じく砲塔上にある装填手用ハッチの上に、クリエールの部下の一人が。
狼獣人の青年軍曹が身を置き、そして揶揄うような笑みを彼女に向けていた。
「っ……!揶揄うな、ウェフェル……っ――同盟側の動きはどうか?」
そんな部下の青年軍曹の揶揄いに。愛らしく少し膨れっ面でも作る様にして、言葉を返すクリエール。
しかしそれに続けて次には、その表情を少し真剣な者へと戻し。そしてウェフェルと呼んだ狼青年軍曹に、尋ねる言葉を紡いだ。
「散発的な抵抗のみです。偵察では撤退――いえ、敗走の姿も多数見受けられると」
クリエールの尋ねる言葉に、ウェフェルは戦車上より向こうの光景へと視線を向けつつ答える。
それを追って続くように、クリエールも視線を向こう正面へと向ける。
クリエールたちの視界を占めたのは、瑞々しい草原やなだらかな丘が広がり。それを分ける大河や、生い茂る木立林などで描かれる豊かな大地の光景。
合わせてその大地の所々に見られる、この地に住まう人々の町や村。
そして――その広がる光景の各所から上がる、きな臭さを伝える白煙や黒煙の数々であった。
現在。彼女の所属する近衛第1装甲師団を主力とする帝国陸軍の一軍は。
この地――近隣諸国の一つである「ウォーシャ県連合」という国の、一つの地域に進入。
部隊、クリエールたちは。この地に展開配置しているとされるウォーシャ軍及び『同盟軍』を排除し、この地を占拠する任務を命じられていた。
向こうの光景に見える、登り燻る煙の数々から、さらに時折聞こえる銃砲火の音が伝える通り。すでにその緒戦は開始され、それから少なからずの時間が経過している。
そしてしかし戦闘の開始早々から、その戦いは帝国軍側に有利に進み。かつ手ごたえの無い他愛のないものに終始していた。
『同盟軍』が行い見せたのは。部隊ごとの連携も碌に取れず、あってもその場限りの散発的な抵抗のみ。
帝国側の放った完全体勢の各部隊を見るや、一目散に逃げ去る部隊も数々見られ。
はっきり言って愚かしくみすぼらしいまでの物であった。
地域の奥地に後退し、町村に誘い込み、市外戦に持ち込んでの延滞行動など。
何らかの企図を、姑息な手段を敵が考えている可能性ももちろん警戒しているが。
しかしここまで観測して来た同盟側の動きに装備状態。そして情報部から降りて来た、敵が備えている想定戦力を考えれば。
脅威度は大きめに見積もっても、帝国軍にとっては脅威足りえるものでは無く。これを撃ち破るに難くは無いと、考えて差し支えなかった。
彼女たちの鋼鉄の行進を前に、同盟軍が蹂躙される未来は変わらないであろう。
「杜撰な態勢だな」
そんな、目に見えて杜撰さを露呈している同盟側の様子を向こう見て。クリエールは少し冷たい色を顔に作り、そんな侮蔑混じりの声を零す。
「――くくっ。クリエール、貴様の登場を知り、奴らは慌てて逃げてしまったのではないかっ?」
「っ?」
そんな彼女に次に飛んで掛けられたのは、背後からの透る色での揶揄う声。
クリエールが振り向くと、レオンファーツ重戦車の砲塔の後ろ上に、その声の主の姿が見える。
砲塔に、背を見せつつ振り向く姿勢で座るは、一人の少女。
歳は16歳前後程に見える。
まず見えるは、艶やかな褐色の肌が映える凛とした顔立ち。そして肌色と反して、しかし美麗に顔を飾る白銀の長く美麗な髪。
少女の発育途中ながらも豊かな身体は、陸軍戦車兵のそれとはまた衣装の異なる、紺色の軍服が纏われ飾られている。
そしてそれ以上に目を引くは、しかしその白銀髪の頭に持つ立派な、一対の闘牛のような角。
そしてその背には漆黒の、巨大な蝙蝠のような一対の翼を持ち。後ろ腰からは同色の、太い蜥蜴のような尻尾が生えて揺れている。
その少女は爬虫類、いや『竜』だ。
この世界にて存在し、いくつかの属性に分かれ栄える『竜族』。その内でも上席を頂く『暗黒魔竜』の少女。
リヒュエル・フォン・ヒュトルグストゥス。
空軍大佐。
16程の少女に見える容姿外見だが。その実、齢1000歳以上。
暗黒魔竜の一族の姫であり。
容姿こそ可憐な美少女だが。猛々しい気性を持ち闘争を好み求める暗黒魔竜一族の、その頂点に立つに相応しい強大凶悪な力に強さを持つ。
そして今に砲塔上に座り見せる、優雅な姿にあるように。その性格は傲岸不遜、尊大さを隠す必要すら微塵も思わぬそれ。
そして、現在の一帯の上空には。
覆い尽くす勢いで、飛び交いないし滞空する。中小から巨大なものまでの、無数の竜人や竜族の姿が見えた。
それは帝国空軍、第7航空師団、竜戦士義勇連隊の竜兵たち。
そしてその全ては、リヒュエルが率い従える配下であった。
暗黒魔竜一族は、食客として帝国領地に住まう身の上である。
此度の拡大政策からの戦争には、その帝国への一応の義理と。武勲を上げ暗黒魔竜の威光を改めて世界に知らしめる目的から。
姫であるリヒュエルを御大将として義勇連隊を率いさせ、戦争に参陣したのであった。
「見た目こそ麗しいまでの貴様だが、戦場を駆ける姿は鬼か悪魔と見紛う程であるからなっ」
そんな暗黒魔竜の少女であり大佐、リヒュエルは。
またその可憐な容姿に反した仰々しい言葉使いで、だが悪戯っぽい笑みを浮かべて、そんな揶揄う言葉をクリエールへと紡ぐ。
リヒュエルは、クリエールとは古きより互いを知る友人同士であった。
もっとも1000歳以上のリヒュエルからすれば、300歳程度のクリエールはまだまだ小童と見ている節もあったが。
「リヒュエル……!」
そんな友人であるリヒュエルからの揶揄いの声に。
クリエールは少し困り、そして慌て恥じらう様相で声を返す。
「はは、大佐殿の言う通りかもですなっ」
「少佐殿の戦場での姿は、味方としては頼もしいですが、間違っても敵にしたくはない気迫でからね」
「流石、オーガに悪魔すらも逃げ出す程の軍神っ!」
しかしそんなリヒュエルの揶揄う言葉に同調する形で。
周り周囲から次々に飛び来た揶揄う声の数々
それは、クリエールの乗るレオンファーツ重戦車を戦闘中心に。左右に展開配置して止まる、戦車や突撃砲などなどの戦闘車両。それに乗るクリエール配下の兵たちからのものだ。
それぞれの車両の上に見えるは。人間に多種の獣人、ドワーフ、エルフ種などなどのいくつもの種族混成の戦車兵たち。
そのほとんどは若く幼い容姿に顔立ち。
実際。一部の隊長や車長クラスにはエルフなどの、見た目に反した長寿の者もいるが。多くは志願、ないし徴収された本当に若き兵たちだ。
急な拡大政策から人的資産の不足する帝国軍では、今や当たり前の光景であった。
「おまえたちぃ……人を猛獣の類か何かのように……っ!」
さておき。
そんな、友人の一声を筆頭とする、部下たち寄越され始めた揶揄い少し弄る言葉に。
クリエールはその美麗な顔をしかしやや赤らめ、そして少し不服そうに唸りながら。皆を睨みまわして威圧し叱る視線と言葉を向けた。
それに兵たちは皆、「やばっ」「いけねっ」と。悪戯のばれた子供のように、慌てるが悪びれてはいない反応を見せた。
「はははっ。誰もが恐れる戦女神さまの、貴重な可愛らしい一面を愉しめたなっ」
そしてリヒュエルに、その一種微笑ましい状況を締めくくる様に。また悪戯っぽい笑みで揶揄う言葉を投げかけた。
「はぁ、まったく……しかし――皆、臆してはいないようだなっ」
そんな友人に部下たちのおふざけに、さらには弄られてしまい。クリエールは「やれやれ」とため息まじりに言葉を零すが。
しかし次には、その顔をまた凛としたものへと戻し、部下の皆の姿に顔を見渡して。少しの笑みを今度は見せて、そう言葉を紡いだ。
「えぇっ、その通りですっ」
「士気は旺盛であります、少佐っ!」
「皆、少佐殿と華麗な突撃を描くべく、息巻いておりますっ!」
クリエールのその言葉に、主に若き兵たちを中心に配下の兵達は皆。その様相を凛としたものへと変え、意気揚々と各車から返答を返す。
若き兵達は。祖国に貢献し、武勲を立てようと。そして何より敬愛するクリエールと共に戦える事を意気込み。
隊長・車長クラスの長寿種を含む兵達も、落ち着いた様子ながらも。それに感化され、悪くはない高揚をその笑みに見せている。
若々しく、もしくは落ち着いた、様相は異なるそれぞれだが。そこに確かに一丸となり形となった、頼もしいまでの士気と闘志が伝わって来た。
「ふふ、頼もしいが……なんだかくすぐったいなっ」
そんな配下の兵たちのそれに、己を敬愛して信頼する旨を率直に返してくる皆に。
クリエールはそれを頼もしく思いながらも、同時にどこか気恥ずかしさを微かに覚えてしまい。
面映ゆそうな微笑を、その凛とした顔に作り零した。
「少佐、師団司令部より準備命令。間もなく開始です」
そこへ横に居た、青年軍曹のウェフェルが伝える言葉を寄越す。それか司令部から寄越された、作戦開始を伝える言葉。
そして次には、背後後方より、無数の劈く砲声が届いた。
味方の野戦砲、自走砲部隊による苛烈な事前砲撃の開始だ。
「っ……!――頼もしいまでの演奏だっ」
劈くそれで奏で、響き届けられたそれ。そして次には、向こうの光景に描かれた無数の着弾の煙に。
クリエールはそれを評し、それに感化されての己の心の昂ぶりを感じる。
「上空は任せておけ。これより、我と一族が主役となり舞う、優美な舞台として見せよう」
そして、その次に言葉を寄越したのはリヒュエル。
彼女は尊大さを隠さぬ色で、そんな約束の言葉を紡ぎ伝える。
「ふっ、頼んだぞ」
「楽しみにおくとよいっ」
そしてクリエールのニヒルに託す言葉を受けると。次には砲塔上より飛び立ち、配下の竜たちの布陣する上空へと舞い上がって行った。
「さぁみんな、準備はいいなっ?」
そしてクリエールは、自身の戦車大隊の皆に向けて、尋ねる声を張り上げる。
それに兵たちが揃って一様に返し、クリエールに集めるは。確かな闘志を宿した表情に視線。
「ふふ、では行くぞ……――戦車、前へっ!!」
そして。
クリエールは片手を突き出し翳し。高らかに透る凛とした声で、命じる言葉を響かせた。
それが鋼鉄の獅子、獣たちの。頼もしく恐ろしい、蹂躙劇の始まりであった――
次から自衛隊と主人公隊が登場です。