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竜に花を  作者: 沖津 奏
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09 白い花 3

 竜騎士団の仕事に、ルカは徐々に慣れていった。とはいえ、ほぼ雑用のようなものだ。エリックと一緒に、建物の掃除や武器の手入れをこなした。こういうことは、得意だった。ここには陰口を囁く者はいない。もちろん、好奇の目で見られることはあるけれど。

 合間に、副長ローガンはエリックとルカを巡回に連れ出した。最初は凶暴化した動物や、変異動物に逃げ惑っていたルカだったが、しばらくすると慣れていった。

 その日も、いつもどおりローガンの班で巡回をしていた。すると、一角のうさぎが出てきた。大きさは、普通のうさぎと変わらない。ただ、額に石のような角が生えている。


「お前ら、二人であれを始末しろ。たいして強くはなさそうだし、できるだろ。」


 ローガンが、ルカとエリックを見て言う。ええっ、と二人は同時に声をあげた。じゃあな、とローガンは他の者を連れて行ってしまった。取り残された二人は、目を見合わせる。

 そこから二人は、三時間ほど格闘した。なにしろ相手はすばしこい。エリックは治癒専門だったのをいいことに、力の応用の練習をしていなかった。ルカは、最近ようやく黒竜の力を引き出し、サイラスがやったような光の刃を作れるようになった。だが、まだまだだ。結局二人は、ほぼ素手でうさぎを捕まえたのだった。


「お前ら……。」


 申し訳なさそうに立つエリックとルカを見て、呆れたようにローガンが言う。エリックはもぞもぞ動くうさぎを抱き抱えていた。ローガンの横では、団長ノアが腹を抱えて笑っている。笑いすぎて、涙目だ。

 捕まえたうさぎを、エリックとルカは殺せなかった。特にエリックは、同胞みたいで嫌だと拒否した。ならばとルカがやろうとしたのだが、角以外は普通のうさぎであり、抱いたり撫でているうちに、彼にもできなくなってしまったのだ。相談した二人は、角をなくす方法を探すため、うさぎを飼うことを提案した。


「いいよいいよ、私が許そう。こんなの初めてじゃないか。貴重な研究資料にもなるよ。」


「正気か!いくらなんでも、危険だろう!」


 いらついたローガンが言う。ノアはそれも制した。


「責任は私がとるよ。エリック、ルカ、他の者に少しでも危害が及ぶようなら、私がそれを処分する。」


 重ねて礼を言い、二人は部屋に戻った。部屋の前には、駐屯地の掃除係として雇われた中年の女性がいた。親切にも、鉄でできた檻を用意している。


「餌は炊事場の人たちに頼みな。野菜クズがもらえるだろう。それと、部屋を汚すんじゃないよ。もし床にシミでもつけてごらん、あんたら、うさぎと一緒に外で寝泊まりしてもらうからね。」


 全然親切じゃなかった、とエリックが呟いた。ルカがくすっと笑う。その間にも、うさぎは鼻をひくひくさせていた。

 数日経つと、うさぎはすっかり竜騎士団に馴染んでいた。ルカとエリックの部屋に、他の団員が訪れる回数が増えた。また、うさぎへの好奇心からか、今まで寄りつかなかった他の部隊員も来ることがあった。本当に、角があること以外はただのペットのうさぎだ。

 その間にも、エリックとルカはうさぎを調べていた。


 ある日、エリックがうさぎを抱え、団長ノアのもとへ走っていった。後ろにはルカもいる。

 うさぎの角をなくすため、エリックとルカは仕事の合間を縫って研究していた。


「それで、分かったこととは?」


 ノアがうさぎと遊びながら尋ねる。エリックが資料を渡しながら伝えた。


「はい。実は、このうさぎの角は、何かしらの呪いのようなもので作られたのではないかと思います。以前倒した動物の死体も調べてみたのですが、変異動物も凶暴化したものも、いずれも人の手が加わったと考えています。」


 興味深そうにノアとローガンが資料を見る。ノアはおもしろそうに言った。


「呪いの類なら、エリックの力も効かないか。……動物たちがくるのは、いつもシュヴェールとの国境にある森の奥からだ。森も、王国の異変も、調べてみる価値はありそうだね。」



 それからというもの、巡回は森の奥まで行われた。相変わらず、変異動物や凶暴化した動物を見かける。手に負えないものは葬るしかできなかった。

 そんなとき、王都から使者が来た。男が三人いる。


「こちらに、黒竜がいると聞いた。」


 対峙するのは、ノアだ。彼は表情一つ崩さず、使者と向き合っている。


「なぜ、その身柄をこちらにすぐ引き渡さなかった。ましてや、竜騎士団に入れるなど、馬鹿げている。逮捕状もあるのだ、早くその者を渡しなさい。」


 使者が手を差し出す。

 物陰から見ていたルカは、さらにエリックの後ろに隠れた。

 ノアは沈黙した後、にこりと笑った。使者は驚いた顔をした。


「それはできません。」


 一瞬の空白の時間が流れる。なぜだ、と代表らしき男が言う。


「逮捕状なんて、偽造できますから。彼は竜騎士団の一員です。私には、私の配下を守る義務があります。彼は貴重な研究対象でもあります。それに、彼が黒竜だとして……なぜ、王都には病がはびこるのに、この駐屯地は無事なのでしょう?」


「貴様っ!黒竜発見の報告書を、わざと奴の竜騎士団配置要請の後に発したな!何を企んでいる、この若造が!」


 使者は遂に激昂した。ノアはいたって冷静だった。


「他意はありませんよ。報告書も配置替え申請も、同じ日に行っています。認可されたということは、何の問題もないということでしょう。まぁ、報告書がたまたま申請書とは別の荷に紛れて、到着が前後するということは、あるかもしれませんね。」


 使者は怒りで顔を真っ赤にしている。わなわなと震え、鼻息も荒い。


「若造、覚えておれよ。」


 はて、とノアは笑顔を作る。

 使者は何やら呟きながら帰っていった。


「あの、団長……。」


 申し訳なさそうにルカが進み出る。気にするな、とノアが言った。


「本当のことを言ったまでだよ。実際、この駐屯地に黒竜の厄災は降りかかっていないようだ。おかしいとは思わないかい。君は、王都や他の村を陥れてやろうと思ってはいないと言ったね。けれど厄災は起こった。なら、君が今いる北西駐屯地にも、厄災は起こっていいはずだ。なのに、それらしきものは、国境の森の異変だけだ。納得いかないよ。」


 副長ローガンがノアに歩み寄る。


「では、団長は、厄災の原因は他にあると?」


 確信はないけどね、とノアは笑う。

 とにかく、ここにいていいのだとノアは言った。ほっとしたルカが、その場にしゃがみこむ。


「団長が決めたことだ、私たちに何の異論もないさ。」


 ルカに手を差し伸べたのは、竜騎士団のベルーチェだ。綺麗な黄金色の髪を肩で揃えている。ベルーチェは、数少ない女性騎士だ。

 その手をとり、ルカははにかみ立ち上がった。

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