06 企み 2
黒竜を満足そうに眺め、サイラスは笑った。
「ほらぁ、ね?皆、騙されてたんだよ。かわいそうに。僕が厄災を打ち払ってあげよう。」
再びサイラスの周りに、円陣を描くように光の刃が集まる。神々しいまでの姿に、人々は圧倒された。
「これが、白竜の力か……。」
ノアが顔をしかめながら呟く。敵わない。竜騎士団が束になったとしても、白竜の力には敵わない。それが瞬時に分かった。
目にも止まらぬ速さで、光の刃がルカを目指す。ルカの硬い翼がそれをはじいた。サイラスは嬉しそうにした。
「厄災といえども、竜は竜か。僕も竜になって、君を払おうか。」
そう言うと、サイラスの体が光に包まれた。次の瞬間、空には白い竜がいた。滑らかな真珠のような鱗に、純白の爪。煌めく体は、光に当たると虹色に輝いた。神々しく美しい竜だった。
今の状況を忘れ、息を飲むほどだ。
次の瞬間、白竜が吠えた。咆哮は大気を震わせ、風になった。黒竜が目をつむり、後ずさった。消え入りそうなほど小さく唸る。
白竜がしなやかな尾を振り下ろした。黒竜の首筋に直撃する。白竜は振り下ろした尾を横に振り払おうとした。黒竜がその尾に噛み付く。
「あいつ、まさか俺たちを庇っているのか!」
竜騎士団副長ローガンが言う。周りの者が、驚いて黒竜を見る。
たしかに、黒竜がいなければ、白竜の尾は人々を叩き潰し、なぎ払っていただろう。
「やめろ!」
竜騎士団長ノアが叫ぶ。彼が右手を差し出すと、二匹の竜の周りを炎が囲んだ。白竜がノアをにらみつける。そして、鋭い爪でノアを叩き潰そうとした。
「団長!」
叫んだのは、副長ローガンだった。ノアを庇うように突き飛ばす。白竜の爪がローガンを地面に押さえつけた。地面がえぐれ、土埃の中、ローガンが倒れている。ローガンの名を、ノアが必死に叫んだ。ローガンが薄目を開ける。
「あーあ、ルカ。君のせいだよ。君が抵抗するから、関係ない人まで巻き添えになっちゃったね。」
人の姿に戻ったサイラスが、嘲るように言う。
「やめてくれよ……もう、やめてよ。」
絞りだすようにルカが言う。土にまみれて、ぼろぼろになっていた。
サイラスは笑顔のままだ。
「なら、やめよう。……ただし、お前を消してからな!」
サイラスが白竜となり、咆哮とともに光の刃を差し向けた。人がいるのも構わず、刃が飛ぶ。
人々が目をつむると同時に、眩い光が辺りを包んだ。光が収束すると、そこには白竜に背を向け、皆を庇うように翼を広げた黒竜がいた。
人の姿に戻ったルカは倒れ込んだ。
ルカの名を、リリーだけが呼んだ。
「何するんだよ……危ないだろ!」
初めて、ルカが怒鳴る。ルカの両目は潤んで、今にも涙がこぼれそうだった。サイラスは気に食わないようだった。
「リーデンの者、よく考えろ。僕なら厄災を打ち払える。僕に従い、国を明け渡せ。」
それだけ言うと、シュヴェールの兵を連れ、サイラスは立ち去った。
後に残された人は、束の間沈黙した。
すぐに、駐屯地の兵がルカを囲む。隣にいたリリーを阻み、倒れたままのルカに槍を向ける。
「やめて、怪我してるのよ!ルカ!」
リリーが手を伸ばすが、届かない。ルカは小さく肩を震わせ、泣いていた。うわずった声で呟く。
「ごめんね、リリー。ずっと嘘ついてて。ごめんね。」
ノアの指示で、兵がルカを立たせた。ルカはよろよろと立ち上がった。顔は地面を向いたままだ。後ろ手にされ、連れて行かれる。
誰にも見てほしくなかった。サイラスと比べて、なんと惨めなことか。黒い髪も、泥だらけの格好も、サイラスには何一つ敵わない。
兵に従い、ルカはおとなしく歩いて行った。
リリーだけが、立ち並ぶ兵の隙間からルカを呼んでいた。




