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竜に花を  作者: 沖津 奏
6/18

06 企み 2

 黒竜を満足そうに眺め、サイラスは笑った。


「ほらぁ、ね?皆、騙されてたんだよ。かわいそうに。僕が厄災を打ち払ってあげよう。」


 再びサイラスの周りに、円陣を描くように光の刃が集まる。神々しいまでの姿に、人々は圧倒された。


「これが、白竜の力か……。」


 ノアが顔をしかめながら呟く。敵わない。竜騎士団が束になったとしても、白竜の力には敵わない。それが瞬時に分かった。

 目にも止まらぬ速さで、光の刃がルカを目指す。ルカの硬い翼がそれをはじいた。サイラスは嬉しそうにした。


「厄災といえども、竜は竜か。僕も竜になって、君を払おうか。」


 そう言うと、サイラスの体が光に包まれた。次の瞬間、空には白い竜がいた。滑らかな真珠のような鱗に、純白の爪。煌めく体は、光に当たると虹色に輝いた。神々しく美しい竜だった。

 今の状況を忘れ、息を飲むほどだ。

 次の瞬間、白竜が吠えた。咆哮は大気を震わせ、風になった。黒竜が目をつむり、後ずさった。消え入りそうなほど小さく唸る。

 白竜がしなやかな尾を振り下ろした。黒竜の首筋に直撃する。白竜は振り下ろした尾を横に振り払おうとした。黒竜がその尾に噛み付く。


「あいつ、まさか俺たちを庇っているのか!」


 竜騎士団副長ローガンが言う。周りの者が、驚いて黒竜を見る。

 たしかに、黒竜がいなければ、白竜の尾は人々を叩き潰し、なぎ払っていただろう。


「やめろ!」


 竜騎士団長ノアが叫ぶ。彼が右手を差し出すと、二匹の竜の周りを炎が囲んだ。白竜がノアをにらみつける。そして、鋭い爪でノアを叩き潰そうとした。


「団長!」


 叫んだのは、副長ローガンだった。ノアを庇うように突き飛ばす。白竜の爪がローガンを地面に押さえつけた。地面がえぐれ、土埃の中、ローガンが倒れている。ローガンの名を、ノアが必死に叫んだ。ローガンが薄目を開ける。


「あーあ、ルカ。君のせいだよ。君が抵抗するから、関係ない人まで巻き添えになっちゃったね。」


 人の姿に戻ったサイラスが、嘲るように言う。


「やめてくれよ……もう、やめてよ。」


 絞りだすようにルカが言う。土にまみれて、ぼろぼろになっていた。

 サイラスは笑顔のままだ。


「なら、やめよう。……ただし、お前を消してからな!」


 サイラスが白竜となり、咆哮とともに光の刃を差し向けた。人がいるのも構わず、刃が飛ぶ。

 人々が目をつむると同時に、眩い光が辺りを包んだ。光が収束すると、そこには白竜に背を向け、皆を庇うように翼を広げた黒竜がいた。

 人の姿に戻ったルカは倒れ込んだ。

 ルカの名を、リリーだけが呼んだ。


「何するんだよ……危ないだろ!」


 初めて、ルカが怒鳴る。ルカの両目は潤んで、今にも涙がこぼれそうだった。サイラスは気に食わないようだった。


「リーデンの者、よく考えろ。僕なら厄災を打ち払える。僕に従い、国を明け渡せ。」


 それだけ言うと、シュヴェールの兵を連れ、サイラスは立ち去った。

 後に残された人は、束の間沈黙した。

 すぐに、駐屯地の兵がルカを囲む。隣にいたリリーを阻み、倒れたままのルカに槍を向ける。


「やめて、怪我してるのよ!ルカ!」


 リリーが手を伸ばすが、届かない。ルカは小さく肩を震わせ、泣いていた。うわずった声で呟く。


「ごめんね、リリー。ずっと嘘ついてて。ごめんね。」


 ノアの指示で、兵がルカを立たせた。ルカはよろよろと立ち上がった。顔は地面を向いたままだ。後ろ手にされ、連れて行かれる。

 誰にも見てほしくなかった。サイラスと比べて、なんと惨めなことか。黒い髪も、泥だらけの格好も、サイラスには何一つ敵わない。

 兵に従い、ルカはおとなしく歩いて行った。

 リリーだけが、立ち並ぶ兵の隙間からルカを呼んでいた。

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