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竜に花を  作者: 沖津 奏
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04 黒竜の少年 4

「驚かせたのなら、すまない。私は、この竜騎士団の長、ノア・ドーブルだ。」


 優しい声だった。


「竜騎士団に、何か用かな。」


 慌てて、リリーが兵站からの補給だと説明した。そうだったか、とノアが笑顔を作る。


「こちらは、副長のローガンだ。彼に案内させるから、物資は倉庫に運んでくれないか。」


 紹介とともに、青い髪の青年は会釈をした。笑顔は作らず、愛想はない。

 こっちだ、とローガンはついてくるように促した。


「君たちは、すぐに王都へ帰るのかな。」


 搬入を終えた頃、ノアが来た。いいえ、とルカたちの班長の男性が答える。北西駐屯地で余った物資を集め、王都へ持ち帰り、再度分配するのも仕事だ。支度をしていたら、出立は早くても二日後だ。


「ねぇ、君。」


 ノアが、まっすぐルカを見た。背中に冷や汗がにじむ。はい、と返事をする声が上ずった気がした。


「君は、何の力を持ってるのかな。」


 ノアの声は優しかった。しかし、顔は笑っていない。隣にいるローガンは、ルカを睨んでいる。


「僕は、能無しです。」


 ルカは答えた。なんとか平静を保つ。

 本当に、とノアが尋ねる。疑うような眼差しだ。それに答えたのはリリーだった。


「本当ですよ。私、幼馴染ですけど、ルカは……彼は、力がないんです。」


 そう、と言ったノアは、再び笑顔になっていた。踵を返して外へ向かう。ローガンもそれに続いた。

 ノアは小声でローガンに言った。


「本当に能無しだと思うか。」


 分かりません、とローガンが答える。


「私には、何の気配も感じとれません。団長は、何か感じるのですか。」


 ノアは少し考えた。


「いや、私の思い違いかもしれない。」


 そう言い残し、ノアは去っていった。

 ルカが、誰にも気づかないようため息をついた。危なかった。もしかして、気づかれたのではないだろうか。少なくとも二日はここにいなければいけないのに。

 もしも気づかれてしまったら、間違いなく捕まってしまう。最悪の場合、極刑だってありうる。黒竜とはそういうものだ。以前に現れた黒竜は、もう何百年前のことだったか。もはやお伽話に近い。その黒竜も、厄災の源として、結局は殺されてしまった。

 兵站部は、やっと見つけた居場所のようなものだった。ひっそり生きていこうと思っていたのに、やはり叶わないのだろうか。


 竜騎士団に戻ったノアは、ルカたちがいる倉庫の方を見た。

 一瞬だったが、竜の力を感じた。竜の力を持つ者は、お互いになんとなく分かるのだ。原因や原理は解明されていない。竜の力による第六感だというのが、もっぱらの噂だ。

 それを、ルカという少年から感じた。しかし、幼馴染も能無しだと言った。普通、獣の力は隠せるものではない。それは竜も同じだ。優秀な副長ローガンも、何も感じなかったという。

 本当に、ただの勘違いだろうか。

 彼らは、たしか国が保護を命じた子供たちだ。彼らの中に、黒竜がいるという神託だ。未だ見つからないところを見れば、顕現していないか、隠しているか。

 同じ竜種であるのに、ノアたちは崇められ、黒竜は忌むべき者だ。もし隠しているのなら、その人はどんな思いで生きているのか。


 北西駐屯地の余った物資を積み込み、ルカたちは出立の準備をしていた。到着してから、結局積み込むのに三日かかった。物資の整理と箱詰めをやり直し、帳簿に記載していたら、思いの外時間をとられた。

 出立にちょうどよい、晴れた日だ。もうだいぶ冷え込む。夜になると、雪が降る日もあった。

 そこに、ノアが来た。見送りに来てくれたようだ。ノアの赤い髪が風に揺れる。


「いつも助かっているよ。軍の中でも、竜騎士団は怖がられてしまっていてね。兵站部くらいしか関わろうとしてくれないんだ。良ければまた、君たちに来て欲しい。そのときには、ゆっくり王都の話でも聞かせてくれないかな。」


 もちろんです、とリリーが答える。ルカは、作り笑いをした。ノアには、できるだけ会いたくない。実はもう、ばれているのではないだろうか。


 王都に戻ると、異様な雰囲気を察した。なんだか、街の雰囲気が暗いのだ。どうしたのかしら、とリリーが呟く。心なしか、空までも霞んでいるように見えた。

 すぐに、それが流行り病のせいだと分かった。数年前から、リーデン王国の外れで流行りつつあった病が、一気に王都まで流れ着いたのだ。風邪のような咳が長引き、体の弱い者から倒れていった。

 何日かすると、今度は晴れることがなくなった。冬の間は曇りの日が増えるが、そんな雰囲気ではない。黒い雲が渦を巻くように王国を覆った。そして、草木も枯れ始めた。水は濁り、魚は腹を見せて浮いている。鳥は空を飛ばず、姿を消した。賑やかだった街は、固く扉を閉ざしている。

 これは、呪いである。そう神託があった。神託がなくとも、人々はそう思った。黒竜に違いない。誰からともなく、口をついて出た。見つけ次第、殺してしまえーーそんな言葉も聞こえるようになった。


「家族が心配だよねぇ。」


 リリーがルカに話しかけた。ルカが飛び上がる。そんなに驚かなくたって、とリリーが笑う。


「うん、父さん、大丈夫かなぁ。」


 ルカは、手元の帳簿と箱の中身を見ながら、リリーに答えた。父親のことは心配だ。病が王国を覆ってから、手紙のやり取りができていない。村でも病人が出たらしいが、詳しいことは分からない。

 それよりも、心配は己の身だった。もう、いっそ名乗り出てしまえばいいのではないだろうか。きっと、皆に恨まれる。殺されてしまう。けれど、楽にはなるだろう。

 黒竜であることを、もう何年も隠してきた。今まで何もなかったのに、今になってどうして。

 ルカは、毎日そればかり考えていた。しかし、言い出せないまま、日が過ぎていった。寝不足になり、リリーにも心配された。それでも、怖くて言えなかった。

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