表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜に花を  作者: 沖津 奏
2/18

02 黒竜の少年 2

 王都に隣国シュヴェール王国からの使節が到着して数日後のことだ。

 各領主を通じて、小さな村にも恩給が与えられた。主に食べ物や布などだ。ルカたちの村にも、保存のきく食べ物や、綺麗な布が届いた。村の広場に荷車ごと置かれ、皆が集まって見ている。

 ルカも見に行った。サイラスや取り巻きたちもいたが、皆、普段見ることのない豪華なレースや宝石に夢中で、ルカに気づいていない。

 皆が目を輝かせて眺めていたときだ。

 大勢の足音が聞こえ、皆がそちらを振り向いた。

 村の入り口には、豪奢な服を着た青年とともに、隣国の旗を掲げた軍人がいた。匂いも異国のものだ。

 誰もが押し黙る中、領主が飛び出してきた。サイラスの父親だ。


「これはこれは、シュヴェールの皆様。到着が分かれば、お迎えにあがりましたのに。」


 あからさまな揉み手をしながら礼をする。

 構いません、と片手で制したのは、シュヴェールの青年だ。


「一応、内密で参りました。もちろん、この国の王には了承をとっています。我らは、シュヴェール第一王子をお迎えにあがったのです。」


 皆がどよめく。領主だけは知っているようで、目が泳いでいた。


「王室の継承抗争が、第二王子と現王妃の父侯爵の病死で、一気に片付いたのです。」


 青年は目だけ動かし、群衆を見た。そして、迷いなく歩みを進め、片膝をついた。


「長らくお待たせいたしました。共にシュヴェールに帰りましょう、サイラス様。」


 サイラス自身、驚きで声が出ない。父上、と領主を振り返る。

 サイラスの力が白竜だと分かったのは、サイラスがここに来てからだ。白竜ほどの稀有な力を持つ者を、国が野放しにしているのも、本来あり得ないことだった。


「僕が、シュヴェールの第一王子?」


 サイラスが目を輝かせ、頬を紅潮させている。取り巻きたちが一斉に誉めそやした。

 青年は、すぐにでもサイラスを連れて帰りたいようだった。領主と話をすると、馬車や手荷物の支度を整える。

 ルカはその様子を驚いて見ていた。いつの間にか、隣にリリーがいた。見知らぬ大勢に怯えたのか、ルカの片袖を握っている。

 瞬く間に準備は整い、サイラスはシュヴェールの馬車に押し込まれた。馬車の窓からは、サイラスが顔を覗かせる。ふと、ルカと目が合った。サイラスがにやりと笑う。


「能無しが。今まで僕が話しかけてやったこと、ありがたく思うんだな。」


 ルカは思わず一歩下がった。横でリリーが舌を出している。慌ててリリーの前に立った。

 すぐにシュヴェール一行は、村を発った。一瞬の嵐のようだった。

 いつも、能無しといじめてきたサイラスがいなくなった。ほっとした。けれど、両手をあげて喜ぶほど嬉しいわけではなかった。なんとも言えない気持ちだった。


 数日後のことだ。よく晴れた中、村の広場に領主からの遣いがやって来た。

 大人たちが集まってくる。


「なんだぁ、最近さわがしいなぁ。」


 ある程度人が集まったところで、遣いの者が紙を広げた。そして、声を張り上げる。


「現国王からのご命令である。神託により、黒竜の力を持つ者が現れたことが分かった。その者は、今齢十二の者である。よって、十二歳になる者は、王都へ向かうこと。」


 群衆がざわついた。

 ルカは息を飲んだ。体に現れる黒い鱗は、成長とともに自分の意思で消すことができた。他人に見つかる心配はない。それでも、心臓が早鐘を打つ。手が震え、地面がぐらぐらと揺れているようだった。

 なぜ、この力は厄災なのだろう。なぜ、他の人みたいに人の役に立てないのだろう。この力は、誰のためのものなのだろう。

 遣いの者が言うには、黒竜の力は未だ明確には現れず、他の獣に似せて現れているかもしれないという。よって判明するまでは、十二歳の子供は皆、王立学院や地方の学院へ入れ、保護するという。

 リーデン王国では、神託によって政治を決めることがある。今回のことも、神託と言われれば皆が納得するものだった。


「まさかなぁ、黒竜だってよ。あんなの、噂でしかないと思ってたけどなぁ。」


 ルカの父が、夕食のスープを飲みながら言う。ルカは、びくっと肩を震わせた。父親は気づいていないようだ。父親は、十二になるルカが王立学院カーライル分院に入ることを心配した。

 大丈夫、とルカは震える声で、明るく笑った。そして、深呼吸をした。


「学院になんて、普通行けないよ。入学試験もなくて、身分も関係なく入れるんだよ。字の読み書きができたら仕事をもらえるし。授業料もいらないんだよ。それに、王立学院にいたってだけでも、仕事があるかもしれないんだから。」


 そこまで甘くねぇよ、と父親が笑う。そして、心配そうな顔をした。それを察してルカが言う。


「大丈夫だよ。能無しなんだから、何もないって。リリーも一緒だし。」


 不安を隠すように、ルカは早口になった。父親は、王立学院でもいじめられるのではないか、と心配している。

 けれど、もし誰かに見つかったら。

 スープが入ったカップを、ゆっくりとテーブルに置いた。

 そんなルカの頭を、父親はまた乱暴に撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ