14 シュヴェールの竜騎士 3
雪が舞い上がり、また落ちる。ネージュはとても嬉しそうだった。
「会いたかったよ。君だろ、サイラス王子が探してるやつって。」
まっすぐにルカを見つめる。
サイラスが、僕をーー。ルカは歯を食いしばった。サイラスは僕を倒すつもりだ。僕が倒れるまで、この争いは止められない。
「悪いが、この子を渡すわけにはいかないよ。竜騎士団の仲間だからね。」
ルカの横に並び立ち、ノアが言う。でもさぁ、とネージュが続ける。
「そいつ、厄災の黒竜なんでしょ?そのせいで、あんたらの国は困ってんじゃん。どうして庇うわけ?」
ネージュが腰の剣を抜く。
「ルカのせいじゃあないと思ってるからだよ。厄災は、きっと人為的に作られたものだ。心あたりはないかな?」
なーんだ、とネージュはつまらなそうにした。
「団長ー、リーデンのやつらにバレちゃってるよぉ。」
やはり、シュヴェール王国の仕業だった。
彼女が話しかける先には、赤毛の男がいた。深い雪の中を歩き辛そうにしている。エトワールという、シュヴェール竜騎士団長だ。
ほかにも、シュヴェール竜騎士団の騎士たちが追いついてきた。
「たった今、お前がバラしたんだ、ネージュ。くびり殺すぞ。」
えぇ、とネージュが言う。不服そうだ。
「どういうことか、教えてほしい。なぜ、我が国に害をなす。」
ノアが、剣の切先をエトワールの眉間に向けて尋ねる。
詳しくは知らない、とエトワールは答えた。
「神官どもがやっていることだ。」
悪く思うな、と呟くと同時に、エトワールはノアに斬りかかった。ノアがそれを受け止めるが、力の差がありすぎる。雪の中は吹っ飛んでいった。
それを皮切りに、両国の竜騎士団がぶつかり合う。
「ルカ、こっちだ!」
エリックに腕を引っ張られ、ルカは茂みに連れ込まれた。
「エリック、僕たちもやらないと!皆戦ってる!」
ばか言うな、とエリックは小声で叱った。
「俺たちみたいなの、一撃でやられちゃうぞ。俺は治癒しかないんだ。誰か怪我したら、お前がここまで連れてくるんだよ。」
彼の言う通りだった。それは、およそ人の戦い方ではなかった。他の獣では、こんな戦い方はできないだろう。
ネージュという騎士は雪の力を使うらしい。雪を固めた凍てつく剣を作り出し、ローガンに差し向けた。ローガンは己の前に水の壁を生み出し、それを受け止めた。
ベルーチェは雷撃を落としていく。ノアは剣に炎をまとわせ、雪を溶かしながら戦っていた。
一番激しく争っていたのが、ノアだった。騎士団長の首を狙い、猛攻撃をくらっている。
とてもこの中に入れない。ルカはそう思った。負傷者を助けにいくことすら危うい。
雪に足をとられて、ノアが体勢を崩した。ノアと対峙するのは、シュヴェール竜騎士団長のエトワールだ。隙を見逃さず、ノアの左肩に剣を突き立てた。ノアが歯を食いしばり、剣にまとわせた炎をさらに燃やした。エトワールは表情を崩さない。
「悪いな。私に炎は効かない。」
低い声でエトワールは言った。
みたいだな、とノアは笑いながら言う。余裕を見せようとしているが、痛みに顔が歪む。
エトワールが剣を抜くと、ノアは雪の上に倒れ伏した。
「ノア!」
離れたところから、ローガンが叫ぶ。駆け寄ろうとするが、間に合わない。エトワールが剣を構え、飛び掛かろうとしていた。
その時、大地を揺るがす咆哮とともに、黒い翼がノアを守った。シュヴェール竜騎士団がノアから離れる。
「厄災の黒竜!」
誰かが叫んだ。
黒竜が吠えている。鋼のような黒い鱗がノアを守る。
「引け!」
シュヴェール竜騎士団が一斉に後退する。団長どうして、とネージュが尋ねる。
「あれは我らでは相手できん!力で敵うものではない!」
彼は直感でそう思った。長年の竜騎士としての直感だ。それを否定すべきでないのも、経験で知っている。