Ⅸ.影を司る装置
広場の中心に鎮座する装置が、まるで町全体を支配しているかのように冷たく光を放っていた。周囲を取り囲む住民たちは、無表情で整然と動き続け、アルトたちの行く手を阻む。
「こいつら、本当に人間なのか?」
ライムが剣を構えながら低く唸るように言う。
「人間よ」
リリスが冷静に答えた。
「でも何かに操られてる」
「それは装置の影響です」
フェルナが断言する。
「あれが住民の行動を制御しています」
「なら、あれを止めればいいんだな!」
ライムが突進しようとした瞬間、フェルナが彼を制止した。
「無計画に近づくことは推奨されません。装置には防衛機能があります」
その言葉通り、装置の周囲に立つ住民たちは、アルトたちが動くたびに鋭敏に反応し、密集するように移動してきた。
「どうするんだよ、これ!」
アルトが苛立ちながら叫ぶと、リリスが笑いながら言った。
「ま、こういう時は突破口を探すしかないわね」
そう言って魔法を放つと、彼女が放った魔法の光弾は住民たちを傷つけることなく彼らの動きを阻害した。その隙にアルトたちは装置に近づき、観察を始めた。
装置は球形で、表面に無数の幾何学模様が刻まれている。時折それらが光を放ちながら複雑なパターンを描き、音を立てて動いている。
「これ……何か解読できるのか?」
アルトがフェルナに尋ねると、球体は短く答えた。
「これは制御コードです」
「制御コード?」
「この模様を正しい順序で操作することで装置を停止できます」
「解読が必要ってことか」
リリスが苦笑する。
「やっぱり簡単にはいかないのね」
模様を観察している間にも、装置の防衛機能が作動し始めた。周囲の住民たちが一斉に動き出し、アルトたちを取り囲む。
「ちょっと、時間がないんだけど!」
リリスが叫ぶ。
「俺がこいつらを引きつける!」
ライムが住民たちの群れに飛び込み、彼らの注意を引き始めた。
アルトは焦りながら模様を見つめる。
「どうやって解読すれば……」
その時、フェルナが静かに言った。
「この装置の模様は、星空の配置と一致しています」
「星空?」
アルトは昨夜見た幾何学的な星々を思い出した。あの不自然な配置が、ここで意味を持つというのか?
「星の記憶を思い出し、正しい順序で模様をなぞってください」
フェルナが指示する。
アルトは昨夜の星空を必死に思い出しながら模様をなぞり始めた。パターンを間違えるたびに装置が高音を発し、住民たちがさらに動きを活発化させる。
「早くしてくれ!」
ライムが住民たちを押し返しながら叫ぶ。
「わかってる!」
アルトは手汗を握りしめながら集中した。
やがて最後の模様をなぞった瞬間、装置が低い音を立てて停止し、住民たちの動きもピタリと止まった。広場には静寂が戻り、装置の光は消えた。
「これで……終わったのか?」
アルトが息を切らしながら呟くと、フェルナが即座に答えた。
「装置は停止しました。しかし、これが全てではありません」
「どういうことだよ」
アルトが問うと、フェルナは装置の中から取り出した小さな結晶を見せた。
「これはシステムの中枢データです。この町が制御されていた理由を解明する鍵となるでしょう」
「理由って……何のためにこんなことを?」
アルトの問いに、フェルナは答えなかった。
住民たちはゆっくりと正気を取り戻し、彼らを見つめる。目には明らかに困惑と感謝の色が浮かんでいる。
「ありがとう……」
震える声で老人が言うと、アルトたちは小さく頷いた。
「これからどうする?」
ライムが尋ねると、アルトは結晶を見つめながら答えた。
「次に進もう。この結晶の謎を解いて、創造主に近づくんだ」
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