Ⅷ.小さな町の大きな秘密
峡谷を抜けたアルトたちは、広々とした平野を進んだ先で、小さな町にたどり着いた。町は石造りの建物が規則正しく並び、道を歩く人々の姿にはどこか穏やかさが漂っている。
「これでやっとまともな町だな」
ライムが安堵したように言うと、リリスが不思議そうに呟いた。
「ねぇ、でもなんか変じゃない? あの人たち……」
アルトも町の通りを歩きながら違和感を覚えた。人々はみな笑顔を浮かべているが、その笑顔がどれも全く同じ形で、感情がないように見えたのだ。
「確かに……何だろう、これ」
アルトが立ち止まると、フェルナが前方を進みながら言った。
「この町には特定の異常が存在します」
「異常って何だよ。もう少し具体的に説明しろ」
アルトが詰め寄るが、フェルナはそれ以上は答えなかった。
町の中心にある広場で、一行は地元の人々に話を聞こうと試みた。広場には噴水があり、子どもたちが無邪気に遊んでいるように見える。だが、近づいてみると、彼らの笑い声にはどこか機械的な響きがあった。
「こんにちは、旅人さん」
声をかけてきたのは年配の男性だった。彼はにこやかに話しかけてくるが、その動きはまるでよくできた人形のようだ。
「こんにちは。この町に泊まれる宿を探しているんですが……」
アルトがそう言うと、男性はまるで用意された台詞のように答えた。
「それならば、町の入り口にある宿がお勧めです。きっとご満足いただけますよ」
アルトはその返事にまた違和感を覚えたが、男性の笑顔は崩れない。
その夜、アルトたちは町の宿に泊まることにした。宿の部屋は快適で、食事も申し分ないが、どこか奇妙な静けさが漂っていた。食堂にいる他の客たちも、皆同じような笑顔を浮かべ、無言で食事をしている。
「この町、本当におかしいわね」
リリスが小声で言った。
「みんなが同じ笑顔って……なんか背筋が寒くなる」
「俺も嫌な感じがする」
ライムが警戒するように言う。
「何かが起きてるな」
その時、フェルナが静かに言った。
「この町の住人は、全員システムによって管理されています」
「……どういう意味だ?」
アルトが問い詰めると、フェルナは簡潔に説明した。
「住人たちは、このエリアの一部として動作しています。感情や行動は制御されており、異常は発生していません」
「感情が制御……?どういうことだよ、それ」
アルトは頭を抱えた。
夜が更け、町全体が静まり返った頃、アルトはふと目を覚ました。窓の外を見ると、町の中央広場に人々が集まっているのが見える。彼らは全員が整然と並び、噴水のそばに立つ奇妙な装置に向かって動き始めていた。
「みんな、起きてくれ!」
アルトが仲間たちを揺り起こすと、ライムとリリスが眠そうな顔で起き上がった。
「何だ、騒がしいな……」
ライムが剣を手に取りながら窓の外を見て驚いた。
「何だあれは……」
三人とフェルナは宿を飛び出し、広場へと向かった。装置の周りには人々が整列し、その中心で装置が淡い光を放っている。
「侵入者を確認」
装置から機械音が響き、次の瞬間、町の人々が一斉にアルトたちに向かって歩き始めた。その動きは鈍いが、まるで一体となって行動しているかのようだった。
「これって……!」
アルトが叫ぶ。
「システムによる防衛行動です」
フェルナが冷静に答えた。
「装置を無力化する必要があります」
「それって簡単なことなのかよ」
アルトが言うと、リリスが魔法陣を描きながら笑った。
「簡単なことなんて、旅に出た時点で捨ててきたでしょ!」
人々を避けながら、装置に迫るアルトたち。果たして、この奇妙な町の秘密を解き明かすことができるのか――。
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