Ⅲ.不自然な星空
草原を進むアルトたちの足音が、風に揺れる草むらの音にかき消されていく。フェルナがぴょこぴょこと先を進みながら、何度も「ルートを再計算中です」と繰り返していた。
「お前、本当にそこに村があるんだろうな?」
ライムが苛立たしげに問いかけるが、フェルナはその問いには応えず、冷静な声で言った。
「この先に村が一つあります。このペースなら夜には到着します」
ライムはため息をついた。
「こいつ、妙に自信たっぷりだな」
リリスがくすくすと笑いながら言う。
「まぁ、こんな変な旅に付き合ってる私たちも似たようなもんよ」
アルトは、そんな二人のやり取りを聞きながら、フェルナの言葉にどこか違和感を覚えていた。それは、単にその小さな球体が話しているという奇妙さだけではない。フェルナの声には、どこか感情の欠けた無機質さと、絶対的な確信が同居しているように感じられた。
夜が訪れる頃、彼らは本当に村に到着した。村は小さく、わずか数軒の家が並ぶだけの静かな場所だ。村人たちは彼らを歓迎し、焚き火を囲んで話を聞かせてくれた。
「ここは旅人が滅多に来ない場所だが、最近、夜空に不思議なものが見えるようになったんだ」
村の年配の男性が語る言葉に、アルトたちは耳を傾けた。
「不思議なものって?」
アルトが尋ねると、男性は少し困惑した表情を浮かべる。
「星が……なぜか並びが変なんだ。まるで誰かが意図的に動かしているように見える」
その言葉にリリスが目を輝かせた。
「面白い! それ、本当?」
「まぁ……若い人にはそう見えないかもしれんが、わしの目にはどうも奇妙に映るんだよ」
アルトは空を見上げたが、その時は何も違和感を感じなかった。この男性の勘違いなのか、それとも何かもっと大きな意味があるのだろうか。
翌朝、アルトたちは村を出発する準備を整えた。村人たちに別れを告げ、再び草原を進み始める。フェルナが再び前方を進みながら、「次の目的地を計算中です」と言った。
「次の目的地って……お前、本当に何者なんだ?」
アルトが思わず尋ねたが、フェルナは短く答えただけだった。
「私は導き手です。それ以上の情報は必要ありません」
ライムが剣を担ぎながら苦笑する。
「あの球体、何か隠してるのは確かだな」
リリスも頷く。
「でも、案外こういうのって最後まで分からないままの方が面白いんじゃない?」
アルトは黙ってフェルナを見つめた。どこかに確信めいたものを持つその存在が、ただの「案内役」以上の何かであることを感じていたが、まだそれを確かめる術はなかった。
一行は次の目的地に向かいながら、草原の奥へと進んでいく。だが、ふとした瞬間、アルトはまたしても星空のことを思い出した。何かが――何かが彼らを試している。星々の不自然な動き、それを示唆する村人たちの言葉、そしてフェルナの冷静すぎる案内。
全てが繋がる日は、まだ遠い未来のことだった。
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