Ⅶ.回廊の中心
無限の回廊に足を踏み入れたアルトたちは、複雑に絡み合う通路と高低差のある迷宮の中を進んでいた。フェルナの解析に頼りながらも、予測不能な仕掛けと防衛機構に神経をすり減らしている。
「これ、本当に出口あるんだよな?」
アルトが剣を握りしめながらぼやく。
「進めば分かるわよ。焦ったら迷うだけよ」
「迷うって言うか、この場所自体が動いてるみたいなんだよな」
ライムが足元の光る模様を見つめながら低く呟いた。
「この施設には、通路の構造を定期的に変更する機能が組み込まれています」
フェルナが前方に浮かびながら説明する。
「これが創造主の作った“世界の調整システム”の一部です」
「“調整”ね……それが俺たちにはただの罠にしか見えないんだけど」
アルトは皮肉っぽく笑いながら進む。
回廊を進む一行が次の交差点に到達したとき、床の模様が突然明るく光り出した。壁から無数の光の槍が現れ、天井がゆっくりと降りてくる。
「またかよ!」
アルトが剣を構え、リリスが魔法陣を描き始める。
「エネルギー源を探してください。この部屋の仕掛けを停止させる装置があるはずです」
フェルナが冷静に指示を出す。
「装置を探せって言われても、どこにあるんだよ……!」
アルトが焦る中、ウサギがリリスの肩から飛び降り、床を駆け回り始めた。
「ちょ、何してるのよ?」
リリスが思わず声を上げる。
ウサギは部屋の片隅にある小さな模様の上で立ち止まり、そこを前足で叩いている。
「おい、あいつ……まさか!」
アルトが駆け寄ると、その場所には丸いくぼみがあり、模様が断片に似た形をしていた。
「アルト、断片よ!」
リリスが叫び、アルトは慌てて断片を取り出してそのくぼみに差し込んだ。
断片が光ると同時に、部屋全体が静寂に包まれた。天井は元の高さに戻り、光の槍も消えていく。
「まさか、ウサギが装置を見つけるなんてな……」
アルトが驚きながら断片を取り外した。
「この子、やっぱりただのウサギじゃないのかもね」
リリスは肩に戻ってきたウサギを撫でながら微笑む。
「いや、偶然だろ。ただの気まぐれだ」
ライムが苦々しい顔で言うが、フェルナは少し間を置いて静かに告げた。
「このウサギには、魔法エネルギーを感知する特殊な能力がある可能性があります。先ほどの行動は単なる偶然ではないかもしれません」
「……何だよそれ」
アルトが苦笑いする。
「どんだけ謎の多い生き物なんだ」
一行が次のエリアに向かうと、道が突然分岐し、壁面が揺れ始めた。光る模様が再び明るくなり、迷宮全体が生きているように動き出す。
「次は何だ?」
アルトが剣を抜く。
「この施設の中心部に到達するには、空間の変化に対応しながら進む必要があります」
フェルナが淡々と告げる。
「簡単に言うけど、それどうやんだよ!」
アルトが叫ぶと、リリスがふと微笑んだ。
「案外、この子がまた教えてくれるかもよ」
肩のウサギが耳をピクピクさせながら前方を見つめる。まるで通路のどちらに進むべきかを示しているようだった。
「本当にそうだったら大したもんだが……」
アルトはウサギを見ながら、少しだけ真剣な顔になった。
一行が進む先には、さらなる試練と謎が待っている。ウサギの行動が偶然か、それとも意図されたものなのか――その真相はまだ誰も知らない。
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