Ⅱ.旅立ちの条件
朝の薄明かりが差し込む部屋で、アルトは目を覚ました。昨夜の出来事が夢か現実かわからず、ぼんやりと天井を見つめる。だが、机の上に置かれた禁術書がその疑問に答えを出していた。確かに、昨夜のあの光も謎の声も現実だった。
アルトは恐る恐る本を開く。昨夜は白紙だったページに、新たな文字が浮かび上がっていた。
『この書を持つ者よ、私を探しに来るがいい。もし、試練を受ける覚悟があるならば』
「試練だって? 急にハードル高くないか?」
苦笑しながらページをめくると、続きが書かれていた。
『ひとりでは到達できぬ。仲間を集めよ。旅路の先に、導き手が現れるだろう』
「仲間って……どうやって?」
アルトは頭を抱えた。友達と呼べる存在もいない彼にとって、仲間を集めるのは簡単な話ではなかった。だが、本を閉じたとき、机の端に置かれていた小さな金属球が突然震え始めた。
金属球は、アルトが魔法学校の実験で作り出した失敗作――魔法補助装置だった。普段はほとんど動かないその球体が、今はまるで意思を持つかのように震えている。
「お、おい、大丈夫か?」
アルトが球体をつかむと、球体は高い音で話し始めた。
「おはようございます、マスター。私はフェルナ。導き手として登録されました」
「……は?」
アルトは思わず球体を落としそうになった。普段は無反応だった装置が、突然話し出すなんて想像もしていなかった。
「あなたの目標は『創造主を探すこと』と記録されました。これよりサポートを開始します」
「え、ちょっと待て! 勝手にそんな目標設定するな!」
「目標設定は禁術書によって自動的に行われました」
「おいおい……」
アルトは唖然としながらも、この小さな球体――フェルナがどこか頼もしく見えてきた。
フェルナの案内で、アルトはまず仲間を探すことにした。フェルナによると、近くの酒場に「可能性の高い人材」が集まっているという。導き手を名乗る球体に半信半疑ながらも、アルトは酒場へと足を運んだ。
酒場にはさまざまな人々が集まり、賑やかな喧騒が広がっていた。アルトが戸惑いながら周囲を見渡すと、一際目立つ二人が目に留まる。一人は筋骨隆々の剣士、もう一人は奇妙な術式を描き続ける魔法使いの女性だった。
「えっと、あの……」
アルトが恐る恐る声をかけると、剣士が鋭い目を向けてきた。
「なんだ、小僧?」
「い、一緒に冒険に行かないか?」
剣士はアルトの言葉に一瞬きょとんとしたが、すぐに鼻で笑った。
「冒険? どこにだ?」
「創造主を探しに行くんだ」
「創造主だと? くだらない伝説に付き合う気はない」
剣士は呆れたように背を向けたが、横にいた女性が興味深そうにアルトを見つめた。
「その話、本当? 創造主って世界の秘密に関係あるの?」
「え、まあ……そういう話が禁術書に書いてあったんだけど……」
女性は嬉々としてアルトに近づき、「面白そうね!」と笑った。
アルトはこうして仲間を増やし始めたが、剣士はまだ渋っている。フェルナが横から口を挟む。
「剣士ライム様、同行することであなたの信念に一致する結果が得られる確率は73.6%です」
「何だそりゃ」
「要するに、行った方が得するってことよ」
女性が笑いながらそう言うと、ライムは面倒そうにため息をつき、「わかったよ」と渋々承諾した。
こうして、アルト、フェルナ、ライム、そして女性――リリスの奇妙な一行が結成された。旅の第一歩を踏み出した彼らを待つのは、予測不能な冒険だった。
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