Ⅻ.星の記録
塔の内部は、外観からは想像もつかないほど静寂に包まれていた。薄暗い階段を上りながら、アルトたちは慎重に周囲を観察していた。壁一面に彫られた星々の彫刻は、どれも異様な正確さを持っている。
「これ、ただの装飾ってわけじゃなさそうね」
リリスが彫刻を指でなぞりながら呟く。
「星空の動き……いや、何かのコード?」
「また解読が必要なのかよ」
アルトがうんざりしたように呟くと、フェルナが静かに言った。
「この彫刻には情報が埋め込まれています。重要なデータを確認するためにアクセスする必要があります」
「お前、また“データ”とか言うけど、俺たちにはそれが何なのか全然わからないんだぞ」
アルトが苛立ち気味に言うと、フェルナは少しの間を置いて答えた。
「情報は解析可能です。ただし、時間が必要です」
「時間ってどれくらい?」
リリスが好奇心を抑えきれない様子で尋ねると、フェルナは短く答えた。
「状況によります」
「結局それか」
アルトが頭を抱えた。
階段を上り切ると、開けた広間にたどり着いた。広間の中央には巨大な装置が据えられており、その周囲には複雑な模様が描かれたパネルが並んでいる。装置全体が微かな光を放ち、かすかに低い振動音が聞こえる。
「これ、古代の魔法装置?」
リリスが装置を見上げながら感嘆の声を上げる。
「すごいわね。これほど大きなもの、今の技術じゃ作れないんじゃない?」
「どうやって使うんだ?」
ライムが剣を腰に収めながら尋ねると、フェルナが前に進み出た。
「この装置は、星々のデータを記録し、分析するためのものです。結晶を挿入することで、情報が解読されます」
「なんだって?」
アルトが目を見開いた。
「じゃあ、この結晶をここに入れれば……!」
フェルナが頷く。首は無いが。
「はい。ただし、装置が完全に動作するかは不明です」
「そんなの、やってみなきゃわからないだろ」
アルトは結晶を手に持ち、装置の挿入口に慎重に差し込んだ。
結晶が挿入された瞬間、装置全体が大きく震え、光が強くなった。広間に響く低音が次第に高まり、壁面の彫刻がまるで動き出すかのように輝き始めた。
「これって……!」
リリスが驚きの声を上げる。
天井に投影された光が星空のように広がり、その星々が幾何学的なパターンを描き出していく。次第に、そのパターンが複雑な文字列や図形に変化し、広間全体を覆うようになった。
「このデータは……」
フェルナが光を見つめながら言った。
「この世界が形成された際の記録です」
「記録?」
アルトが尋ねる。
「世界のデザイン、法則、そして創造主に関する情報が含まれています」
フェルナの声にはいつも以上に冷静さが感じられた。
アルトたちはしばらくその光景を見つめていたが、突然、装置が大きな音を立てて停止した。その瞬間、広間全体が暗闇に包まれる。
「おい、何が起きたんだ!」
アルトが叫ぶ。
フェルナの声が冷静に響いた。
「エラーが発生しました。データが完全ではありません」
「どういうことだよ!」
アルトが苛立ちを隠せない様子で言うと、フェルナは再び答えた。
「次のデータ収集ポイントが必要です。この装置では全ての情報を解読することはできません」
「次のポイント……まだ先があるのか」
アルトはため息をつきながらも、結晶を取り出してポケットにしまった。
広間を後にしようとする一行に、フェルナが静かに言った。
「次の目的地を提示します。次は、『創造の断片』が眠る場所に向かう必要があります」
「創造の断片?」
リリスが興味津々に尋ねると、フェルナは答えた。
「創造主がこの世界を設計した際に使用した基盤データの一部です」
「つまり、それを集めれば……?」
アルトが問うと、フェルナは短く答えた。
「創造主に近づく鍵となります」
基本毎日投稿
楽しんでくれればそれで良し
メリークリスマス