Ⅺ.星見の塔の入口
険しい山道を進むアルトたちの前に、ようやく星見の塔がその全貌を現した。それは、白い石で作られた高い円柱状の建物で、表面には複雑な模様が刻まれている。その頂上は雲に隠れ、どこまで高いのかさえ見当がつかない。
「これが星見の塔……」
アルトが感嘆の声を漏らすと、リリスがにやりと笑った。
「凄いでしょ? 塔ってだけでワクワクするのに、これほど立派だと余計にね」
「俺はむしろ嫌な予感しかしない」
ライムが剣を握り直しながら険しい顔をする。
「どうせまた何か仕掛けがあるんだろう」
「仕掛けって何だよ」
アルトが苦笑すると、ライムは深くため息をついた。
「例えば、あの門のことだ」
彼の指さす先には、塔の入口となる巨大な門があった。門は頑丈そうな石でできており、中央には謎めいた文様が輝いている。その周囲には、何かが刻まれた円盤状のパネルが浮かび上がっていた。
フェルナが門に近づき、短い音声を発した。
「解析を開始します」
アルトがため息をついて言った。
「またそれかよ。お前、いつも“解析”ばっかりだな」
「役割を遂行するためです」
フェルナが淡々と答える。
リリスがパネルを覗き込みながら、軽い調子で言った。
「ねぇ、これ、なんか順番があるみたいね。ほら、模様が少しずつ違う」
アルトもパネルに目を凝らすと、確かにそれぞれの模様が微妙に異なっていることに気づいた。
「どういう順番で触ればいいんだ?」
「模様の順序は星空に基づいています」
フェルナが即座に答えた。
「正しい順序で操作することで門が開きます」
「また星空か!」
アルトが頭を抱えると、リリスが笑いながら肩を叩いた。
「ほら、昨夜の星空を見たのが役に立つわよ」
一行は星空の配置を思い出しながら、パネルの順序を慎重に考え始めた。リリスがあれこれと推測を繰り返し、ライムは腕を組んで口を挟む。
「だから、その模様は最後だろ」
「どうしてよ?」
リリスが不満そうに問い返すと、ライムが短く答えた。
「直感だ」
「直感!? こんな重要な場面で頼りになると思ってるの?」
リリスが呆れた声を上げるが、ライムは眉一つ動かさずに模様を指す。
「じゃあ、お前の根拠は?」
「うーん……」
リリスが言葉に詰まった瞬間、アルトが割って入る。
「ちょっと待って、ケンカするのは後にしてくれ!」
結局、アルトが二人の意見を調整しながら順番を決め、模様に触れることにした。最初の模様に触れると、低い音が響き、次の模様が光を放つ。緊張の中、次々と模様を触れていくと――。
最後の模様に触れた瞬間、大きな振動が塔全体を揺らした。そして、門がゆっくりと開き、中から冷たい空気が流れ出した。
「よし、やった!」
アルトが叫ぶと、リリスが嬉しそうに拳を突き上げた。
「ほらね! やっぱり私たちの知恵でいけたじゃない!」
「俺の直感も役立っただろうが」
ライムがぼそっと言う。
アルトは苦笑しながらフェルナを見た。
「お前、もう少しヒントを出してくれたっていいんだぞ」
「必要に応じて情報を提供しました」
フェルナの声はいつも通り冷静だった。
塔の中は薄暗く、石造りの階段が螺旋状に続いている。壁には星々を描いたと思われる古い彫刻が並び、その中には妙に幾何学的な模様も混ざっていた。
「ここからが本番ね」
リリスが足元を確かめながら階段を登る。
「お前、本当に楽しんでるよな」
アルトが呆れながら言うと、リリスは振り返ってにっこり笑った。
「だって、こういう冒険って最高でしょ?」
「お前がその調子でいられるなら、俺たちも気が楽だ」
ライムが小さく笑い、アルトもそれに頷いた。
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楽しんでくれればそれで良し
メリークリスマスイブ