Ⅹ.星々の記憶
装置から取り出した結晶を手に、アルトたちは小高い丘の上に立っていた。町を見下ろすと、広場では住民たちが少しずつ元の生活に戻りつつある様子が見える。
「この結晶、本当に何が分かるんだ?」
アルトがフェルナに尋ねると、球体は淡々と答えた。
「この結晶には、制御プログラムの一部と、このエリアに関する情報が記録されています」
「プログラム……?」
アルトがその言葉に眉をひそめると、リリスが笑った。
「ほら、また意味不明な話が出たわね。でも面白そう」
ライムは剣を肩に担ぎながら深くため息をついた。
「面白がってる場合じゃないだろ。俺たちは次に何をすればいいんだ?」
「この結晶を解析する必要があります」
フェルナが即座に答える。
「解析のためには、特定の設備が必要です」
「設備って、どこにあるんだ?」
アルトが問い詰めると、フェルナが丘の向こうを指すように少し前進した。
「次の目的地は、星見の塔です」
星見の塔は、遥か遠くの山々の中腹にあるとされる古代の建造物だった。その場所には、星々の動きを観測するための装置が残されているという伝説があり、魔法使いの間では一種の聖地とされていた。
「星見の塔か……。なんか凄そうな名前だな」
アルトが呟くと、リリスが嬉しそうに頷いた。
「そうね!塔って言うだけでロマンがあるもの!」
ライムは険しい顔で地図を広げて指摘した。
「ここから塔までは、数日の道のりだな。しかも途中には険しい山道がある」
「まぁ、険しいのはいつものことだろ」
アルトが軽く笑って言うが、ライムの顔は険しいままだった。
「道中に何が出てくるかわからないんだぞ」
「それでも行くしかないだろ」
アルトが真剣な表情で言うと、ライムは少しだけ微笑んだ。
道中、パーティーは様々な風景を見ながら旅を続けた。草原の中を流れる清流、山々に囲まれた静かな湖――どれも息を呑むほど美しい光景だった。
「ねぇ、あの星見の塔って、どうしてそんなに重要なの?」
アルトがフェルナに尋ねると、球体はしばらく沈黙してから答えた。
「星見の塔には、この世界の法則に関する情報が保管されています。それを解読することで、創造主に近づくための重要な手がかりが得られるでしょう」
「この世界の法則って……具体的に何なんだよ?」
「それは解析が完了してから説明します」
「またそれか」
アルトが呆れると、リリスが笑った。
「あんたも懲りないわね。でも、その“法則”って言葉、ちょっと気になる」
「どういう意味だ?」
ライムが尋ねると、リリスは指を顎に当てて考え込んだ。
「だって、法則って普通は自然なものよね。でもフェルナが言うと、何か人為的に作られた感じがする」
その言葉に、アルトも何か引っかかるものを感じた。
夜が訪れ、パーティーは焚き火を囲みながら休息を取ることにした。星空を見上げると、そこには再び昨夜と同じ幾何学的な配置の星々が輝いている。
「やっぱり、星が変だよな」
アルトが呟くと、リリスが頷いた。
「普通の星空じゃない。何か意味があるはず」
「星空が意味を持つなんて、普通は考えないけどな」
ライムが皮肉交じりに言った。フェルナが静かに言った。
「星々の配置は、この世界のデザインに関する情報を反映しています」
「デザイン……?それって、まさか誰かが作ったってこと?」
アルトが驚いて尋ねると、フェルナは短く答えた。
「それは推測に過ぎません」
その曖昧な答えに、アルトは少しイラつきながらも考え込んだ。星見の塔にたどり着けば、何かが分かるのだろうか。
翌朝、パーティーは再び旅を続けた。山道に差し掛かると、道は険しくなり、次第に風も冷たくなっていった。その先に待つのは、彼らがこれまで以上に困難な試練に挑む場――星見の塔だった。
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