表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/116

Ⅰ.禁術書は笑う

 夜の帳が降りた魔法都市ルミナリエ。石畳の道を照らす街灯がぼんやりと青白い光を放つ中、ひときわ古びた書店の扉がきしむ音を立てて開いた。

 店内から現れたのは、小柄な青年。魔法学校の制服を身にまとい、肩に掛けた鞄から分厚い古書がはみ出している。


 青年の名はアルト。魔法使い見習いの彼は、先輩たちから「どうせ魔法の才能なんてないんだから、普通の商人にでもなればいい」とからかわれる日々を送っていた。しかし彼には、どんなに無謀だと笑われようと捨てられない夢があった。それは「この世界の秘密を解き明かすこと」。


「……禁術書かぁ」


 手にした古書のタイトルは、擦り切れた表紙にわずかに残る金の文字で「創造の書」とだけ記されている。その表紙には、でかでかと警告文が刻まれていた。


『読むべからず。開けるべからず。触れるべからず』

「いや、触った瞬間もうアウトじゃん!」


 アルトは一人突っ込みを入れつつも、どうしてもその中身が気になってしまう。


 店主から「絶対に開くなよ」と念を押されたばかりだが、開けるなと言われて素直に守るような性格ではない。好奇心に突き動かされるまま、彼は宿へと急いだ。


 アルトの狭い部屋には、机とベッド、そして積み重なった魔法書があるのみ。いつもの場所に腰を下ろし、手にした禁術書をまじまじと見つめる。


「創造の書……なんでこんなものが今まで誰にも発見されなかったんだろう。」


 ページをめくる手が、彼の胸を躍らせる。最初のページに現れた文字はこうだった。


『私は創造主。私の手でこの世界は形作られた』

「創造主……だと?」


 アルトは眉をひそめた。神話では確かに「創造主」という存在が語られているが、それは伝説上の話だ。だが、この文章はまるで、書き手自身が「その存在」であるかのように語っている。


 さらに読み進めると、そこには信じがたい文言が並んでいた。


『この世界の法則は、私によって書かれた』

『すべての魔法は、法則の一部である』

「……法則?」


 アルトの頭の中は混乱していた。まるでこの本が、「魔法が単なる奇跡ではなく、理論に基づくものだ」と主張しているように見えたのだ。


 そして最後に、ページの下部に奇妙な一文が記されていた。


『これを読んだ者よ、私を探しに来るがいい。私は眠りの果てに待つ』


 アルトはその場で立ち上がった。胸の高鳴りを抑えられない。


「これは……伝説の創造主が本当に存在する証拠かもしれない!」


 次の瞬間、禁術書の表面がまばゆい光を放ち始めた。アルトは慌てて本を閉じようとしたが、間に合わない。光の渦が部屋中を包み込む。


「これが、お前を呼び寄せた理由だ」


 どこからともなく低く響く声が聞こえた。それは威厳に満ちているが、なぜか少し機械的な響きがある。


 アルトは思わず叫んだ。


「誰だ!? ここにいるのか!?」


 返事はない。ただ、光の中で浮かび上がった文字が彼にだけ見えていた。


『旅が始まる』


これがアルトの冒険の始まりだった。

基本毎日投稿


楽しんで読んでくれればそれで良し。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ