地下牢
「紆余曲折ありましたが、僕が人類代表ということでよろしいでしょうか」
「「「「異議なし」」」」
「くっ!異議…なし!」
「それでは【魔王】カルラとの不可侵条約を結ばせて頂きます。カルラいいね?」
「ええ、今後妾達は魔界に引きこもることにしよう」
カルラが赤い瞳を伏せてそう答えた。カルラと海斗が正面に向かい合う。お互い視線を絡ませながら一歩ずつ近づいていく。二人が右手を突き出し、相手の手をしっかりと掴んで握手した。
「へへっ」
「ふふっ」
水帝が鬼の形相でそれをカメラに抑えた。写真は若い二人が微笑み合いながら種族を超えて握手する素晴らしい写真になった。水帝は下唇を噛みながら唱える。
「これは【新聞王】に売るため、これは【新聞王】に売るため」
人類と魔族の初めての友好的な会談に、国王と勇者以外から自然と拍手が巻き起こる。
「それでは、皆さん。今回初めての五大国会議は以上とさせて頂きます。お時間頂き誠にありがとうございました」
五大国の王達は次々に退出していった。残されたのは空白を映し出すスクリーンと魔王に勇者、聖女と国王に海斗だけとなった。
「貴様ぁ!小林海斗ぉ!」
国王が足音を響かせながら、海斗に詰め寄る。
「貴様は国王であるワシを置いてよくも好き勝手に発言してくれたな!」
姫が国王と海斗の間に割り込む。
「ですが、結果として人類初の魔族との不可侵条約を結べたじゃありませんか、父上!」
国王が姫を振り払う。
「キャ!」
姫が床に倒れた。海斗はすぐに姫の側による。
「大丈夫ですか?姫君」
「え、ええ、海斗様。ありがとう」
姫の頬がうっすらとピンク色に染まる。水帝は血走った目で海斗を睨む。誰にも聞こえないくらいの音量で水帝は呪詛を唱える。
「この男、いつの間に姫様に手を出したのかしら。滅滅滅」
海斗は姫を起こすと毅然とした態度で言い放った。
「僕はこの国がよくなるであろうことをしたまでです」
「ふ、不敬罪だぁ!」
後ろから【勇者】東堂春樹が急に声を張り上げた。【聖女】フレシアが必死に春樹を抑えようとする。
「もう春樹さんは黙っててください!」
「うるさい!フレシア!あいつさえいなければ、俺のパーティーが馬鹿にされることなんてなかったんだ!」
フレシアに抑えられながら春樹はジタバタと暴れる。国王は春樹の発言を聞いて、ニヤリと醜悪に顔を歪ませた。
「小林海斗。貴様の数々の無礼によって国王の威厳を損ねた。よって貴様は万死に値する。近衛兵!こやつを地下牢へ運べ!」
「し、しかし、国王様!海斗殿は一昨年のゴフリンキングによるモンスターパレードを防いだ立役者ですよ...」
「そうです!私も妻と子供をあの災害で海斗殿に救われました!そんな恩人を地下牢になんてできません!」
「うるさい、うるさい!貴様らも口答えするなら極刑に処すぞ!」
近衛兵達は言葉を呑んだ。各々が顔を見合わせて、何かを小声で話し合った。近衛兵達は互いに頷き合うと、国王に向かって集団で歩いていった。
「なっ、なんだ、貴様ら」
「国王様、私たちはこれからクーーー」
海斗は嫌な予感がして声を張り上げた。
「国王様!すべての責任は僕にあります!この者どもの罪は僕が背負い、処刑されます!それでよろしいですか?」
「なっ!海斗殿、なにをおっしゃるんですか?」
近衛兵達は動きを止めた。海斗はほっと一息をつく。
「そうじゃ!貴様は三日後に処刑じゃ!それですべての罪を不問にしよう」
「よっしゃあ!海斗、ざまぁみろ!【荷物持ち】のくせに調子に乗るからだ!」
【聖女】フレシアが汚らわしい者を見る目で春樹を見つめる。フレシアは怒りで声を震わせながら言った。
「あなた、これから元パーティーメンバーが処刑されるというのに、なんですかその痴態は」
「え?フレシア、何を怒っているんだい?」
フレシアが激昂して、春樹に告げる。
「私もとうとう堪忍袋の緒が切れました!あなたのことは見損ないました!もう会うことはないでしょう!さようなら!」
フレシアは怒り心頭のまま扉を押して開き、王城から去っていった。海斗は申し訳なさそうな顔をした近衛兵によって地下牢に押し込められた。
【水帝】ウェンズデイが檻越しに海斗に告げる。
「ねぇ、今から私がこの檻壊そうか?そしたら二人でこの国を出よう?」
【魔王】カルラがウェンズデイの頭をぽかりと殴る。
「ちょっと、どさくさに紛れて駆け落ちしようとしてんじゃないよ!」
「五月蝿いわね!この魔王!このままだと海斗死んじゃうかもしれないんだよ!?」
ウェンズデイが瞳に涙を滲ませながら、カルラに訴える。カルラは腕を組んで堂々とした態度で答える。
「妾が好きになった男はこの程度で死なないよ」
「え?」
「ちょっとあなた!どさくさに紛れて告白してんじゃないわよ!」
海斗は顔を真っ赤にして慌てふためく。
(確かに、一緒に寝るのは変だと思ってたけど、いつから僕なんかを好きになったんだ)
カルラが自分の発言を思い返して、耳まで顔を真っ赤にした。
「あ、あのこれは、その違くて、あっ、違わないんだけど、魔族の習性的に群れのリーダーを好むと言うか、何というか」
カルラは両手を胸の前で振って、慌てて弁明しようとするが、言葉になっていない。
「このチョロインがぁ!」
ウェンズデイが青筋をたてながら拳を突き上げる。カルラはそのまま走って王城を去っていった。
ウェンズデイは息を整える。そして海斗に改めて質問した。
「でも、海斗。本当にこのままでいいの?」
「みんながこのままでいいならね」
海斗はそう言ってイジワルに笑った。
「まさか、あなた最初からそのつもりで、捕まったわけ?」
「さあ、どうかな。何はともあれ僕は自重しないって決めたんだ。後はみんなに任せるよ」
ウェンズデイは額に手を当てて困ったように嘆息した。ウェンズデイは思わず呟いた。
「まったく、あなたって人は本当に私のタイプね」
「え?」
「あっ!な、なんでもないわ!」
「いや、でも今僕のことタイプって」
「言ってない、言ってない」
ウェンズデイは両手をブンブン振って否定する。
「じゃ、じゃあそういうことだから!」
そう言ってウェンズデイも王城を去っていった。海斗はウェンズデイの発言にひとしきり悩んだ。その後海斗は誰もいなくなった牢屋でひとりごちる。
「あーあ。今度こそ本当に死ぬかもな。でも僕は信じてる。みんなの力を」
海斗は地下牢の奥で不敵に笑った。
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