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五大国会議

 海斗はアイテムボックスの中から出てきた。アイテムボックスは海斗が入った場所である国の転移魔法陣の前に開かれた。


 転移魔法陣の前には人だかりができている。その中の一人があっと声を上げて、海斗のことを指差した。


「【人徳】小林海斗が戻ってきたぞ!」


 人だかりが目を光らせて一斉に海斗の周りに押し寄せる。


「海斗さん!残りの著名人たちはどこに!?」


「海斗!七つの大罪を倒したというのは本当か?」


「海斗さん!隣の【水帝】とはどういった関係ですか?」


 海斗は群がる人々の中から見知った顔を見つけて、話しかける。


「おい!【新聞王】カモンヌ、君もアイテムボックスの中に入ったらいいじゃないか!」


 鳥の頭をした奇妙な男はその申し出を断った。


「馬鹿野郎!海斗!俺は生粋のジャーナリストだぞ!取材が一番に決まってるだろ!」


 海斗は笑いながら告げる。


「七つの大罪を倒したのは本当だよ。今から【魔王】カルラとの不可侵条約を結ぶ予定だ。みんなニュースを楽しみに待っていてくれ」


 そう言うと黒いドレスに身を包んだ【魔王】がアイテムボックスから出てくる。人だかりの視線がカルラに集まった。海斗はカルラの腕を取り、王城へと向かった。


 慌ててウェンズデイがカルラと逆の海斗の腕を組む。三人は街の景色を楽しみながらゆっくりと王城に向かって言った。


 王城にたどり着くと門番が海斗達に気づく。


「海斗さん!お疲れ様です!新聞見ましたよ。色々大変そうですね」


「ありがとう。エリック。でもお陰様で肩の荷が降りた心地だよ」


 海斗は門番の肩をポンッと叩き、王城の中に入っていった。王城の中で海斗は知り合い達に挨拶をしていく。


「あら、海斗。レディを侍らせてどこへ?」


「ああ、国王様のところへ」


 貴婦人は眉を顰めて言う。


「あの愚王のもとへ?あっ、聞かなかったことにしてくださる?」


 海斗は苦笑しながら、貴婦人に返答し、王の間へとたどり着いた。


「だから、そんなことしたら国が滅びます!」


 王の間から女の声が漏れる。


「失礼します!」


 そう言って海斗が扉を開けると、そこには言い争っている国王と姫が居た。


「だから、ワシが国王なんじゃからワシがすべてじゃ!」


「そんな横暴通りません!」


 初老の白い髭を蓄えた国王は顔を真っ赤にして姫に怒鳴りつける。ピンクのドレスを着てくりっとした瞳で王を睨む美しい姫は必死に何かを王に訴えていた。


「【人徳】小林海斗の国外追放なんてありえません!」


 海斗は思わず目を見開く、どういう流れでそうなったのか訳がわからなかった。海斗達がドアの前で固まっていると、国王が海斗に気づいた。


「貴様は小林海斗だな!」


 ぎろりと国王は海斗達を睥睨した。国王は椅子の上に座り、大儀そうにしていた。肘掛けに左手を乗せ、右手で蓄えた顎髭を撫ぜていた。


「いかにも私が小林海斗です。なぜ私を国外追放にするのでしょうか?」


「貴様が【魔王】と結託して、この国を滅ぼそうとしているという情報がワシの耳に入ったからじゃ!」


「私が...ですか?」


「そうじゃ!さてはお主の隣にいるのは魔王じゃな?」


「ええ、今日は不可侵条約の締結を行うために彼女を参らせました」


「不可侵条約じゃと?ならんならん!ワシが求めてるのは抹殺じゃ!」


 海斗は思わず言葉を失った。子供のように腕を振り回して暴れる国王は常軌を逸していた。姫がひたすらに国王を宥めようとするが、国王は聞く耳をもたない。


「【勇者】はどこじゃあ!早く【魔王】を討伐せんかぁ!」


「海斗様、申し訳ございません。今日のところはお引き取りを」


 姫は必死になって頭を下げた。それを海斗が止める。


「いや、姫様が謝ることはない。それに手はもう既に打ってある」


 海斗はアイテムボックスからとある機械を取り出した。それは勇者パーティーに入る以前【叡智】、【全能】、【創造】の三人にお願いしていたものだった。それはプロジェクターであり、海斗はアイテムボックスから机を取り出すと、プロジェクターをその上に乗せた。


「一体何をしておる!?」


 国王が立ち上がり、カンカンに怒った。海斗が告げる。


「国王様!あなたが魔王を抹殺するという意見、是非とも他の王達にも聞かせてあげてください!」


 海斗がそう言うとプロジェクターに五人の顔が映った。一人はこの国の王である初老の男。後の四人は他の国の王達であった。


 海斗が声を張り上げる。

「皆さま!本日はお時間いただき誠にありがとうございます!この会議はリアルタイムで行われていますので、何か意見のある方はご遠慮なくお申し付けください!」


 四人の王が拍手をする。国王はまだ状況を飲み込めていないようだ。プロジェクターを睨みつけて、音の出どころを探している。


 神聖国ビームの教皇であるフランシスが海斗に感謝の意を伝える。


「海斗君、今回はこのような席を用意してくれてありがとう」


海斗は跪いて答える。


「もったいないお言葉です。閣下」


 機械国ギアの国王ギア・フレーム・三世が海斗に吃りながら労いの言葉をかける。


「か、海斗君!こ、この機械すごいね」


「ありがとうございます、ギア陛下」


「それで話というのは魔王との不可侵条約のことだろう?」


 軍事国ドーツイの統帥であるサルートが海斗に問いかける。


「左様でございます」


 帝国アルフリードの皇帝フルール・ド・ジェシカは頷いて海斗を誉める。


「此度の七つの大罪討伐、並びに魔王の封印解除、大儀であったな海斗よ」


「これはひとえに仲間のおかげであります」


 姫が揃った五大国のトップ達をスクリーン上で見て、唾を飲み込んだ。全員、姿は隠されていて黒い影になっているが、声からの威圧感は姫を息苦しくさせた。国王は不用意な発言はまずいと理解したのか、顔を赤くして、肘掛けに爪を立てて大人しくしている。


 海斗が場を取り仕切る。


「さて、それでは本題に入りましょう!魔王との不可侵条約の締結に人類代表として小林海斗が申し出ます。意義のある方はいらっしゃいますか?」


「異議なし」

「い、異議なし」

「異議なしだ」

「異議なしである」

「異議ありじゃ!」


 国王は息巻いてそう叫んだ。場が沈黙に包まれる。姫の顔は見ていられないくらい真っ青だった。


「ワシはこやつの代わりに【勇者】東堂春樹を指名する!」


「【勇者】?」

「せ、【聖女】なら知ってるけど、【勇者】って何?」

「?」

「だれぞ、東堂春樹なる者は?」


 国王は湯だったトマトのような顔をして国王達に呼びかける。


「【勇者】とは我が国が誇る勇者召喚で呼び寄せた最強の強者じゃ!」


 国王達がざわめく。


「あの人権無視の勇者召喚か」

「まだあんな悪習を続けておるのか」

「せめてその勇者とやらの顔は見れんのか?」


 国王はその言葉に光明を得たと言わんばかりの顔つきで食いついた。


「急な会議のせいで都合がつかなかったんじゃ!そうじゃ!今回は会議を延期にしよう!延期じゃ延期!」


「いえ、国王様。【勇者】東堂春樹ならすぐそこにおられます」


「なに!?」


「そうだよな、春樹。王の間に入ってこいよ。僕のこと尾行してたのはとっくの昔に気づいてるからな」


 海斗がそう言うと、観念したかのように王の間の扉がギィと音を立てて開いた。そこには体調の悪そうな【勇者】東堂春樹と【聖女】フレシアがいた。


「な、なあ、海斗。ちょっと話をしないか?」


 春樹はおずおずと海斗に告げた。フレシアが一縷の望みに託したような声で海斗に縋り付く。


「お願いですから、パーティーに戻ってきてください!海斗さん!」


「二人とも、今はそんなレベルの話してないよ」


 軍事国ドーツイの総帥サルートが刺々しい口調で言った。


「そこの情けない男が【勇者】東堂春樹か?」


帝国アルフリードの皇帝フルール・ド・ジェシカが鼻で笑う。


「フンッ!人類代表の誰がふさわしいかは一目瞭然だな」


 国王は失望した目で春樹を見下ろす。


「エスポワール王国カーバよ。人類代表に誰を推薦するといいましたか?」


 神聖国ビームの教皇フランシスが国王に詰め寄った。  


「く、くそ!小林海斗だ!」


 国王は悔しそうに顔を歪ませた。

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