大罪達
幼女が顔を真っ赤にして怒る。
「リュークは黙ってなさい!」
「あの、良かったら普通の喋り方で大丈夫だよ」
「え?ほんと?じゃあ遠慮なく...」
海斗は改めて幼女を見つめる。幼女はあどけない顔立ちだったが、チラリと見せる眼光はそこらへんの大人よりも鋭いものだった。海斗が言葉を紡ぐ。
「それで今回来た理由っていうのは、【魔王】との領土問題についてなんだ」
「それか〜。こっちもこっちで大変なんだよね」
幼女は額をパチッと叩く。
「先代の【勇者】に父様が倒されてから、妾ってば舐められまくりでさ、七つの大罪の手で妾封印されちゃったんだよね」
【交渉人】ベイクが話に入り込む。
「【魔王】様、その点は承知しております。なので今回【封印】シールを連れてきました。この者の力を以ってして封印を解いて頂こうと思います」
「ありがと〜。でも封印解いたところで七つの大罪を倒さないとまた封印されちゃうだけだよ」
海斗が言った。
「それに関して、七つの大罪はこっちで討伐させてもらうよ」
「ほんとに討伐できるの〜?あいつらめちゃんこ強いよ」
「大丈夫。こっちの方が強いから」
海斗は確信をもってそういった。
「じゃあ封印を解いて、この後大罪達を討伐しにいこうかな」
「この後行くの!?」
「うん、多分大丈夫だと思う。じゃあシールよろしく」
シールはこくんと頷いた。幼女にシールが手をかざす。シールが身に纏っていた包帯が解けた。その解けた包帯の裏にはびっしりと金色の文字が刻まれていた。
シールの目が金色に光る。魔王はその輝きに魅入られているようだ。シールと魔王の周りの空間が歪み、二人が空間の歪みに囚われると、バチンッと音を立てて、空間の歪みから大人に成長した【魔王】が出てきた。
「よっしゃあ!封印解除!シャバの空気だ〜」
「じゃあ、これで僕たちは帰るね」
「ちょちょちょ、ちょっと待った!」
海斗達が振り返ると、抜群のプロポーションをした魔王が胸をガッツリ開けた黒のドレスを着て、海斗達を呼び止めていた。
「妾もついていくぞ」
「おっけー、じゃあ帰りはアイテムボックス内に入ってもらおうか」
海斗が時空の裂け目を作り出すと、魔王はアイテムボックス内に入っていった。そこではまだパーティーを続けている様子だった。魔王はそうそうたる面子を見て絶句する。
「あれはもしや【剣神】ではないか?あそこにいるのは【虹帝】!?【一撃】もいるし【全能】もいるじゃん!」
魔王は口をあんぐりと開けた。
「この集団を海斗が束ねているのか?」
「まぁ、成り行きでね」
「いやいや、海斗半端ないって。この面子が揃ったら星一つ簡単に落とせるでしょ...」
魔王はドン引きしながらそう告げた。
舞台の上では、パーティーの参加者が各々一発芸を披露した。【剣神】ガーフィールがアボカドを持って壇上に上がる。
机の上にアボカドを置いて居合の構えをした。ガーフィールは目を瞑り、ふーっと息を吐いた。そして目にも止まらぬ速さで刀を振り抜いた。
アボカドは切られていないようだった。皆が失敗かと思ったが、ガーフィールは【神喰】のエーデルハイムにアボカドを投げ渡すと、エーデルハイムはアボカドを割った。
そこには種だけ切られたアボカドの姿があった。
観客はその絶技に大盛り上がりだった。
海斗は【魔人】リュークに七つの大罪の特徴を聞く。
「やばいのは【怠惰】ゴルフェゴーラ。厄介なのは【嫉妬】サディ。腕っ節が強いのは【強欲】グリード。配下が強いのは【色欲】リリス。タイマンは【傲慢】ライオ。成長するのが【憤怒】ラース。無尽蔵なのは【暴食】グラトニーヌだ。そして【魔王】の名前はカルラだ。
どいつから行く?」
「全員同時に行こう」
「えええええええええええ!」
カルラが顎を限界まで下に落とし、叫んだ。リュークはその言葉に目を見開く。
「ははっ!相変わらずイカれてんな」
バシッとリュークは海斗の肩を叩いた。
「いやいや、いっぺんには流石に無理だって海斗〜!」
カルラが海斗にしがみつく。海斗は苦笑いしながらカルラを引き剥がした。
海斗は壇上に立って告げる。
「皆!これから七つの大罪を討伐しに行く!討伐メンバーを発表するぞ!【怠惰】ゴルフェゴーラにはうちの最高戦力【一撃】ワッパに行ってもらう」
ワッパは力強く片手を上げてマントを翻す。拍手が巻き起こる。
「【嫉妬】サディには【歌姫】アリーナと【迷彩】ステューシー!」
「え!?私!?」
頭に羽をつけた目のパッチリとした美しい女が困惑の声を上げた。
「【強欲】グリードには最強の一角【剣神】ガーフィール!」
ガーフィールは静かに頷く。
「【傲慢】ライオには【激烈根性男】加藤鉄平!」
モヒカンに白いはちまきをして学生服を着崩した男が返事をした。
「押忍!」
「【色欲】リリスはこちらも最強格【虹帝】神山・アルフ・スペース・ハクス・ヒーロー・パクワラ・カケル!」
虹色の瞳をした優男が仄かに笑う。
「【憤怒】ラースには【村人】ポッカ!」
農民の格好をした男が拳を突き上げた。
「よっしゃあ!」
「【暴食】グラトニーヌは【人徳】小林海斗と【魔王】カルラと仲間達で迎え撃つ!」
全員が歓声をあげた。
「それじゃあ、早速行くぞ!飲み残した酒はないな?よし!転移魔法陣!魔界へ!」
海斗が魔界へ転移すると、そこには七人の魔族が既に待ち構えていた。全員が海斗に向かって攻撃を仕掛ける。
「まずい!【反射】リング」
アイテムボックスから人の手首を掴んで引っ張り出した。
出てきたのは【反射】リングで攻撃を全て跳ね返した。
「みんな、出て来い!」
アイテムボックスからゾロゾロと人が出てきたのを見て、七人の魔族は作戦を変えたのか、全員バラバラに散っていった。
海斗と魔王はぶくぶくと太った緑色の肌をしたスキンヘッドの男を追う。【百蓮】のメンバーは各々標的を追って行った。
男は魔界の紫色をした地面の荒野で止まった。巨大な満月が魔界を照らしている。
「お前が【荷物運び】小林海斗か?」
「ああそうだ。【暴食】グラトニーヌ」
「そして、隣にいるのは魔王か。みっともなく人に降るとは情けない」
「妾はこれからの魔界を考えて行動しているだけだ」
「まあいい。俺はお前らのような人間を腹一杯になるまで食い漁って来た」
男が両手を前に突きつける。
「物量の差というものを見せてやる。無限の軍勢!」
男のでっぷりとした腹からモンスターが次々と出て増殖する。あっという間に荒野はモンスターで埋め尽くされた。その全モンスターが海斗達に襲い掛かる。
「アイテムボックス!」
海斗がそう宣言すると、時空の裂け目ができてそこから八十人くらいの人が出てきた。
男が口をポカンと開ける。
「は?」
出てきた八十人の精鋭は次々とモンスターを倒した。荒野がきれいさっぱり掃除されると、【魔王】カルラが男の心臓を貫いた。
「ば、バカな。こんなことありえな、、」
そう言うと男は絶命した。
「カルラ、生かしとかなくてもよかったのか?」
「うん、こいつは快楽で人間界に降りて人を殺戮してたから」
海斗はアイテムボックスに全員をもどして、【怠惰】ゴルフェゴーラの元に向かった。
〜【嫉妬】サディ対【歌姫】アリーナ【迷彩】ステューシー〜
【嫉妬】サディはボサボサの長い髪の隙間からアリーナを睨みつけた。
「あ、あ、あなた。素敵な顔してるわね」
「ありがとう。貴方も素敵な顔を出したらいいのに」
「ひっ!あなた、私のことを馬鹿にしてるの?」
「え?してないよ」
女は血走った目で裸足のまま地面に転がる足をアリーナに向かって蹴り飛ばした。
「言っておくけど、私の能力【嫉妬】であなたができることなら私にもできるんだからね」
「嘘!?それじゃあ一緒に歌いましょ!」
そういってアリーナは歌い出した。最初はアリーナの歌声に眉を顰めていたが、サディは【嫉妬】を発動し、アリーナの歌声を真似る。
アリーナはサディが歌い出したことを察知すると、人間界でも魔界でもヒットしている伝統的な歌をサディと歌った。サディはアリーナの常人離れした歌のテクニックの必死でついていった。
アリーナがサディにハモる。その瞬間サディは歌うことの楽しさを感じた。思わず、サディが笑う。
「ふ、ふふっ」
アリーナが得意げに告げる。
「歌うのって楽しいでしょ?」
「そっ、そうね。あ、この曲知ってる?魔界で流行ってるんだけど...」
【迷彩】ステューシーが透明化を解除して、アリーナに歩み寄った。
「ちょっと!アリーナさん、何やってるんですか。大罪を倒さないと」
「え?別に倒さなくても友達になれば良くない?この子悪い子には見えないし」
「わ、わたし、人とか殺したことない」
「ほらね?私たちはもう友達ね!」
「う、うん!」
ステューシーは頭を抱えた。
(海斗くん、これで良いのかい?)
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