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【人徳】小林海斗

「君をパーティーから追放させてもらう」


 ギルドの酒場で【勇者】東堂春樹は【荷物運び】小林海斗に向かってそう言った。【聖女】フレシアが反駁する。


「なっ!一体どうしてですか!?」


「どうしたもこうしたもない。海斗が僕たちの足を引っ張っているからだ」


【覇者】遠塚桃が欠伸をしながら言う。


「確かに海斗は弱っちぃな」


 春樹は告げる。


「海斗。君ができることはなんだ。戦闘中はポーションを投げ渡したり、しょうもない相手の妨害をするだけ。君一人で何かを成し得たことはあるのか」


「それは君の我儘で【アイテムボックス】を圧迫するから」


【荷物持ち】小林海斗は言い返す。


 海斗のアイテムボックスには万が一の為と言う春樹の言い分で二十年分の物資が詰め込まれていた。その為荷物持ちの真骨頂であるアイテムボックス闘法が出来なかったのだ。


「そんな言い訳が聞きたいわけじゃないんだ。はっきり言って君はお荷物なんだ。君の代わりに【戦士】が一人でもいれば、もっと楽にダンジョンを攻略できる」


 フレシアがたまりかねたように言う。


「ちょっと待ってください!海斗さんは自分の仕事をはっきりとこなしてるじゃありませんか!」


「その仕事が不十分だと俺は言っているんだ!」


 春樹は机を叩く。


 海斗の心は限界だった。これまで勇者パーティーの為を思って黒子に徹してきたつもりだった。他パーティーとの協力だったり、商人との交渉だったり、ギルドとの交流だったりを春樹たちの為を思ってやってきた。


 それがまさかボロ雑巾を捨てるかのように捨てられる日が来るなんて。


「もういい。分かった。僕が辞めればいいんだろ」


 フレシアが止める。


「待ってください!もう一度話を!」


「ねみぃから、辞めるならさっさと辞めろよ」


 そう桃が言う。


「今までお世話になりました」


 海斗は頭を下げた。


「じゃあな、役立たず」


 そう言うと春樹はフレシアと桃を連れてギルドの掲示板の前に立った。


「今からパーティーメンバーの募集を行う!戦士レベル六十以上の者は立候補してほしい」


 ギルドの喧騒が一瞬止んだ。しかし、すぐに元の喧騒に包まれる。ギルドメンバーの会話が春樹の耳に入ってきた。


「レベル六十の戦士なんてもうパーティーに組み込まれてるよ」


「馬鹿だなぁ。そもそもいたとしてもレベル五十が関の山だろ」


 春樹は顔を真っ赤にして訴えかける。


「レベル五十でもいい!誰か勇者パーティーに加わりたい者はいるか!?」


 ギルド中に春樹の声が響き渡るが、誰の耳にも止まらない。


 その横で海斗が、か細い声で言った。


「パーティーメンバー募集します。誰でもいいです。応募者が多い場合は一月後に面接します」


 ギルドが水を打ったように静まり返った。次の瞬間ギルドの熱気が凝縮して爆発する。


「うおおおおお!嘘だろ?【ポーター】の小林海斗がパーティーメンバー募集だってよ!」


「マジかよ。あの【伝説】の小林海斗がパーティーメンバー募集だと!?」


「うわ!俺立候補しようかな」


「おい馬鹿辞めとけ!虚しくなるだけだぞ!」


「ちょっと待ってください!取材させてください!」


 小林海斗のパーティーメンバー募集は世界新聞に載り一週間で全世界に伝わった。


「は?なにこれ」


 春樹の呆気に取られた表情が海斗を映す写真の背景に映った。


〜とある吸血鬼の王城にて〜


「へっ!陛下ぁ!大変です!」


 小太りの男が新聞を握りしめて廊下を走り、扉を開けた。


 黒い巨大な椅子に座っている白髪の赤い目をした男が顔を顰める。


「騒がしいぞ。セバス。一体どうしたんだ?」


「あの【救世主】小林海斗がパーティーメンバーを募集しました!」


「何!?」


 男は飛び上がって目を見開いた。


〜とある剣の秘境にて〜


「た、た、大変です!剣帝様ぁぁ!」


 小柄な青年が新聞を握りしめて道場の襖を開いた。


 素振りをしていた男たちが手を止める。


「一体何事だ」


 小柄な青年が息を整えて告げる。


「【麒麟児】の小林海斗がパーティーメンバーを募集しました!」


 その言葉に剣帝と呼ばれる男たちはざわついた。


「それは誠か!?」


「何、ようやくワシの力を発揮する時が来たわい」


「拙者が!申し込むでござる!」


「待てよ。剣神様が黙ってないぞ」


 道場の奥の襖が開いた。


「おう、雑魚ども。誰が小林海斗のパーティーメンバーに応募するって?」


 【剣神】ガーフィールが威圧すると、剣帝達は素早く地面に伏せた。


「待ってろよ。小林海斗」


 ガーフィールは獲物を見つけた目で下界を睨んだ。


〜とある魔法大国の円卓にて〜


 新聞を握りしめた眼鏡をかけた少女が走る。


「魔女の皆様!大変です!」


 少女は勢いよく扉を開けた。円卓に座る魔女達の視線が集まる。


 魔法使いの帽子を被った魔女が眼鏡をかけた少女を睨む。


「あなた今がサバト中だと知ってての狼藉かしら。大したことない事情ならどうなるか分かってるでしょうね」


 少女は一瞬ウッとなったが、魔女達に向かって声を張り上げた。


「【偉材】小林海斗がパーティーメンバーを募集しました!」


 魔女達の時が止まる。誰かがポトっとペンを落として、その音で皆正気に戻った。


「ここは【深紅】のベアトリーチェに任せてもらおう」


「雑魚は黙っときなさい。【転移】のフルルード・ルシアが行くわ」


 扉から一番離れた円卓に座っていた女がコトッとペンを置いた。その音で魔女たちは静まり返る。


「【全能】アウラ・デウス・マキナが行く。異論は?」


 魔女達が下を向く。中には悔しそうに顔を歪める魔女もいた。


 小林海斗のパーティーメンバー募集は隣の国から魔界まで全世界津々浦々に広まった。一月後ヴァルドミール王国の転移魔法陣の前には人だかりができていた。


 そこには各界の著名人達が小林海斗のパーティーメンバー募集に応募していた。海斗はあまりの数の応募に呆然とし、見知った顔が現れると感動して目頭を抑えた。


「おいっ!海斗!久しぶりだな」


 人混みを割って白髪で赤い目をしたヴァンパイアの【晩王】ヴラトが海斗に声をかけた。海斗はヴラトと力強い握手をして応える。


「久しぶりだな、ヴラト。人狼戦以来か?」


「あぁ、そうだな。お前が締結してくれた不可侵条約のお陰でお互い平和に生きてるぞ」


「それは良かった!」


「今日はあの日の恩を返しに来たぞ。まさか俺を落とすとは言わないよな?」


 ヴラトが海斗に詰め寄ると海斗は答えに窮した。


 人混みを割ってまた人が現れる。


「おっ!おい!あれは【剣神】ガーフィールじゃないか?」


 どよめきの中から自然に道ができ、中からサムライの格好をした目つきの悪いちょんまげの男が出てきた。


「小林海斗。久しいな」


「ガーフィール!来てくれたのか!」


 海斗は破顔する。


「先代との決闘以来だな。寂しかったぞ」


 ガーフィールは朴訥に語る。海斗はガーフィールを抱きしめた。


「あの時は大変だったな。その後は問題なかったか?」


「ああ、小林海斗が届けてくれた物資のおかげで飢えていた民は消えた」


「そうか、なら良かったよ!」


「おいっ!見ろあれ!」


 群衆が再び騒めきだす。群衆の中から抜群のプロポーションの魔女が現れた。魔女は長いまつ毛で海斗を見つめる。


「【全能】アウラ・デウス・マキナだ!」


「会いたかったわ。海斗」


「アウラ!久しぶり」


 そう言って海斗は手を出した。


「あら、私とはハグしてくれないわけね」


 丈一はまたもや答えに窮する。


「勘弁してくれよ、アウラ」


 その他にも様々な著名人が現れた。裏世界のボスから、聖騎士団団長まで世界中から小林海斗のパーティーメンバー募集に応じた。


 海斗は一人一人丁寧に対応していく。これだけの数の著名人がパーティーメンバー募集に応じたのはひとえに海斗の人徳があってこそだった。


 誰かが呟いた。


「【人徳】の小林海斗」


 海斗が声を張り上げた。


「さあ、皆んな。面接は僕のアイテムボックス内で行う!どんどん入ってくれ!」


 民衆はどよめく。


「あれが去年の飢饉で隣国の一万人を救った【アイテムボックス】か」


「すげぇ。人がどんどん飲み込まれていくぞ」


 それを見ていた【勇者】東堂春樹は唖然とする。出てくる面子すべてが春樹の十倍以上の実力の持ち主だった。


 【聖女】フレシアが頭を抱える。


「ああ、もう!だから言ったのに!」


 春樹がボソリと告げる。


「俺達の人徳を返してくれ」

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