4.BLUE
「ねえ! あのメール、嘘だよね? りっちゃんが自殺しただなんて!」
部屋に飛び込んでくるなり、赤羽ユイが開口一番にそう叫んだ。部屋にはマネージャーと青海ナナがいたが、二人とも何も語らない。ただ、暗い顔をしてうつむいているだけだった。
「ねえ!」
赤羽ユイが、メールを送ってきたマネージャーにつかみかかる。
「ユイ……」
青海ナナが、優しく赤羽ユイを制した。
「リオだったみたいなの、……犯人」
「……うそ……」
マネージャーが青海ナナの言葉を継いで話す。
「今日ね、連絡が取れなくて、リオちゃんのマンションの管理会社に連絡して中に入れてもらったのよ。そしたら……ドアノブに縄をかけて首を吊っていたの。バスローブ姿でね。さっき警察から連絡があって、バスルームから血のついたスカーフが二枚出てきたって。照合したら、イチカちゃんとヒナノちゃんの血液と一致したって……」
「うそ! 絶対、そんなことない! 嘘よ!」
耳を塞いで泣き崩れる赤羽ユイを横目に、青海ナナはマネージャーに尋ねた。
「遺書はあったの?」
「……いいえ」
「リオは、バスローブ姿で死んでいたって言っていたけれど」
「ええ。髪も乾かす前のようで、ぼさぼさに乱れていたわ」
「それ、おかしいよ。自分の美に絶対の自信と誇りを持っていた完璧主義のリオが、そんな姿で自殺するなんてあるかな? 自殺するなら、身なりも場所も完璧に整えた上ですると思うけれど」
「それじゃ……なっちゃんは、りっちゃんも誰かに殺されたって言うの?」
マネージャーと青海ナナの話を聞いていた赤羽ユイが泣き腫らした目を向ける。
「それじゃ、いっちゃんとひぃちゃんを殺した人が、りっちゃんに罪をなすりつけようと……?」
「さあ? でも……もしもそうだとすると、犯人は……」
「とにかく、今日はこの部屋から一歩も出ないで。この部屋にベッドを用意させるから、ここでしばらく寝泊りしてちょうだい」
桃瀬リオの死体を見ているだけに殺人の話に耐えられなかったのか、青海ナナと赤羽ユイの話を遮るようにそう告げてどこかへ電話をし出した。
「あら、おかしいわね」
「どうしたの?」
「電波が悪いみたい。ちょっと外に出るわね。すぐ戻るから」
そう言うとマネージャーは外に出て行き、念入りに外から鍵をかけられてしまった。
「この部屋から出るなってことね」
ここまで精神的にみんなを支えてきたお姉さんキャラの青海ナナも、さすがに憔悴しきった様子でソファにもたれかかった。
「もし、そうだとすると、のあとは?」
赤羽ユイの問いかけに、青海ナナは起き上がった。
「なっちゃんは、犯人に心当たりがあるの?」
「……わからない。でも、リオが自殺したっていうのは信じられない」
「いっちゃんとひぃちゃんのことは? やっぱり、誰かが罪をなすりつけるために、犯行に使ったスカーフをバスルームに置いたのかな」
「……リオならできちゃうんだよね。イチカとヒナノを殺すこと」
「どうして? 女性には無理だって言ってたよね? 共犯者がいたってこと?」
「リオ、元男性だから」
「え……っ」
「社長は当然知っているだろうけど、マネージャーもたぶん知らないと思う。私は、たまたま着替えているところを見てしまって知ったの」
「それじゃあ、本当にりっちゃんがいっちゃんとひぃちゃんを……? なんで! 喧嘩することもあるけど、みんな仲良しだったのに!」
「お金のため、じゃないかな。……悲しいけれど。みんな、それぞれに理由抱えていて、お金に困っているみたいだったから。ユイだって、おばあさんの病気を治すために多額の手術費が必要なんだよね?」
「うん。私、おばあちゃん子だったから、なんとかおばあちゃんの病気を治してあげたいの。なっちゃんも、お金に困っているの?」
「そうね。弟がね、よくないところに借金しちゃってね。ヤクザに追われているみたいなの」
「なっちゃんって、姉弟二人で生活しているって言ってたよね?」
「うん。うちは、幼い頃に両親を亡くしているからね。親戚付き合いもなかったみたいだし」
「……本当だ。このグループ、みんなお金に困っているんだね」
泣いているとも笑っているともつかない様子で、赤羽ユイは項垂れた。
「……なっちゃんじゃ、ないよね?」
「え?」
「三人を殺したの、違うよね?」
「当たり前じゃない。お金のために、みんなを殺そうだなんて思わないわ」
「……もう、嫌だよ。こんなの。もう、二人しかいないし。センターなんか意味ないよ」
「そうね。だからきっと、もう誰も死ぬことなんかないわ。私たちを殺したって意味なんかないんだもの」
「なっちゃん……」
大粒の涙を流しながら赤羽ユイが顔を上げた。その泣き腫らしたあどけない表情に堪らない感情が青海ナナに押し寄せてくる。青海ナナは、思わず赤羽ユイを抱きしめた。
――次の瞬間。
青海ナナは声が出せなかった。開いた口からは大量の血液が溢れてくる。背中が熱い。
倒れ込んだ青海ナナの虚ろな視線の先には、可愛い顔で泣き笑う赤羽ユイの姿があった。