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3.PINK




 今回は警察も動いたことにより、浅黄ヒナノが山中で殺されたことは世間の知るところとなった。そのため、隠してきた緑川イチカの死も広く知られ、テレビにネットニュースに新聞にと……、一大スキャンダルとして報じられるようになってしまった。




「……っ、もう無理!」


 事務所の一室に、『COLORS-カラーズ-』の生き残りの三人とマネージャーが集まっていた。この日も仕事の予定だったが、マスコミが騒がしいためにすべての予定をキャンセルせずにはいられなかった。


「なんで……なんでよ! いっちゃんもひぃちゃんも、なんで殺されないといけないの……っ」


 両手で顔を覆いながら泣き崩れる赤羽ユイの肩を、マネージャーが優しく抱きしめた。


「同じ犯人なのかな、やっぱり……」

「同じ手口らしいからね、たぶん」


 青海ナナの問いかけに桃瀬リオが答える。


「でも、もう大丈夫よ。もう誰も殺させたりしないから。みんなで一緒にいれば……」

「社長がいけないのよ! センターだけを優遇しようとするから!」


 マネージャーの言葉を遮るように、赤羽ユイがしゃくり上げながら叫んだ。

 そこで、はっとした。

 そうだ。犯人は外部の人間と決まったわけではないのだ。

 内部の人間……残った他の三人のメンバーかもしれないし、もしかしたら、赤羽ユイの言うようにあの話を持ち出した社長の可能性もある。女性に難しい犯行であると言うのならばなおさらだ。

 しばらく考えていた青海ナナがふるふると首を振る。


「社長が私たちを消して、何の得があるのよ」

「でも、私たちがセンターを競っていることはみんな知っている。推しにセンターを取らせるためにファンの誰かがやったのかも」


 桃瀬リオの言葉に、


「誰かが死んじゃったら、センターも何もないでしょ!」


 赤羽ユイが泣き腫らした目で訴える。桃瀬リオはそれには答えず、ソファに置いていたバッグを手に取った。


「……リオ?」

「帰るわ」


 不安げに見つめる青海ナナに、桃瀬リオは一言告げて扉に手をかける。


「待って!」


 それを見たマネージャーが止めた。


「一人でいるのは危険よ。みんなでいましょう」

「……ここに犯人がいるかもしれないのに?」

「ええ、それでもよ」

「……」

「たとえ……たとえばよ? ここに本当に犯人がいるとしたって、みんなでいる時に襲ったりできないでしょ? だから、みんなでいましょう。今、一人になったらダメよ」

「犯人が一人とは限らないじゃない。女性に無理とされている犯行だって、二人がかりなら可能かもしれないでしょ?」


 そう言われては、マネージャーも継ぐ言葉が見つからない。そのまま、桃瀬リオは部屋を出て行ってしまった。




 ある高層マンションの一室が桃瀬リオの自宅だ。そこは、暗証番号、指紋認証、虹彩認証の三重ロックをクリアしないと自室に辿り着けないというセキュリティの高さを誇っている。

 自宅に着くなり、桃瀬リオはバスルームに直行した。バスタブに湯を張り、服をすべて脱ぎ捨てる。バスルームに設置された等身大の鏡の前に立ち、全身を隈なく見つめた。

 整った顔立ち、細くしなやかに伸びた手足、豊満な胸、細い腰つき……すべてが完璧に見えた。ただ、一部を除いては。

 形のよい臍の下にぶら下がっているもの。これさえなかったなら、「彼女」は完璧な存在になれるのだ。


「お金が必要なのよ。完璧な体を手に入れるために。あと少しなのよ。あと少しで、私は本物の女になれるの。誰にも邪魔はさせないわ……!」


 バスルームの片隅に置かれた(たらい)に目を向ける。その中にはスカーフが二枚。白っぽいスカーフには、錆びちゃけたような赤黒いシミが浮かんでいた。




 ちょうどバスルームから出た時にインターホンが鳴った。

 モニターを見て訪問者を確認した桃瀬リオは、髪の毛から滴る水をバスタオルでふき取りながら、


「ロックを解除したから上がってきて」


 モニター越しに訪問者にそう告げたのだった。


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