特殊能力
真道さぁん!
杏梨が眠りについたことを見届け
座席を倒し毛布をかける。
目線は杏梨に向けているが意識は青年に向けていた。
奴は動いていない、ただ少し辺りを見渡している。
桜野さんを探しているのかもしれない。
「このまま帰ってくれないかなぁ、帰ってくれないよねぇ…」
そう呟くと諦めたように運転席のドアを開ける。
鍵をかけて杏梨の安全も確保しておく。
ゆっくりと青年に近づいていく。距離は10mほど。
青年はおや?というように片眉をあげている。
「なぜ近づいて来られる?…とでも思っている?」
ニコッと笑いかけると青年はさらに顔を強張らせた。
「おーおー、そんなに顔を歪ませて怖いよ?」
フフフッと肩を震わせて下を向きながら笑う真道。
青年は強張らせた顔をそのままに口を動かす。
「貴方なんなんですか?変な人ですね…警察でも呼びましょうか?」
あと2m、というところで真道が止まる。
青年はスマホを取り出そうとポケットに手をやる。
「なあ」
「なに…」
【動くな】
目が合った瞬間に青年の身体が硬直。ポケットに手を突っ込んだまま、何も動けない。呼吸はできる、だが手足がまるで棒のように、自分のものではないように、感覚がなくなる…
「動きを止めるのは俺もできるんだよねぇ。まぁ君みたいにゾワゾワするやつじゃあないけど。杏梨ちゃんが可哀想だからね、仕返し♡」
「なん…で…」
「秘密だよ。君に教える義理はない」
ニコニコとしていた顔が一変、表情を消したその顔に青年は息を呑む。
真道は自分と目が合った対象の意思を奪い、そして命令することができる力がある。
この特殊能力は生まれつきの能力の副産物である。
【君は何しにここへ来た?】
「俺は…ただ…彼女に会いにきて…」
【彼女とは?】
「桜野…千春…」
【なぜお前が彼女の名前を知っている?】
「調べた…教えてもらったんだ…」
【誰に?】
「それは…ガァッ!」
急に胸を抑え苦しみだした。
身体から黒いモヤモヤしたものが大量に出てきている。
「口止めか」
黒いモヤが青年を覆うように広がるとさらに苦しみだす。
「ア゛ア゛ァ!!」
「させねーよ」
真道の左手がモヤを
殴った。
【散れや】
パァンと弾けるようにモヤモヤが消え、丸くなって倒れ込んでいる青年が見えた。気絶しているらしい。
人払いをしていたが間もなく人が集まってしまうだろう。めんどくさそうに青年をおぶって車へ向かうのだった。
真道さん、筋力はないのでヒイヒイ言いながら青年をおぶるのであった…。