ストーカー被害
この回はわりとシリアス…
「桜野さん、あなたのご依頼は?」
真道が問いかけると桜野はすこし躊躇いがちに下を向くが、すぐに顔をあげた。
「あのっ…実は私…ストーカーされてて…!警察にも…相談したのですが実害もないのでパトロール強化すると言われて終わってしまったんです…」
「それはつらいですね。具体的にはどんなストーカー被害でしょうか?尾行されるとか…?」
杏梨が優しく桜野に寄り添う。
「…はじめは目が合うなと思ったんです。20代…後半?くらいの男性で、170cmくらいでしょうか。普通の印象だったんです。お買い物をしてるとその方が目の前を通って……でもその一時間後にまたその人が目の前を通りました」
自分の震える体を抱きしめるようにして言葉を続ける。
「父の会社の事務員として働いているのですが…、会社終わりにビルを出るとその方がまた…いて…目があって会釈されたんです。」
「知り合い…ではないんですか?」
「全然知らない人です!!…会釈されて誰だろう、と考えたとき買い物で2度見かけた人だと気づいて…怖くてその場を逃げたんです」
会釈を返すことなく慌てて逃げたという桜野。
初めて見た日から2日しか経っていないのに会社前でまた会ったというのだ。しかも会釈をされたというのなら相手がこちらを認識しているということである。たしかに怖い。
それからというもの毎日ではないが、ランチをした日に別のテーブルにいたり、また会社終わりに見かけたという。
「気づいたんです……月曜、木曜、土曜日に見かけることを…。なので仕事はしますが…ビルの裏口に迎えをお願いしたり、土曜日はひきこもっていたり…。でも…」
声が震えている。
「でも…土曜日もいたんです!!家の…部屋の窓から見える外灯の下…!家も…知られてるんだって思ったらもう…怖くて…」
ついに涙が頬をつたい、声を押し殺している。
「…直接実害を与えてきていないから警察は動けず…か。」
真道は考え込む。
「桜野さん、あなたはどうしたいですか?」
「わ…私はストーカーをやめさせたいです!!」
杏梨が怪訝そうな顔をする。
「捕まえたいとかじゃないんですか?」
「…実害がないので捕まえられないじゃないですか…なので私に付きまとわなければそれで………」
杏梨が何か言いたそうな顔をしているが真道はそれを目で制した。
「分かりました。あなたのご依頼を受けましょう。杏梨、書類を準備して。手続きをしましょうか。」
真道は話をまとめ正式に依頼を受けた。
そして桜野が乗る車を見送り呟く。
「黒かぁ。結構やばいけどお嬢様だから金払いもいいし、やるかぁ」
「黒…あの桜野さんから見えたんですか?」
「いーや。あの車全体からも見えたよ。黒のオーラ。どす黒いねぇ…」
「全体…?それはどういう…」
「ま、これから探りましょ〜」
「…」
気になることは多いがやんわりと止めた真道にこれ以上聞くのは駄目だと諦めた。
杏梨はこれから何が起こるのか不安になっていたが、考えても怖いだけなのでお茶菓子をつまみ食いし気を紛らわせた。